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4 初めての来場者たち3

 三人の……いや二人の絶叫は、まさしくモンスターに襲われた人間の恐怖と遜色ないエネルギーを放っていた。

 正しく回収されたエネルギーはジェットコースターの一回分で、今日までボクが消費した分と、同等以上という驚異の高効率を記録するほどだ。

 これならボクの計画も成功しそうだよ。


 やがて一周して戻ったコースター。

 乗っている三人の様子は、三者三様といった感じだ。


 まず先頭だったヨハン。

 完全にグロッキーみたいだ。顔を伏せてピクリとも動かない。


 その後ろに乗っていたノーラさん。

 優しい微笑みを浮かべているけど、プルプル震えて顔色は悪い。


 最後に隣にいるリーゼロッテちゃん。

 表情こそ出発前と大きく変わらないけど、誰が見ても楽しんでいた。

 むしろテンションが上がったのか、少しほっぺが赤い。絶叫マシンとか大好きなタイプみたいだ。

 安全バーから解放された三人に声をかける。


「みなさん、どうでしたか?」

「…………」

「ええ、どう言いましょうか……」

「……楽しい」

「え?」


 リーゼロッテちゃんの感想に、ノーラさんがモンスターでも目にしたように驚いている。ヨハンからは返事がない。ただのしかばねのようだ。


「うーん、楽しかったですか……まだスピードが甘かったですかね?」

「……もっと速くできるの?」

「時間とエネルギーさえあれば、改良は可能ですね」

「おぉー」


 期待の眼差しと、歓声を送ってくれるリーゼロッテちゃん。

 これにはゲオルクとユリウスも呆れているようだった。


「できれば、もうひとつのフリーフォールも試して欲しいんですけど……やめておきましょうか」

「…………」

「そ、そうですねっ。私は遠慮させていただきます」

「……わたし乗る」

「えっ?」


 リーゼロッテちゃんの申し出に、ノーラさんがバケモノにでも出会ったように驚いている。ヨハンはしかばねだ。


「次はゲオルクさんとユリウスさんも、どうですか?」

「いや、今回はお嬢ちゃんの見張りとして残らんとな。やめておこう」

「お、俺もやめとく」


 罠を警戒しているのか、怖がっているのか。まあどっちでもいいか。

 それより気になるのはリーゼロッテちゃんだ。

 まったく怖がる素振りを見せない彼女から、エネルギーは得られるのかな?


 早速、ボクはフリーフォールへと案内する。

 ちなみにヨハンは復活できそうになかったので、そのまま近くに長イスを設置して寝かしておいた。

 ダンジョンで吐かれても迷惑なので飲み水も用意すると感謝された。これが俗にいうマッチポンプというやつだろうか。


「では行きますよー」

「……わくわく」


 気を取り直して、ボクは操作盤のスイッチを入れる。

 勇敢にもひとりで乗り込んだリーゼロッテちゃんは、どんどん上昇して行って姿が見えなくなってしまった。


 このフリーフォールはダンジョンの天井という制限から最大高度四十五メートルに留まっている。

 これで落ちるだけだと、同じような高所から滑り落ちて加速し、縦横無尽に駆け巡るジェットコースターの劣化版と思われてしまう。

 そこでボクは考えた。


 例えば、人は安心を失った時に不安……つまり恐怖を感じやすい。

 だから最初だけは足元に鉄板の床があって、どれだけ高く昇っても乗客は足が付くという安心を得られるんだけど、最高度に到達すると座席が前へと突き出す。


 そして急に足場がガコンッと外れるのだ。


 もちろん座席に座っているし、安全バーによって落下の危険性はないけど、いきなり足場を失ったら人は落ちてしまうと一瞬だけ錯覚するはずだ。

 その一瞬に追い打ちをかけて座席が落下する。

 日常では感じられない浮遊感を不意打ちで受ければ、初めて体験する人なら誰もが背筋をヒヤッとさせること間違いなしだ。


「わぁー」


 ……ヒヤッとするはずなんだよ?

 なぜか両手を上げて満喫してる風だけど、本当は違うんだよ?

 やっぱり彼女に絶叫マシンは通用しないようだ。


「リーゼロッテちゃん楽しそうですね。次はユリウスさん乗ります?」

「な、なんでだよ! 乗らねえって言っただろ!?」

「さっきも思ったんですけど、ボクの見張りならゲオルクさんだけでもいいんじゃないかと……」

「なあユリウス」

「ま、待ってくれゲオルク!」


 肩にぽんっと手を添えられて必死に拒否するユリウスだけど、ゲオルクの中では決定済みのようで無慈悲に通告した。


「ひとまず安全性は確認できたんだ。駆け出しにばかり試させるってのも恰好が付かんだろう」

「うぐっ……それは、そうだが」


 どうやら決まったらしい。やった!


「ではリーゼロッテちゃんが戻ったら交代しましょうね!」

「なんか楽しんでないか!?」

「そんなことありませんとも!」

「ちっ、まあ仕組みはわかったんだ。落ちるだけなら大したことねえよ!」


 一分後。


「うおおおぉぉぉああああぁぁぁあっぁぁああァァァーーーーーッ!!」


 なんか言ってたユリウスの絶叫がダンジョンに轟いてボクは大満足だった。






 ここまで得られたエネルギーを確認しよう。

 大雑把だけど、総量はダンジョンを作る前の五割増しで溜まった。

 これは早いのかな? それとも、これが普通なのかな?

