17 創造神と悪魔と魔女と
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何故か国王陛下が、フルート奏者を集め始めた。私は笛関係が苦手なので、お呼びが掛からないけど、本当に貴賤なく人が集められている。
初めは皆、王宮に呼ばれることを喜んでいたけど、帰って来ない人が増えるにつけ不安が広がっている。
呼ばれれば、王宮でフルートを演奏して褒美を貰って帰るのが大半。実際うちの使用人も何人かお呼びがかかったが、全員無事に帰ってきた。
でも、人々の噂になる程度には帰って来ない人がいる。
こんな不穏な日々だけど、今日は月一回のお泊まり会の日、いつも通りお風呂に通されて、可愛らしいリラックスドレスを用意される。リラックスドレスというのは、人前に出ても多少許されるかな?というくらいのネグリジェだ。これを見るとやっぱり生贄の子羊の気分になってしまう。
「ごきげん麗しく……」
挨拶の言葉を最後まで聞いてくれず、抱き上げられるのもいつものこと。今はベッドで膝枕をさせられている。膝枕させられている側は手持ち無沙汰でしょうがない。仕方がないので、悪魔さんの頭を撫でてみると猫のように目を細めた。絹のような毛並みの良い黒猫さんだ。
「幸せだよ。ずっとこうしていたい。」
綺麗な顔と、ぞくっとする魅惑的な声。髪を無造作に散らして私の膝に寝転びながら、こんな事を言われると悪い気はしない。
「ねえ、ベルゼ様、フルート奏者を集めて何をされていますの?災害を治めるため神に祈るとは聞いていますけれど。」
機嫌が良さそうだし、今なら答えてくれるかもと気になっていた事を聞いてみる。
神ってここで寝っ転がってる悪魔さんか、最近またニヤニヤ笑いが増えたアルスよね。男二人でフルート聴いてどうするんだろう?と不思議だったのよ。
「うん。神に祈るというか、この宇宙の創造神に大人しくしてもらうためなんだ。」
おや?他にも神様がいるの??
「創造神?それはベルゼ様ではありませんの?」
「ふふ。そう思っていて貰いたいけれど、違うんだよ。私はこの星を整えただけ。この宇宙を作ったのは可愛くない赤ん坊だ。ここは地球の周りの宇宙とくっついているけど、元々は別宇宙でね。赤ん坊は宇宙を作ってというか、気まぐれに空間を散らかしてから寝てしまった。その散らかした状態がこの宇宙だよ。起きてまた散らかされたら大惨事だ。もしかしたら完全に壊れてなくなってしまうかも知れない。」
ええ!洪水の被害が地方の方で起こってるとは聴いてたし、地震がよく起こるなあとは思ってたけど、宇宙の危機だったの??でも、余りにスケールが大きすぎてピンとこない。
「そんな壮大なことになってたんですか?!」
「そうなんだ。ぐっすり寝ていてくれないと困るのに、少し眠りが浅くなったみたいでね。私の力だけでは止められなくて、仕方がないから赤ん坊のお気に入りの楽器を演奏してもらってるんだよ。」
「じゃあ、帰って来ない人たちは。」
「気配だけでも邪気が強すぎてね。おかしくなってしまうんだよ。次元を繋いでいるとはいえ、かなり遠いし、結界も張っているんだけど敏感な人間が思ったより多いんだね。今のところ死者はないから安心して。治療して人前に出せる程度になったら帰すよ。」
今、人前に出せない状態なのね。以前のジオルみたいな状態かしら?
