第25話 まさおか士郎 爆誕!
日が暮れ....闘技場や壁が破壊された王室ではまだ兵士達による片付け作業が行われているなか、
王城のだだっ広い食堂では20メートルはあろうか長いテーブルに純白なシーツが敷かれ、そこには豪華なキャンドルに綺麗な食器などが並べられていた。
そして王を上座に王妃、そのテーブルの向かいの側面にはまさお達からガイハらと子供獣人二人、ナタリカ達にトルネとネルコの順番にテーブルを囲むように椅子に座る。
更には食堂の壁に沿って百人は超える王城の精鋭兵士達が立ち並び、王の後ろには五眷聖の五人にカルラ宰相が立っていた。
この大勢の兵士達の視線と圧に囲まれたガイハ達やナタリカ達にトルネとネルコだけじゃなく、何故かデスラム王すらも落ち着かない感じでソワソワしていた。
「カ、カルラよ、流石にこれは物々しすぎゾ。ワシも落ち着かんわ...」
「何を言ってるのですか王。この様な輩と同じ空間にて食事をなさるだけでも馬鹿げているのに、よもや獣人どもと卓を囲むなぞ前代未聞ーーーとにかく何かあってからでは困りますので。」
カルラ宰相がそう口にすると周囲の兵士からもおびただしい殺気がまさお達に注がれ、トルネ達から「ヒィッ!?」という言葉が逐一漏れる。
それは今の状況もさることながら、カルラや兵士らにとって今回のトンガマが提起する十つ国の法、
つまりは王族に逆らう賊を庇ったデスラム王の問題に対し、間違いなく王都イシュダリアに火種が舞う事は明白だからである。
今回のデスラム王の不祥事にて、王位から引きずり落とし己が権力を得ようとする内外からの王族貴族どもの反乱や革命、下手すれば他国からの軍派遣、場合によっては戦争と心配事は尽きない。
それをデスラム王は賊や獣人らと呑気に食事などと、その心を推し量る事さえ頭痛がするカルラや兵士らは、今にも剣を引き抜きかけないオーラを放っていたのだ。
そこへ まさおがーーー
「おうオッサン、今日の飯は何だ?」
ブチブチブチッッッッ!!!?!
ズバ~~~~~~~~ン!
ただでさえ一触即発なのに、んな事はまったく意に返さない まさおが、デスラム王をオッサン呼ばわりして兵士全員がぶちギレながら剣を引き抜いた所で、電子の電撃がまさおに直撃した。
「まさお、相手が王様だとか何とか以前に普通に失礼だからね。」
「うぐぐ....」
そんなまさおが瞬時に黒コゲになった姿を見た兵士達が一瞬戸惑い見せた所に、デスラム王から兵士達へと剣を収めるよう制止の声が入った。
「まさお...次同じ事したらアタシが殺してやる。」
そしてめっちゃビビったクラリが怨み節を呟いていると、給仕係りの者達から料理が運ばれ晩餐が始まった。
はじめは食前酒と共に前菜の皿が皆の前に置かれてゆき、全員に出揃った所でデスラム王の「では頂きますゾ」の声で食事は始まるのだが、
何故かナタリカ・クラリ・ブラ爺だけでなくガイハ・コーク・レイビィも料理には手をつけず伺う様に周りを見渡し、
普段なら王宮の料理など一生に一度ですら食べられるかと目を輝かせる筈のトルネとネルコですら、冷や汗を流して固まっていた。
そこへーーー
まさお「うぃっす。」
杏子「ゴチッス。」
電子「頂きま~す。」
颶「頂きます。」
寧々「頂きます。」
博士「頂きます。」
ーーと手を合わせ、出された料理を食べ始めた。
「ばっっ毒ーーーッッムガ!?!」
そしてまさお達が料理を口にするのを見てコークが慌てて叫び声を上げようとした瞬間、ガイハとレイビィに口を塞がれ押さえつけられた。
つまりトルネ達は王族に歯向かう自分達に対し毒殺される可能性を考え戸惑っていたのだが、
だからといって出された料理に「王様これ毒入ってませんか?」と聞こうものなら普通に侮辱として斬り捨てられかねない。
実際コークが「毒」と言った瞬間に何人かの兵士達が剣の柄を握ったが、正直その可能性も否定は出来ない為、トルネ達は尋常ではないほどの冷や汗をかいていた。
ーーーが、そこへ来ての【まさお】であった。
まさおの【内氣功】の能力は主に身体強化であり、筋肉や眼を氣で強化すれば筋力や視力が増し、鼻や口に氣を集中させる事で嗅覚や味覚の鋭さが増す。
そして食事に混入された毒物があっても、それは目には見えないレベルで水分として蒸発しており、湯気や香り等の水蒸気といった形で空気中を漂い、まさおはそれを嗅ぎ分けて舌で味わう事もできる。
例えその毒物が無味無臭の物でもその僅かに吸引したまさおの鼻や舌は、内氣功で研ぎ澄まされた感覚にて常人には気づかない状態異常をも検知し、体内に入った毒物も内氣功による免疫力強化である程度の無効化が可能なのだ。
つまりはそれを知っている博士達は、料理を出された時に【まさおが何も反応しなかった】時点で安全と確信し料理を口にしたのである。
