7 お帰りになる来場者たち
ダンジョンを出たゲオルクたち冒険者一行。
拠点である街までは急げば半日だが、のんびり移動すれば一日かかる程度の距離があった。
その道程は大して険しくない森を抜け、ちっさい川を越え、なだらかな平原を通るという、なんの危険も見当たらないものだ。
まるでアルマのダンジョンのような平穏さである。
「ここまで来ればいいだろう」
「ああ、そうだな」
平原の途中、開けた場所で休憩を取り始めると、ゲオルクが突如としてそう言い出した。すぐに反応したのはユリウスだ。
「え、いったいなにを?」
「どうしたのですか?」
「……ダンジョンから離れたから?」
駆け出し組が理解できずに戸惑う。リーゼロッテだけは鋭かったが、その意図までは読めなかった。
「このまま街に戻る前に、お前たちの意見を聞いておきたくてな。あのダンジョンマスターをどう思う?」
「どうって……」
「かわいい!」
視線で促されてヨハンが口を開くも、先に答えるリーゼロッテ。
これには全員が苦笑してしまい、同時にゲオルクは少し話を急ぎすぎたと反省して改めて問い直す。
「あー、つまりはだ、俺たちはギルドにダンジョンを調査した結果を報告しに行くわけだが、その前に意見を統一したいんだ」
「ゲオルクさん、統一って?」
「あのお嬢ちゃんは信頼できるか、できないかだ」
実際にアルマと会話したのは、この場にいる五人だけ。
ゲオルクがギルドに報告すれば、まず間違いなくゲオルク以外の四人にも聞き取りが行われるだろう。その時、それぞれ言い分が異なっていると信憑性が欠けてしまうのだ。
故に、ここでパーティ内の意見を統一しておき、ギルドへの報告は一貫した主張でなければならない。
例えそれが、信頼できないという方向性であったとしても。
「これは俺の考えだが、あのお嬢ちゃんが作るポーションや、その他のアイテムは貴重だ。目的はどうあれ協力関係を築くべきだと思っている」
いきなり結論を出すのではなく、まずは互いの利益を考えて交渉しようというのがゲオルクのやり方である。なぜなら信頼とは、そうして相手と関わっている間に自然と培われるものだと知っていたからだ。
「ユリウスはどうだ?」
「まあ、だいたい同じだけどよ。ずっと観察していた狩人の眼から言えば、本当にダンジョンマスターとは思えないほど無防備で無警戒だな。かと思えば人を怖がらせて楽しんでいたが、ダンジョンマスターってよりは、イタズラ好きなガキっぽくて……あと純粋に誰かを喜ばせるのが好きなお人好しって感じだったぜ」
観察眼に優れるユリウスは、なるべく一歩引いてアルマを見ていた。
その結果、とても人間の子供らしい性格だと判断する。
むしろ警戒心が薄すぎて、どこの平穏な田舎で育ったのかと疑問に思うくらいであった。
過去の記憶がない点からそうした常識を失ったのかと思えば、本人によるとそうでもなく素の状態らしい。
それらの情報から、ひょっとしたらアルマは大貴族か王族の娘で、常に危険のない環境で暮らしていたのでは……という確信のない感想をユリウスは呑み込む。
さすがに飛躍し過ぎだろうと思い直して。
「ヨハンはどう思う?」
「僕は、ゲオルクさんに賛成かな。信頼とかはわからないけど、ゲオルクさんの斧を突き付けられた時、アルマは本気で怖がっていたから……それに、泣いたり笑ったりしてたのが演技だとは思えないし、あの表情を疑いたくない」
経験の浅いヨハンは、自分なりの結論を出す。
彼にとってアルマの印象は、とても儚く脆い一輪の真白い花だ。
ちょっと吹けば簡単に折れてしまうような弱さを感じ取り、弱き者は守らなければという正義感がヨハンの心を揺さぶる。
「ノーラは?」
「私もゲオルクさんに賛成ですが、ただアルマさんが嘘を言っている様子がないと感じましたので、全面的に信頼しても良いと思います」
すでにノーラは独自の手法でアルマを信頼していた。
たしかにジェットコースターで恐ろしい目に遭ったが、事前に説明していた通りで恐怖させるのが目的の乗り物だ。
そういった点から鑑みても、信じていいと判断していた。
「……問題ない。アルマちゃん、いいこ」
またしても問われる前に答えるリーゼロッテ。
誰の目から見ても篭絡されているが、彼女もまた独特な手段によって結論を出している。
考えなしに言っているのでは決してない。
「そうか……だがいきなり信頼できると証明するのは難しい。ひとまず、お嬢ちゃんとは敵対せずに協力するようギルドに報告しよう。それでいいか?」
それぞれの意見を擦り合わせ、妥協点を探るゲオルクの言葉に全員が頷いた。
ただ二人だけ浮かない顔をする。
ノーラとリーゼロッテだ。
「ゲオルクさん、ギルドへの報告を少しだけ遅らせることはできませんか? ある御方と連絡を取りたいのです」
「……どちらにせよ今日中には無理だからな、明日の昼までなら伸ばせるぞ」
「もう一日は無理でしょうか」
「それは誰に、なんのために連絡を取りたいのかにもよるな」
大人しいノーラがここまで食い下がるのは、ゲオルクには珍しく思えた。
だが元々、彼女は割と頑固で一途な面があり、ここに至って本来の性質が浮き出ただけに過ぎない。
「詳しくは明かせませんが、冒険者ギルドにとっても、アルマさんにとっても良い結果になると確信しています」
「……なんとなく察せるが、報告を遅らせるのはな」
ゲオルクはノーラがいう『ある御方』を、どこかの有力者だと推測した。
事前にそういった者から支援の約束を取り付ければ、今後のアルマにとって有利となるだろう。ギルドにしても周囲から余計な手出しをされなくなるのは、助かるはずだ。
とはいえ、この話はギルドにとって絶対に必要だとも言い切れず、ややアルマ側に傾いている。
そのために報告を遅らせるべきか、ゲオルクは躊躇した。
「あとから別に報告するほうがいいんじゃないか?」
「それではギルドマスターが先に動いてしまうかも知れません。できれば同時に私からも話を通しておきたいのですが……」
「ううむ、なら明日の昼過ぎには報告に向かうが、日暮れまでは持たせる。すまんが、俺はあくまで中立として動かなければならんからな」
「いいえ、助かります」
「……わたしも」
まとまりかけた話に、リーゼロッテも静かに参加した。
「リーゼロッテさん?」
「……明日の日暮れまでに、わたしも用意する」
「あー、なんだ、つまり二人ともギルドの報告には同行できないわけだな」
「……ん」
「まあ、こっちはどうとでもなる。自由にやるといい」
「ありがとうございます」
「……わかった」
普通ならば勝手な行動を咎める場面だが、あえてゲオルクはそうしなかった。
それだけ二人の意志が固く、考えなしの言葉ではないと察したからだ。
同時に長年の勘として、ノーラとリーゼロッテには大きな秘密があるような気がしていた。
ならばここで引き止めるより、好きに行動させたほうが後々に良い方向へ進むのではないか……。
そんなゲオルクの予感は正しいのか、的外れだったのか。
すべては明日の冒険者ギルドで明らかになる。
あけましておめでとうございます。
引き続きダンジョンテーマパークをお楽しみください。




