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5 初めての来場者たち4

「本当に建てられるのか……」

「これを、たった今?」

「す、凄いですね……」

「……大きい」

「これがダンジョンマスターの力ってことか……なるほどな」

「ふっふーん」


 五人ともボクの用意したホテルを見上げながら驚いていた。

 一階建てだけど、それなりに高さもあるし、造りもしっかりしている。

 そんな規模の建物を数分で建てられることにびっくりしてるから、この世界の建築技術は魔術があっても地球と大差ないのかも知れない。

 ボクも初めて建てた時はびっくりしたからね。


「どうぞどうぞ、遠慮しないで入ってください。案内しますよ」

「あ、ああ……」


 ゲオルクを先頭にして、恐る恐るボクに続く五人。

 でも躊躇していたのは最初だけで、すぐに警戒心を解いていった。

 ひとり一部屋の個室で清潔なベッドを目にして、食事ができる場所があると知って、トイレや浴場の使い方を説明されて……みんな大喜びだ。


「こんなに良い部屋をひとりで使えるなんて!」

「身を清められるのは嬉しいですね」

「……おいしいの、ある?」


 ヨハンたち駆け出し組は目立つところに注目していた。それぞれ意識が向けられている先が違うのはちょっと面白い。

 ゲオルクとユリウスは、少し着目点が異なる。


「このトイレどうなってんだ?」

「水で流せるだけじゃなく水が飛び出して、いやそれより座る面が温かい?」


 せっかくだからウォシュレット機能と暖房機能を付けたところ、なぜかこの二人が食い付いていた。

 少し聞いた話では水洗式のトイレは都市部に存在するらしいけど、ウォシュレットや暖房は聞いたこともなくて驚いたみたいだ。


「とりあえずご飯にしませんか?」


 ボクの声に、全員が頷いた。






 食堂に五人を待たせている間、ボクは奥のキッチンで準備を始める。

 メニューはシェフの都合で一品だけだ。文句は言わないでくれると嬉しい。

 調理台には包丁やまな板、ボウルにフライパンといった調理器具に、その他ボクが必要だと思った電子調理機が一通り揃っている。

 すべてエネルギーを消費して作った物だ。


 もちろん食材も作り出せる。

 恐怖が元となった食べ物なんて健康が心配だったけど、ボク自身このダンジョンの主になってからは、ずっと自炊していたから問題ないのは証明済みだ。

 もし害があるようにイメージすれば、その通りの食材になるはずだけど、毒で暗殺する気もないので試す機会はないかな。


 ちなみに完成した料理そのものをエネルギーで作ることもできる。

 だけど、なぜか加工された物ほど消費するエネルギーが多くなるので、なるべく食材から調理したほうが安上がりだ。

 かといって、ある程度は妥協しないといけない。残念ながらボクには大した腕前もなければ、ちゃんとした知識もないからね。レトルト食品は偉大だ。

 今回は初めて人に振る舞う料理なので、できるだけ努力するけれども。


「きょーうのりょーりは……しょーがやきー♪」


 豚バラ肉に小麦粉をまぶして、焼きながらタレをからめるお手軽料理だ。

 漬け込む時間もないし、六人分となると凝ったものなんて作れないからね。

 タレもメーカー品をエネルギーで直接生成した物だし、付け合わせのキャベツはスライサーで千切りにするから実にラクチンだ。


 それに豚肉は疲労回復に効果的だと聞いたような気がする。どこで聞いたのかは記憶がないので知らないけどね。

 ヨハンとユリウスは案内している内にだいぶ復活したし、ここはガッツリした料理で元気を取り戻してもらおう。


 もっと美味しく調理する方法もあるんだろうけど、知らない以上は存在しないのと同じなので深く気にしない。

 今はボクが作った生姜焼きが、この世界で一番おいしい生姜焼きだと信じるのが大切なんだよ。

 最後に炊飯器で早炊きにしておいたご飯をお椀によそって……完成っ!


「というわけで、お待たせしましたー!」


 人数分の生姜焼きをワゴンで食堂に運ぶと、視線が一点に集中した。

 すごい見られてる……あ、そういえばスープがない。お味噌汁なんかも付けたほうが良かったかな?

 失敗したと思っていたら、どうやらそういう意味の視線ではないらしい。


「お待たせしました?」

「……あ、ああ、ずいぶんとうまそうな匂いがこっちにまで漂って来てな」


 ゲオルクが憮然とした態度で答える。

 お腹が空いているのに生姜焼きの香りは拷問だね。

 これは申し訳ないことをした。


「あ、ところでお肉が食べられなかったりする人はいませんか?」

「そんな人間がいるのか?」


 逆に不思議そうに聞かれてしまった。

 どうやら宗教上の問題とか気にしなくて良さそうだ。

 ノーラさんとか神に仕えてそうな雰囲気があったんだけどね。


「それよりお嬢ちゃん、本当に食ってもいいのか? 悪いが金は持って来てないんだが……」

「どうぞどうぞ。冷めないうちに食べてください。お金なんていりませんよ」

「んじゃ、オレから先に食うぞ」


 そう言って、すっかり元の調子を取り戻したユリウスがスプーンとフォークを手に取った。

 たぶんお箸は使えないと予想していたんだけど、正解だったかな?


