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13 ヴァルハラ支援隊

 夜美さんが仲間になった翌日の朝。

 モンスター襲撃の被害に遭った村へ支援物資を送る準備が整ったので、ボクたちは第一階層の出入口にある駐車エリアに集まっていた。

 まあ、ボクはヴァルハラを出られないから見送りだけどね。


 他にも見送りとしてゲオルクやギルドの職員さんたちを始めとして、リゼちゃんやイリスちゃん、すずちゃんにアルヴィト、そしてヌマネコちゃんやホットドッグたちまでも集結していた。

 それだけ色々な意味で注目されている一大プロジェクトということだよ。

 ヌマネコちゃんたちは、あっちこっちでごろごろしてばかりだけどね。


 ちなみに支援隊メンバーは依頼を受けた冒険者たち十人を中心として、魔族の夜美さんが加わる形なんだけど、なんとユリウスとヨハンの二人も参加している。

 ユリウスは目的地の周辺に詳しかったのが理由でゲオルクに推薦されて、ヨハンは純粋に善意からの参加みたいだ。


 ……実は、この支援メンバーへの参加は強制じゃなくてギルドが発行する依頼になっているから、最初はもっと参加者が少なかったという事情があった。

 その原因……というより理由は、単純に面倒だから。


 よほど報酬がいいか、あるいは善人でもなければ、わざわざ馬車に揺られて田舎の村人を助けに行く依頼なんて、見向きもされないらしい。世知辛い。

 一応、ボクのほうで報酬の金額を上乗せしたり、ゲオルクが呼びかけたりして最終的に必要な人数は揃ったからいいけど……それでも最低限だった。


 本来なら複数の馬車隊を派遣して、一度に各村へ物資を届ける予定だったのが急遽変更になり、ひとつずつ順番に巡ることになっちゃうほどだよ。

 もっと夜美さんみたいな魔族を雇えたらいいんだけど、またナンデモニウムに問い合わせたら『そんな変わり者は他にいません』って言われちゃったし……。


 もうヌマネコちゃんの手も借りたいっていう時だったので、ヨハンが参加してくれたのは非常にありがたいのだとか。

 責任者であるゲオルクがしみじみと語っていたね。


「リゼちゃん、調整のほうは大丈夫ですか?」

「……ん、もう問題ない。いつでも行ける」


 こくりと頷きながら、リゼちゃんが馬車から降りて来る。

 その馬車だけは、他の幌馬車と違って一際大きい箱型で、全体が銀色に輝いている特注品……しかも魔道具の一種でもあった。


 その名も『銀の魔動車(アルゼンタム・マキナ)』だ。(命名:リゼちゃん)


 まあ名前どころか、リゼちゃんが設計した馬車なんだけどね。

 ただ素材にミスリルを始めとする希少金属を大量に使うから、作るのは現実的じゃないってお蔵入りしていたみたいだ。

 それをボクが『高性能の馬車が欲しいなー』って言ってたら、引っ張り出してくれたのである。

 まあ設計書に従ったとはいえ生成したのはボクだけども。


 さすがに結構なエネルギーを持っていかれただけあって、この魔動車は高い魔力伝導率を持つとかで、色々な機能が備わっている。

 リゼちゃんの説明では『超魔導バリア装甲』や『重力制御車輪システム』に加えて『迎撃用魔導カノン戦杖』と『地対空魔導爆雷ジャベリン』を搭載し、さらに冷暖房を完備しているから寝泊まりも快適だし、おまけに冷蔵庫付きだ。

 ちょっとよくわからなかったけど、とにかくすごくすごいのだ。


 そして、そんな魔動車を引くのに普通の馬では色々と能力不足だった。

 というのも構造上、この魔動車は大きさに反して一頭引きになっていて、しかも『重力制御車輪システム』の魔力消費が激しいから、その二つを解決するために魔力を持った特別な馬……モンスターを用意しなければならかった。


