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14 人を殺しちゃいけません。

14

 「苦しいのね。ジオル。」


 別邸につき、私はジオルの前に鞘に入った短剣を突きつけた。侍女たちの顔色が変わる。


「ああ。苦しい。来てくれて嬉しい。正気に戻ってからずっと俺はお前に殺されたかったんだ。」


 ジオルが答える。静かだ。あまりにも静かに殺してくれと幼馴染が言う。


「二人きりにして。」


 私がそう言うと家の者たちは緊張した面持ちで、お辞儀をしてから下がって行った。


「ジオル、マデリーンと幸せにはなれない?経済的なことなら私も協力できるのよ。それでも皇太子から平民になったのは耐えられない?」


 ジオルは自嘲気味に笑った。


「違うと言えば嘘になるかもしれないが、平民に落ちたことが主な原因ではない。俺は操られてあんな事をしてしまった。そして、今酷く無力だ。マデリーンを愛していたのも幻だ。それに、お前はマデリーンが俺を好きだと思っているようだが、そんな事はない。彼女はアルスから逃れるためなら俺でも良いと思っているだけだ。」


「でも、でも、死ななくても良いと思うの。」


「俺は死んだ方が良い。死ななければならないと心の奥から声がするんだ。お前に殺されろと……」


「それは、また、操られているのよ。そう、そうよ。だって私も操られてここに来てしまった……」


 短剣を握る手が震える。この短剣はジオルが護身用にとくれたもの。鞘はルビーで装飾されている。もらった時鞘の美しさに感動したっけ。


「それでも良い。辛いんだ。俺はあの悪魔に、いやこの国の創造神に支配されていた道化だ。この人生から解放されないと、俺は俺として生きていないんだ。あの男に殺されれば来世も同じ事になるんじゃないか?あの男の支配を断ち切りたい。だから、俺はお前に殺されたいんだ。」


 そうなの?じゃあ、私もあの悪魔の支配から逃れるには他の人に殺されれば良いの??


「じゃあ、殺してあげる。その代わり来世では私を殺して。私を解放して……」


 私は短剣を振り上げ、そして振り下ろす。首を狙った短剣は見事、避けようともしないジオルの首の血管に命中する。飛び散る血が私の顔を髪を服を汚す。


 吹き上がる真っ赤な血、ジオルとの思い出が私の頭の中で走馬灯のように流れる。心が悲鳴を上げた。嫌、嫌、嫌あああー!!死なないで!殺したくない!!こんなの嫌!!こんなのは嫌よ!!!こんなのあんまりだわ!!誰か誰か誰か助けて。お願い、お願いよ!!


 次の瞬間、ジオルの血が止まる。あれよあれよと言う間に傷が塞がる。短剣が高い音を立てて、床に落ちる。


 私は強い腕に抱き締められていた。


「他の男と妙な約束をしないでおくれ。私でも生き返らせるのは無理なんだ。外宇宙は遠すぎるね。間に合わないかとヒヤヒヤした。」


 悪魔さんだ。ジオルが生きている。私、殺さずに済んだ……。


 私は悪魔さんの胸に縋り付いて大泣きしていた。悪魔さんはそんな私の背中をポンポンと叩いたり撫ぜたりしながら私が落ち着くまで、ずっとあやしてくれた。

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