「ところで肉はわかるが、この白い粒はなんなんだ?」

「あ、パンのほうがよかったですか?」


 そうか、お米よりパンが一般的なのか。

 お箸には気付けたのに、ついうっかりしていた。


「……食えるんだよな?」

「食べられないものなんて出しませんよ。それは……えっと、ライスっていう食べ物です。お肉と一緒に食べてみてください」


 上手く説明できないから、とにかく食べて貰ったほうが早い。

 少し迷ったようなユリウスだったけど、まずは生姜焼きを一口ぱくり。


「う、……うまっ!? なんだこの肉! ってかやわらかっ!?」


 そこから先は早かった。

 スプーンでご飯を口に放り込み、また生姜焼き、ご飯、生姜焼き、ご飯……。

 永久コンボの完成だ。


 気付けば触発されたようにヨハンも生姜焼きとご飯を掻き込んでいるし、ノーラさんはマナーを気にしてか丁寧な手つきだけど、その表情から気に入ってくれたのが一目瞭然だ。リーゼロッテちゃんはヨハンに負けず劣らずの食べっぷり。

 ただひとり、ゲオルクだけが無言で他の四人を見守っている。


「食べないんですか?」

「……悪いが、まだ食えない。さっきも言ったように、お嬢ちゃんを全面的に信用しているわけでもないからな」


 つまり毒を警戒しているみたいだ。

 ちょっと悲しいけど、わざわざ説明する辺り、そこまで警戒している様子じゃなくて、あくまで事務的にやっているようにも思える。

 冒険者も大変なんだね。


「見てるだけって辛くありません?」

「……わかってるなら少し放っておいてくれ」

「はーい」


 空腹で機嫌が悪そうなゲオルクの隣から退散したボクは、みんなの空になったコップに気付いて水を注いで回った。

 きっと、こういう細かなサービス精神が信頼に繋がる……繋がって欲しい。


 それからボクも生姜焼きを食べ始めたらゲオルクから恨めしそうに見られた。

 美味しい物をタダで振る舞ってるのに理不尽だ。






 食事が済んだら次はお風呂だ。

 すでに説明は済ませているので、着替えとタオル、その他諸々を用意するために売店へ向かう。


「一通り見て回った時にも思ったが、妙な物ばかりだな」

「そうですか?」


 さすがにお土産コーナーまでは設置してないし、着替えは簡単なシャツやパーカーやジャージ、下着にバスタオルに、あと歯ブラシや櫛くらいで他は変わった商品なんて置いていないと思う。


「こんな生地は見たこともない。こっちの布も特殊な織物じゃないか?」

「ジャージは……えっと、ポリエステルですね」


 この世界にポリエステル製の服なんて存在しないみたいだ。

 でもタオルも知らないのかな? よくわかんないや。


「深く気にしないでください。ダンジョン産の特別製だと思って」

「普通はダンジョン産と言ったら希少な高級品なんだがな」


 言いつつゲオルクは少し楽しげだ。

 食べ物と違って、そんなに危険もないって見た目でわかるからね。

 単純にダンジョン産の物に興味があるだけかもだけど。


「えっと……ねぇアルマ、どれを選べばいいのかな?」


 シャツやジャージを手にヨハンが戸惑ったように聞いてきた。

 いきなり選べと言われても難しいみたいだ。


「ではボクがてきとうに見繕いますね」

「うん、頼むよ」

「アルマさん、こちらもお願いできますか?」

「……こっちも」

「わかりましたー」


 順番にヨハン、ノーラさん、リーゼロッテちゃん、ついでにゲオルクとユリウスの着替えを選んでいく。

 これもう最初からボクが手渡ししても変わらなかったような気がする。

 次の機会があったら種類を少なくしようと心に決めた。


 用意が済んだので脱衣所へ移動する。

 浴場はちゃんと男女で別に分かれているので、入れ替わりで入浴なんて面倒なことはしなくていい。


 着ていた服は備え付けの洗濯機にぶち込むように伝える。

 男性陣は色移りとか気にしないからまとめて洗うけど、女性陣のほうは個別に分けるように注意しておく。ノーラさんの白い服と、リーゼロッテちゃんの黒い服は一緒にすると大変なことになりそうだし。


「ではいってらっしゃい」

「アルマさんは入らないのですか?」

「そうですね、ボクはみなさんの後で入りますよ」


 気持ち的には男湯なんだけど、この体では問題があるからね。

 そもそもダンジョンの一番奥にボクの部屋があるし、もちろんお風呂も作ってあるから、こっちの浴場に入る理由もない。


「……アルマちゃん」

「どうかしましたかリーゼロッテちゃん?」

「……行こ。一緒に」

「えっ」

「そうですよ、私たちに遠慮なさらずに」

「いや、ちょっと、まってくださいぃぃぃ……!」


 二人に手を引かれると、筋肉がまったくないボクでは成す術もなく女湯へ連行されてしまい……かなり居心地の悪い時間を過ごすことになってしまった。

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