 比較対象がないのでハッキリしないけど、余裕ができたのはたしかだ。


 最も貢献してくれたのは、たぶんヨハンとユリウスだろう。

 ヨハンはノーラさんと一緒だったから曖昧だけど、その後のユリウスからも膨大なエネルギーが抽出できたことから、やはり恐怖が大きいほど効率がいい。


 逆にリーゼロッテちゃんがフリーフォールを楽しんでいた時だけど、エネルギーは微量ながら得られていた。

 圧倒的に効率は悪いけど、無駄にはならないようだ。

 そうなると少し方針を変えてもいいかも知れない。


「なあお嬢ちゃん、しばらく休憩したら俺たちは街に戻るつもりだが……」


 考え事をしていたらゲオルクがそう言い出した。

 今後について冒険者たちだけで相談していたんだけど、終わったのかな?


「それでだ、お嬢ちゃんは人間の味方をするということでいいんだな?」

「もちろんです。ダメでしたか?」

「ダメというか、まあ大騒ぎになることは間違いない。だから先に注意点を教えておこうと思ってな」

「お願いします!」


 わざわざ教えるってことはゲオルクも少しは信用してくれたみたいだ。

 こっそり喜びながら、マジメに話を聞く。


「まず冒険者ギルドに今回の件を報告するが、恐らくダンジョンマスターを協力者として迎えられるなら歓迎するだろう。しかし信用できるかどうか改めて調査隊が送られるはずだ。今度はダンジョンではなく、お嬢ちゃんの調査にな。その時に俺たちが同行しているとは言い切れん。お嬢ちゃん次第だ」

「わ、わかりました」

「次に王宮や貴族だが、こっちは利益次第ってところか。いずれなんらかの要求をされる可能性がある。無理難題を言われて断れば騎士が動くかも知れん」


 つまり国家が本腰を入れてダンジョン攻略に向かって来るという意味らしい。

 その時、防備を固めていれば守れるかも知れないけど、そうすると敵対する意志ありと見なされてボクの計画は破綻してしまう。


「ど、どうすれば……」

「だから、その前にギルドの信用を勝ち取って、ダンジョンの保護を頼めるようにすればいい。利益を示せば実力主義のギルドは動くはずだ」


 なるほど。黙ってボクのダンジョンを失うよりも、王様や貴族を止めたほうが良いと思わせるのか。


「で、ここからが悩みどころなんだが」

「え……?」


 すでに一杯一杯なんだけど、ようやく本題らしいのでがんばる。


「頭の固い神殿がなにを言うか予想できん。あいつらはダンジョンはすべて滅ぼすべしと教えているからな。下手をすれば聖騎士が押し寄せる。下手な国より力を持っているから敵に回すと厄介だ」


 簡単にまとめると冒険者ギルド、国家、神殿という三つの陣営がある。

 ギルドと国家の力は互いに無視できない拮抗した状態だけど、神殿だけは国家間すら超越する突出した影響力を持っていて止めるのは難しい。そんな神殿はダンジョン必滅を掲げていると……。

 それはもう詰んでいるのでは?


「まあ、そっちはギルド側の仕事だな。できるだけお嬢ちゃんの存在を隠し通して味方を増やす。だがそれには先に……」

「ギルドに信用されないといけないんですね?」

「その通りだ。わかっているなら、あとは自分でチャンスを掴み取れ」

「はい! ありがとうございます!」


 険しい顔を、にやっと歪ませるゲオルクからは、もう大斧を突き出された時の怖さを感じなかった。

 思ったより、良い人だったりする?


「まあ他にも注意すべき点はあるが、俺は冒険者だ。まだギルドはお嬢ちゃんを討伐しろとも、保護しろとも指示を出していない。これ以上なにも言えん」


 この助言はゲオルクにとってもギリギリという意味か。

 改めて感謝をしつつ、ふと気付いた。


「ところで、さっき休憩したら戻るって言ってましたよね?」

「ああ、そうだが……」

「今日中に戻れそうですか?」

「……もう少しお嬢ちゃんが手加減してくれていたらな」

「すみません」


 未だにヨハンは顔色が悪いし、ユリウスも二日酔いみたいに呻いている。

 一方でノーラさんは随分と良くなっていて、リーゼロッテちゃんに至っては再びジェットコースターに乗りたいとさえ言い出すほどだ。

 個人差はあるけど、ここまで極端だとつい笑ってしまう。


 いやいや、笑っている場合じゃない。

 これからは冒険者ギルドから信用を得ないといけないんだ。

 もっと親切に、サービス精神を心がけて……それで絶叫してもらわないとね。


「よければボクが休める場所を用意しましょうか?」

「……できるのか?」

「さっき見たと思いますけど、エネルギーさえあれば簡単です。ヨハンとユリウスさんは、たくさん怖がってくれたお礼もありますし」

「それなら頼みたいが、いいか?」

「任せてください!」


 これはボクの腕の見せ所だぞ!

 気合を入れて、まずは宿泊できる施設を建てる場所を考える。

 すでにジェットコースターのレールがダンジョン内のあちこちを走っているせいで少しスペースが狭い。こんなグネグネに設置したのは誰だ。


 幸いにも入口に近い場所が空いていたので、そこに簡単な建物を作った。

 表向きは一階建ての四角い形で公民館っぽいけど、その中身は個室が五つに、食堂と銭湯風の浴場、水洗トイレ、そして売店といったいくつもの設備が備わっている小さなホテルだ。

 売店には着替えや日用品が並べられていて、どれでも自由に持って行ける。いちいち配るより、こうしてまとめて用意しておいたほうが面倒もなくていい。

 ちなみに商品はすべて無料だ。そもそもお金を貰っても使えないし。


 と、ここに至って従業員がいないと気付いてしまった。

 まあ五人だけならボクひとりでも案内できるけど、今後のことも考えると少し不安だ。

 とりあえず今は完成したので、外で待っているみんなを呼んで来よう。

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