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16 ヴァルハラ移住計画2

「――――というわけでゲオルクさん、村の人を連れて来ていいですか?」

「構わないぞ」


 村人のヴァルハラ移住の件について、ボクとリゼちゃんは冒険者ギルド支部にいるゲオルクに相談したところ、そんな感じであっさりオーケーが出た。


 ただし永住するとなると手続きが必要らしいから、今回は一時的な避難として扱いにすれば問題ないらしい。その後、どうするかは領主さんに報告して決めるそうだ。そっちはゲオルクに丸投げするよ。


「しかし、ひとつの村の人間を全員ここまで連れて来るとなると、かなりの大仕事だな。さすがに馬車が足りんだろうし、体力のある者は歩かせるとしても荷物は最小限だろう。財産を失うも同然だが……そこまで追い詰められているのか?」

「……村を守る防護壁が破られて、羊がすべてモンスターに食べられて、たぶん近くにダンジョンがある」

「村を捨てるには十分な理由だったな……」


 納得したゲオルクが、今度はボクに視線を向ける。


「お嬢ちゃんのほうは大丈夫なのか?」

「ボクですか?」

「今までのギルド関係者とは勝手が違うからな。領主様からもダンジョンマスターとして干渉しないよう言われているだろう」

「そう言えばそうでしたね」


 ボクがダンジョンの主であることを隠す作戦があるから、なるべく村の人たちの前に出るのは避けたほうがいいかも。


「案内はこっちに任せてくれればいいが、あとは住む場所だな」

「六階層のホテルはダメなんですか? それなら新しく建てますけど……」

「お嬢ちゃんは一般的な村人の生活を知らないのが問題だな」

「どういう意味です?」

「質素な暮らしを知らない、という意味だ」


 ゲオルクの話によると、ボクに任せると最低限の小屋でも快適な設備が整えられてしまうから、元の生活に戻るのが辛くなるのだとか。


「あのホテルは貴族が宿泊するような場所だからな。新しく建てるなら、誰かが隣で見ている必要がある」

「だったらリゼちゃんにお願いして……」

「リーゼロッテの知識は豊富だが、村人が暮らす家がどんなもので、なにが必要なのかまでは知らないだろう」


 そうなの? っとボクが見ると、リゼちゃんは残念そうに頷く。


「……アルマちゃん、ごめんね」

「いえいえ、謝らなくてもいいですよ! でもそうなるとゲオルクさんが見てくれるんですか?」

「俺も領主様への連絡を含めて仕事が溜まっているからな……ユリウスもヨハンも出ているから、あとはノーラか」


 ノーラさんと聞いて、第四階層は未だに神殿建設予定地のまま、なんの進展もないことを思い出す。

 一時的に暮らすなら、あそこに家を建てちゃっていいかな?

 他の階層と違って、まだなにもないに等しいから作りやすいし、なにより広さだけは充分あるからね。

 それも含めてノーラさんに聞いてみようかな。


「じゃあノーラさんにお願いしてみますね!」


 急いでいるのでゲオルクとの話が終わったら、すぐに第四階層へ向かう。

 あ、その前に夜美さんにも連絡しておこう。

 まだ人数とかも確認していなかったし……なんだか忙しくなってきたな。

 夜美さんもがんばってくれたんだから、ボクもがんばろう。






 ――――そして三日後。

 村人の受け入れ準備は大変だったけど、どうにか無事に終わったよ。

 ノーラさんに相談したら快く協力してくれたし、第四階層に家を建てるのも、むしろ人助けは神殿の本分といって大賛成だったからね。


 その結果、兎だらけだった第四階層の草原に、小さな村ができあがっている。

 すべて木造の一階建てで、アパートみたいに横一列に連なったものが、緩やかな円を描くように隙間を空けて形成されていた。

 村の中心は広場になっていて大きな井戸があるけど、すぐ近くにきれいな小川も流れているから水には困らないと思う。


 確認したところ村人の数は三百人ぐらいで、ちゃんと家族が何組いるかまで計算してあるから不足はないはずだ。

 もし足りなければ追加すればいいだけだから問題ないよね。


 他にも食料、お風呂、トイレ、洗濯、新しい服と防寒具、日用品、燃料の薪、今後の話などなど……とにかく決めることが多くて、人を移住させるって大変なんだなぁと思い知った。

 まあ、難しい話はアルヴィトとゲオルクに丸投げしちゃったけどね。素人が口出しするよりいいと思うんだ。


 そんな感じで準備が終わると、ちょうど夜美さんから連絡が入った。

 もうすぐヴァルハラに到着するようだ。

 すぐにゲオルクに教えると、見送った時と同じように出迎えることになったんだけど……残念ながらボクは十階層の家で待機である。

 事前に話した通り、村の人にあまり姿を見せないようにするからね。

 別に見られても構わないんだけど、色々と説明が面倒だし、またボロが出てしまうのは避けたい。


 まあ一応、アルヴィトが設置してくれた監視カメラがあるから、家にいても見るだけならできるよ。

 実際にモニタを用意して貰うと、出発した時と同じように馬車がヴァルハラに入って来るところが確認できた。

 一緒に見覚えのない大勢の人たちと、何台かの荷車があるけど、これが村の人たちかな?