「グラコーンも調子よさそうですね。みんなをよろしくお願いしますね」


 手を伸ばして柔らかい毛並みの頭をなでると、氷の角と翼を生やした白馬のモンスター『グラキエス・ユニコーン』が優しい目でボクに視線を送る。

 とても頭がよくて穏やかな性格だから、素直に言うことを聞いてくれるよ。

 それに、もしケガ人が出てもグラコーンは角から癒しの魔法を放てるから、回復役としても期待できるし、強い魔力を持つので魔動車も問題なしだ。


 もちろん魔動車に積み込んだ物資のほうも抜かりはない。

 連続して三つの村を巡ることになったから、かなりの量になっているけど、そのための銀の魔動車(アルゼンタム・マキナ)とグラコーンなので余裕である。


 ちなみに、この魔動車に乗るのは夜美さんだけである。

 その分だけ荷物を載せられるし、なにより他のメンバーがみんな男だからね。

 途中で何日か野営することになるので当然の措置だよ。


「夜美さんも、準備はいいですか?」

「うん、もう何度も確認したから平気だよ。アルマは心配性だね」

「来て頂いて、すぐに出張ですからね。なにかあったら申し訳ないですし、できる限り万全に準備しますよ!」

「ここまでされたら、十分すぎるよ」


 そう言って夜美さんは腰に下げた剣を片手で持ち上げる。

 戦うのは得意じゃないって話していたけど、これから向かう村はモンスターの襲撃があった場所だし、魔族とはいえ女の子はひとりだけだ。

 自衛用の武器は持っていないとね。


 本当はボクが立派な刀を作って夜美さんにあげたかったんだけど、どうしてもビニール製になっちゃうし、普通の剣でもプラスチック製になる。

 もしかしたら見た目だけで、実はすごい攻撃力があるのかもと試しに訓練用ゴーレムを斬ってみたけど、ぽこっぽこっと音が鳴るだけだった。

 おもちゃだこれ。


 というわけでゲオルクに相談したところ、商業ギルドから取り寄せてくれたのが夜美さんが持っている剣だ。

 とても高くて質がいいらしい。ボクにはよくわからないけど、夜美さんが刃を眺めてうっとりと溜息をついていたから、きっと良い物なんだろうね。

 ……実は剣が好きだったり?


「そういえば……あれも持っていますよね?」

「……これのこと、だよね?」


 顔を近づけて小声で尋ねると、夜美さんも声を潜めてそっとポケットから懐中時計を取り出してみせる。


「使い方は覚えましたか?」

「何度か試したから。でも隠さないといけないのは、ちょっと不便だね」

「ボクもそう思いますけど、リゼちゃんとアルヴィトが言うので仕方ないです」


 この懐中時計はヴァルハラで各ギルドに配ったのと同じく通信機能を持っているんだけど、夜美さんに渡したのはヴァルハラ内だけじゃなくて、外でも通信できる魔道具タイプになっている。

 これがあれば村に向かった夜美さんたちと連絡を取れるようになるから、ちょっとエネルギーを多めに消費してひとつだけ作ったんだけど、それに待ったがかかってしまったのだ。


 魔道具に詳しいリゼちゃんと、計算能力の高いアルヴィトによると、この魔道具タイプの懐中時計が普及されるのはマズいらしい。

 あくまでヴァルハラ内だから機能する物だと、世間に認識させておく必要があるのだとか。

 また、ここだけの秘密だけど、魔術師ギルドでは遠距離通信用の魔道具がこっそり開発されているらしい。それもギルドマスターと、ごく一部の人間だけしか知らないそうだけどね。


 ともかく、懐中時計で連絡できるのは隠しておかないといけないそうなのでカモフラージュとして、別の連絡手段も用意してある。


「ザクロ、おいでー」


 右手を前に出して肘を曲げると、魔導車の屋根で羽を休めていたカラスがふわりと舞うように、ボクの腕に留まった。

 その額には赤い宝石が埋め込まれていることから判別できるように、この子もモンスターの一種『カーバンクル・レッドアイ』のザクロだ。


 本来はレッドアイという普通のカラス型モンスターだったんだけど、またもやボクのイメージが曖昧だったのか、ヌマネコちゃんやぶっ飛び兎、ホットドッグたちと同じく微妙に変わってしまった。

 黒いカラスだから、闇鴉族(レイヴン)の夜美さんと相性がいいかなって選んだんだけど……まあカラスであることに違いはないからいいよね。

 ちなみにグラコーンも、本当なら普通のユニコーンだったり。


 あと名前もボクじゃなくて、それぞれリゼちゃんと夜美さんが考えたものだ。

 グラキエス・ユニコーンがリゼちゃんで、魔術的な意味合いがあるらしい。

 一方でザクロは夜美さんが付けた名前なんだけど、後からリゼちゃんが種族名としてカーバンクル・レッドアイと勝手に名付けている。

 付けるだけなら自由だよ。


「偽装ですけど連絡役お願いしますね。あ、それと護衛もですよ」


 クァーと鳴いて、ザクロは再び魔導車の屋根へ戻った。

 伝書鳩ならぬ伝書鴉だ。

 あまり頻繁に使うと怪しまれそうだけど、そこはモンスターだから飛ぶのが速いと言えば納得されそうだね。


「マスターアルマ、そろそろ出発の時間です」

「もうですか……では夜美さん、気をつけて行ってください」

「うん、行ってくるね」


 準備はしっかり整えたし、あとはボクにできることはない。

 馬車隊がヴァルハラから出発するのを見送って、その無事と成功をお祈りするだけだ。

 というか夜美さんたちが頑張っている間、ボクも自分の仕事を頑張らないと。


「アルマ様、クーがまた新しく名前を考えたとか抜かしているです」

「今度はなんの名前ですか?」

「各階層って言ってるのです。やめさせるです?」

「わかりやすくなるんだったら、いいんじゃないですか? ボクも思いつかなかったり、特に必要ないかと思って放置してましたし」


 でも確認だけはしないとね。

 あまり放っておくと、いつの間にかヴァルハラが『おきつねランド』とか『こんこんパーク』とかに変わっていそうだから。

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