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11 ヴァルハラの日常(表)11

 さて、今までだったら女の子と一緒にお風呂なんて、ボクは絶対に避けようとしていただろう。

 なぜならボクは体こそ変わってしまったけど中身は男のつもりだし、恥ずかしいのと申し訳ない気持ちが混ざって緊張するからだ。


 もちろん今でも、そういった思いは残っている。

 だけど……もう二週間だよ。

 リゼちゃんがダンジョンに居候するようになって、ギルドの人たちがダンジョンにやって来てから二週間も経つと、色々と慣れてしまうのだ。


 それに、この体になってしまった影響か、例えばノーラさんを見て綺麗だなぁと思うことはあっても、それだけだった。

 もしかしたらボクは、いつの間にか心まで男を辞めてしまったのかも……。

 ちょっと寂しいというか、なんか変な気分だ。


 でも、おかげでみんなと一緒にお風呂を楽しめると考えれば、悪いことばかりじゃないよね。

 今はそんな風に、前向きに考えるようにしている。


 丸いドームの浴場内には、大小様々なお風呂が用意されている。

 まず基本となる『ぬる~い』と『あつ~い』、そして中間の『ひろ~い』と三種類の浴槽があって、他にジェットバス、サウナ、岩盤浴、電気風呂などを一通り揃っていた。


 さらに隣の施設には大きな温水プールがあって、泳ぐのはもちろんプールサイドのビーチチェアに寝そべってくつろげる。

 あとこっちは先にドリンクを受け取って、持ち込むこともできてしまう。ちょっとしたリゾート気分だ。

 この他にも種類を増やすつもりだけど、まだ反応を見ている段階だ。


「みなさんは気に入ったところとかありますか?」

「私は温かい岩のベッドですね」

「……びりびりするの、ちょっとすき」

「お湯がぶわーって出てるの楽しいかもです」


 見事にバラバラの答えだった。それだけ幅広いニーズに対応できているのだと解釈しておこう。

 あまりサウナは人気がなさそうだけど、聞いてみたら街の公衆浴場にも似たような施設があるから、他と比べて目新しさがないのが原因らしい。

 あと単純に苦手っていう人もいるみたいだから、不人気とまでは行かないけど利用者はいまいちだった。


 とりあえず今日のところは『ひろ~い』に入ろう。

 これは温度も中間でスタンダードなタイプだから、その名前通りに一番スペースが広く取られている浴槽だ。みんなで入るにはちょうどいい。

 洗い場で汚れを落としてから、足からゆっくりお湯に沈めていく。


「くはー、この瞬間がたまりませんねぇ」

「本当に……疲れが取れる気分です」

「……ちょっと熱いけど、それもいい」

「ごくらく、なのです」


 肩まで浸かると体の内側に溜まっている疲れが口から抜けていく気がするね。

 今日はいつもより忙しかったから、余計にそう感じるよ。


「ところでアルマさん、食べ放題のことでお聞きしたいのですが……」


 そう切り出したノーラさん。

 どうやら冒険者限定とはいえ、食べ放題によってアルマ食堂の売上がマイナスになっているのでは、と心配してくれたらしい。


「そうですね。食べ放題だけで計算したら、ちょっと利益は出ませんね」

「やはり、そうでしたか。昼間にしたお話は覚えていますか?」

「もちろんですよ」


 昼間の話って、一方的に与えるだけの関係になってはダメだから、きちんと周りの人に相談するというあれだよね。


「今日はお祝いだったので特別なんですよ。時間がなかったから誰かに相談しているヒマはなかったですけど」

「いえ、今ならまだ心配ないと私も思います。ですが、もっと人が多くなってからは注意が必要ですよ。アルマさんはあまり人を疑いませんからね」

「そ、そうですか?」


 ボクだって、この人は悪い人だと思ったりするよ。まったく会わないだけで。


「……問題ない。わたしがアルマちゃんを助ける」

「わっ、リゼちゃん!」


 後ろから抱き着かれてびっくりした。

 こういうスキンシップはいつものことだから慣れているけど、ちょっと心の準備が必要なんだよ。

 というかタオル巻いてないねこれ。背中の感触的に……。


「すずも忘れないで欲しいです」

「ちょ、待って、すずちゃん……!」


 今度は正面から抱き着かれてサンドされてしまった。

 そしてやっぱり、すずちゃんもタオルを巻いていない。なんで? 湯船にタオルを漬けるのはマナー違反って教えてないよ?

 幸いボクは巻いているので直で触れたりはしないけど……手足まではカバーできないわけで。


「……アルマちゃんすべすべ」

「アルマ様、失礼するのです」

「いやいやいや、なんで二人とも触るんですか!? 失礼しないでください! というか二人のほうがすべすべじゃないですか! もー!」


 前から後ろから手と足が絡み合って、もうどれが誰の手足なのかわからなくなってしまった。

 柔らかい感触があちこちに触れて心地良いやら恥ずかしいやら。

 ちらりとノーラさんを見れば、微笑ましい光景を見守るような優しい顔をしている。これは助けを期待できそうにない。


「あっははは、相変わらず仲が良くていいねぇ!」

「そ、その声はエマさんですね」

「ああ、ちょっと今いいかい?」

「もちろんで……あの、二人とも少し離れてくれます?」

「……ダメ」

「いやなのです」

「す、すずちゃんまで!?」


 リゼちゃんはともかく、すずちゃんが素直に言うことを聞いてくれないのは珍しい。普段もっとワガママを言ってもいいとは思っていたけど、このタイミングは少し困っちゃう。


「わ、わかりました。離れなくていいので、すべすべだけはやめてください。くすぐったいので」

「……ん」

「わかったのです」


 どうにか妥協して、ようやく話せる状況になった。


「ふう、騒がしくしてすみませんエマさん」

「こっちこそ邪魔して悪いね。ちょっとアルマちゃんに確認しておきたい話があったのを思い出してね。いやまあ大したことじゃないんだけど」


 改まって何事かと思えば、今日のアルマ食堂で出した特別メニューであるジャンクフードは、明日からも提供するのかどうかという話だった。


「何人かの客から聞かれてねぇ。忙しかったんで曖昧に答えておいたけど、結局のところどうなんだい?」

「あれはお祭りの限定メニューなので、普段は出しませんね」


 ジャンクフードはたまに食べるから良いのであって、毎日あれを食べてたら太るだろうし、栄養も偏ってしまう。病気になっちゃいそうだ。


「なるほどね。それで、次のお祭りはいつなんだい?」

「え、次ですか?」


 なにも考えてなかったけど、やったほうがいいのかな?

 だとしたら、きちんとした夏祭りとかやってみたい気もするし、なにかのお祝いの時にやりたい気もする。


「とりあえずお祝い事があれば……ですね。なければ、いずれ機会を見てやろうかと思います」

「はいよ。じゃあそういう風に広めとくからね」

「そうですね。お願いします」


 あれよあれよという間に、次のお祭り開催が決定してしまった。

 まあボクもお祭りは好きだし、安易に食べ放題にしなければ問題ないよね。

 それに今回は急いで用意したけど、事前に決まっていれば準備する余裕ができるから、もっと凝ったお祭りができる。


 ……いや、なにもお祭りに限定する必要はないかも知れない。

 イベント事だと考えれば、大会とかコンサートとかあるからね。

 じゃあ何の大会を開くのかとか、いったい誰のコンサートなのかは、まったく考えがまとまってないけど、みんなが楽しめそうだったら本格的に検討しよう。

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