 装備を整えた冒険者と違って、全体的に服装が質素というかシンプルだ。


 荷車に乗っているのは荷物が大半で、何人か男の人も運ばれている。

 子供やお年寄りが見当たらないと思って探していたら、どうやら馬車のほうに乗っていたようで銀の魔動車(アルゼンタム・マキナ)から子供たちが次々に降りて来た。

 大人は少し不安そうに周りを見回しているのに対し、子供たちは好奇心が勝っているのか、今にも走り出しそうな空気だ。


 それを抑えているのがユリウスやヨハンたち冒険者だった。

 しっかり引率しているのもあって、なんだか遠足のようにも思えてくる。

 誰も注意しなかったら、子供たちだけでヴァルハラ内を探索していたんじゃないかな?

 危険な場所へは入れないようになっているし、あっちこっちでホットドッグが巡回しているから迷子になっても安心だけどね。


 そうこうしている内に、ゲオルクがなにかを話して馬車と村の人たちを連れてエレベーターに乗り込んで行く。

 このまま第四階層の仮設村に案内してくれるはずだから任せよう。

 一方で、夜美さんも少し顔を出していたけど、子供たちを降ろしたら他の馬車とは別行動していた。

 このままこっちに来るみたいなのでお出迎えだ。




 十分後。ボクは何度も定期連絡で話していたからか、あまり久しぶりな気がしない夜美さんから無事に帰還した報告を受けていた。

 ……報告なんて堅苦しい感じじゃなくて、もっと気楽でいいんだけど、マジメな夜美さんは慣れた感じなので、本人からしたら楽なのかもしれない。


「――――以上で報告は終わり、です」

「ありがとうございます、夜美さん。おつかれさまでした。今日はゆっくり休んでください。……あと話し辛ければ、いつも通りの話し方でいいですよ?」


 がんばって畏まった口調にしているけど、報告の最中ずっと砕けそうになっていたからね。


「えっと……ごめんね。しっかりしようと思ってるんだけど、なんだかアルマと話してると、つい気が緩んじゃうから……」


 最近はダンジョンの主として少しは威厳が出てきた気がしていたけど、どうやら気のせいだったみたいだ。

 でもボクは働きやすい環境を優先するので、細かいことは気にしないよ。まったく気にしてないから。ホントだよ。


 気を取り直して夜美さんからの報告をまとめると、今回の村を支援する作戦は最後のひとつを除けば問題なく終わったようだ。

 移住に関してはゲオルクが領主さんと話し合っているみたいだし、なにかあったらボクのほうに連絡が来るので、それまで特にすることはない。


 活躍してくれたグラコーンとザクロは、先に第五階層のモンスター用厩舎に送ったようなので、あとで行ってみよう。

 同じ鳥っぽいモンスターとして、シラタマのことも紹介しないとね。


「ねえアルマ、今さらだけど村を襲ったモンスターと戦ってもよかったの?」

「え、どうしてですか?」

「私たちが戦ったことが知られたら、そのモンスターを送り出したダンジョンと敵対することになるから……もしかしたら、あの時は人間に任せておけばよかったのかなって思って」


 まるで失敗してしまったかのように言う夜美さんだけど……。


「いえいえ、最初からボクは人間の味方なので、他のダンジョンからしたら最初から敵だと思いますよ」


 積極的に他のダンジョンを攻略するつもりはないけど、だからって村を襲うモンスターを放っておくほうが問題だよ。


「それに村の人たちも無事だったんですから、夜美さんは悪くありませんよ」

「うん、ありがとうアルマ。だとしても敵視された可能性があるから、これからは他のダンジョンの動きも注意したほうがいいよ。もし攻撃されたら、その時は私を使ってくれていいからね」


 あれ、ダンジョンなのに他のダンジョンから攻撃されるの?

 そう不思議に思って聞いてみると、ダンジョン同士でも不利益になると判断したら一方的に攻めて、そのまま侵略してしまうらしい。

 その場合、負けたダンジョンの主は勝者に従うようだけど、特に決まりとかないから反逆されないよう殺すのが普通だとか。なにそれこわい。


「でも、いくつも村を襲ったなら、もう神殿が動いているかな……」

「そういえば神殿もダンジョンを攻略するんですよね」

「あまり被害が大きくなると、大攻勢に出るって魔族の間でも有名だよ。特に夏の神殿は好戦的で恐れられているか、逆に戦いたい相手として人気があるかな」


 両極端なのは、魔族にも戦いが好きなのと嫌いなのがいるからか。


「他の神殿はどうなんですか? たしか春の神殿の関係者がいるんですけど」

「あまり詳しくないけど、春の神殿もそれなりに有名だと思うよ。戦いより、どちらかと言えば舞いで知られているけど」

「舞い……踊りですか?」

「私も見たことないから、よくわからないけど、そうみたいだね」


 夏は戦いで、春は踊りで有名なのか。

 うーん、なんだか神殿のイメージがよくわからなくなってきた。

 この際なので、他二つの神殿についても聞いてみる。


「秋の神殿は知識を重要視するって聞いたことがあるかな。あと冬の神殿は私よりもアルマのほうが詳しいんじゃない?」

「え、ボクですか?」

「うん。だって黒巫狐と白巫狐が揃って――――」

「お邪魔するのです」

「ほわぁっ」


 急にすずちゃんが現れて、もふもふの尻尾がボクの顔を埋め尽くした。


「どうしたんですか、すずちゃん?」

「ちょっと、この闇鴉族(レイヴン)に話があるのです。こっちに来るです」

「え、あの……急になにを」

「いいから来るのです」


 すずちゃんに手を引かれて、夜美さんは外に出て行ってしまった。

 なにか大事な用でもあったのかな?

 しばらく戻って来なさそうだし、ボクも先にグラコーンとザクロのところに行こうかな。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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