「どうしたんスか?食わないんスか?」
そこへ杏子の言葉を聞いてトルネやネルコにナタリカ達も意を決して料理を口に運び、ガイハらは杏子達の食べ方を見ながら初めてのディナー式ナイフやフォークの扱い方に四苦八苦しつつ食事を開始する。
「それで、博士殿...でしたか。食べながらで構いませんので、王室での話の続きを聞かせて欲しいですゾ?」
「えぇ、分かりました。では食べながらで失礼させて頂きます。私達はーーー・・・・」
そう言って博士が話を始めると王妃がギラつかせた眼をしながら博士に向き直る。
そして博士はトルネ達にも話したように何故この国へ来てしまったのか、ここまで何があったのか、自分達がいた地球という世界はどのような所なのかなどの話しをした。
その話を聞いていた周囲の兵士達や五眷聖にカルラは にわかにはーーー
まさお「ほう、これはロールキャベツに似てるな。野菜の葉に包まれたこのトロリとした濃厚な...山羊の脳にそっくりだ、それを香草で蒸しダシ汁につけたのか。しかしこれでは駄目だ、せっかくの葉の旨さが明確に出ない...料理とはーーーー」
ーーーにわかには信じがたいという表情を浮かべるが、王妃は疑う素振りなど一切見せず食い入るように博士の話を聞き、デスラム王も単純に驚きつつ素直に話を聞いていた。
デスラム王の性格とは臆病な所もあるが実直であり純朴で、だからこそこの様な眉唾な話も本当に信じるのではないかとカルラ宰相はハラハラしながらデスラム王を見ていたが、しかしそんなデスラム王も馬鹿ではない。
確かにデスラム王の性格からしてーーー
給仕係りが皆の前菜の皿を下げパンとスープを置いていく。
まさお「むう、小麦を精白せず全粒のまま引いた粉を使ってるのか。だが天然酵母の作りが甘い、それに発酵時間もーーーー」
ーーー確かにデスラム王の性格からして流されやすい事はよくあるが、相手が嘘を言っているか、悪しき者かぐらいの判断は難しくない。ましてや獣人を庇った時の杏子やまさおの真っ直ぐな目を疑うほどデスラム王の目も腐ってはいなかった。
デスラム王は真剣に博士の話を聞いていた。
まさお達がこの異世界に飛ばされて一番の奇跡は何かとーーー
給仕係りが皆の皿を下げメインの肉料理の皿を置いていく
まさお「ステーキか...ん、これはレアじゃなく文字通り生だな。肉の中に入り混じる脂肪が固まったままーーー」
ーーー奇跡は何かと言えば、この十つ国 第7位国 王都イシュダリアへと来たことだろう.....
「おい、まさおか...さっきからウゼェ。」
さっきからちょいちょい話の腰を折るまさおの料理のうんちくに、電子副部長がキレた。
人には絶対音感という言葉があるように、まさおには内氣功で味覚を強化した【超絶対味覚】なるものがあり、そしてまさおの大好きな漫画シリーズに《美味し○ぼ》がランクインしてる為、まさお自身『食い物の味に拘らずにいられない』メンドくさい性格に育っていた。
そしてもう一人、まさおのムカつく反応にイラついていたのがカルラ宰相だった。
何故デスラム王がこんな輩に恩情をかけたのか推し量る事も出来ないが、本来なら即刻まさお達を斬り捨てトンガマへの事後処理を進めたい所、
それをーーーー
まさお「それにソースのフォンはこの肉の骨を使ってるな...確かに【肉】の旨味は十分成長したものの方が上だが、【骨】は成長する前の骨を使ったダシ汁の方がゼラチン質が多くクセがないから材料の味を引き立てるにはーーー」
カルラ「じゃがぁしぃぃわクソガキ!下民の小僧ごときに高級食材の【モヒージの肉】の味が分かってたまるか!!」
カルラがついにブチギレ、まさおに突っかかって行こうとする所を堅聖ゴランが羽交い締めして止める。
そこへトルネとネルコが、
「ほうっ!?これがモヒージの肉ですカナっっ成熟すればする程その味が増すというあのっっっ!!」
「でもちょっとのストレスで寿命が縮んで、ほとんどが成長するまでにくたばっちまうから育成が超大変サネ!!」
とこの世界で高級な食材であるモヒージ肉を称賛すると、
「ふふっそうだ!本来なら成熟するまでに最低三年はかかるモヒージを、モヒヒ村のゴンダさんは五年も育て上げたのだ!!凄いだろう?」
カルラがゴンダさんの偉業を何故かまるで自分の事のように自慢し、今度はガイハ・コーク・レイビィが、
「旨いっこんな肉は初めて食べたナ!」
「すげ~ゼッこれならいくらでも食える!腹一杯になっても食えるゼ!!」
「この肉はかっ神の食い物カイ!!!」
と大絶賛した。
「ほほほっそうだろうそうだろう。何だ獣人どもの方がよっぽど食い物の味が分かるではないか!」
そう言ってカルラは今度は何故か上機嫌となって高笑いを始めた。
そしてそんな夕食も終盤を向かえ無事に終わるかと思われた一時も、もうひと波乱が巻き起こるのであった。