でも、宇宙レベルの危機なら、悪魔さんのやり方を責めるのもどうかと思う。
「では、しばらくしたら地震や雨も収まって、フルート奏者も必要なくなるのですか?」
「うーん。今のところそれほど効果が出ていないんだ。もちろん、他の手も試しているんだよ。でも、もし効果がなくて、赤ん坊の眠りがこれ以上浅くなったら危険だから逃げる事も考えないとね……。リンダ、君はこの世界が好きだと言っていたね。」
そう言って悪魔さんは私の頬に手を伸ばす。
「ええ。好きですわ。」
「それなら出来るだけ国ごと連れて行くよ。でも、最優先は君と私だ。まず君を安全な所に逃すから、その時は素直に従っておくれ。君を逃さないと次の事ができないからね。」
頬をフニフニと揉まれる。暖かくて気持ち良い。
私、本当に愛されてるなあ。こんなにも愛されてるのにどうして最初の私はこの人を受け入れなかったんだろう?綺麗で強くて、感覚とか趣味はちょっとついていけない事もあるけど、嫌だと言ったら押し付けては来ないし……
そんな事を考えているとフルートの音が聞こえてきた。
ああ、頑張って宇宙の創造神を慰めているのね。と思った瞬間、フッと意識が飛んだ。
夢の中、私はフルートの音に導かれ、宇宙空間を落ちて行く。宇宙空間てふわふわ浮くのかと思っていたけど、違うのね。何かの重力に捕まったのか結構な力で引っ張られている。
進んでいくと満点の星の海だった周囲も、だんだん星が減ってきて暗くなっていく。更に引っ張られるまま、ずんずん進むと急に星が集まったような丸いゲートが現れた。直径3メートルくらいで、自転車のチューブのような形だ。
輝く自転車のチューブを潜ると今度は、緑色の光りが見え始める。ゆらゆらと光る緑は綺麗なのと同時にどことなく不吉で、落ち着かない気分にさせられる。
そして、その空間の最奥。おどろおどろしい黒い塊がびちゃびちゃと音を立てている。
「リンダ様!!いけません。リンダ様!!」
私は急に今までとは反対方向に引っ張られた。私の腕を強い力で掴んでいるのは……
「マデリーン?」
この物語のヒロイン、マデリーン伯爵令嬢だ。ヒロインなのに力強いのね。
「リンダ様を悩ませた夢はこれだったのですね。間に合って良かった。神をご覧になれば命はありません。本当に良かった。」
え?いや、もう見たけど、私死ぬの??
「ああ、でも、正気では居られないかも。大丈夫ですわ。必ず私がお守りします。夢の魔法の勉強をして、随分上達しましたわ。」
上昇しながらマデリーンはぎゅっと私を抱きしめてきた。腕を持たれるのは痛かったからありがたい。
でも、マデリーンの胸が当たるのちょっと恥ずかしい。うーん、ふわふわ。
「あ、そういえば私のために夢の魔法を調べてくれてたのよね。ありがとう。」
「お礼など必要ありませんわ。他ならぬリンダ様のためですもの。もっともっと勉強して、きっとベルゼ様からもお救いしますわ。」
そ、それは結構厳しいんじゃ。後でマデリーンにちゃんと悪魔さんのこと説明しないと。あの人は私の前世の世界の大悪魔で、この星の神様なのよ。世界最高の魔術師になっても手を出すべきじゃないわ。
「あ、ありがとう。でも、あの、戻ったらちゃんと説明するけど、ベルゼ様はすごく強いのよ。マデリーンは大切なお友達だから無理をしないで。それに、ベルゼ様はお優しくて、最近そんなに嫌でもないんだけれど。」
「まあ!ああ、リンダ様、悪魔に洗脳されて良いようにされているのですね!なんて、なんて事。私、私、決心しました。母に弟子入りしますわ!私の母は平民ながら魔術師というか、有り体に言えば、魔女なのです。ずっと跡を継ぐのが嫌で魔法が顕現してからは父に引き取られることを選びましたが、伯爵令嬢なだけではリンダ様をお助けでない。リンダ様が悪魔を受け入れるなら、魔女でもよろしいでしょう?私、魔女になって生涯お守りしますわ!!」
ま、魔女ですか?お母様も魔女なの??
大好きな親友で、百合のように清らかだと思っていたヒロイン、マデリーンの宣言と頬への熱いキスを受けた後、意識が戻り、私は相変わらず、悪魔さんに膝枕をしていた。




