第15話 伝説の生物 襲来
ーーーーー十分前、
博士と俔聖シュナ率いる斥候兵団のワイバーン部隊は王都イシュダリア上空にてスカイ チェイスを繰り広げ、以前 互いに決め手がないまま大空を飛び回っていた。
「ぬぅ、このままでは埒が明かないな、エネルギー残量も気になるが勝負に出る他ないか...」
博士はそう呟くと、高度を上げ周囲を見渡す。そして遠くで平原に流れる河を目にし王都から少し離れる事に一瞬 躊躇うが意を決しその河の方へと飛び去った。
そしてワイバーン ライダー隊が追って来ている事を確認しながら河川の上空まで辿り着くと、博士は河に沿って飛行し徐々にスピードを落としつつ高度を下げる。
「うむ、これぐらいのスピードと高さなら河に落ちても多分 大丈夫だろう。」
そういって博士は追跡してくるワイバーン ライダー隊に対し奇襲のタイミングを計る。
『んふふ~、そうか下が河なら落としてもあの空飛ぶ鎧は傷つかないヨね~? よしみんな行くヨ~~!』
しかし俔聖シュナもまた博士と同時に勝負所のタイミングを見計らい、追尾する部下達に攻撃の指示を手で送るーーー
そして両者が激突すると思われた瞬間、シュナと部下達の騎乗するワイバーンらが一斉に暴れだし その内の二名がワイバーンから振り落とされて河へと落下した。
「ちょ、ちょっと どうしたのっ!?落ち着いてヨ!!」
シュナ達は己の乗るワイバーンを巧みに操舵しながら落ち着かせるも、それでも興奮状態の収まらないワイバーンらに調教術である制御魔法をかけ魔力で無理矢理おとなしくさせる。
〔くっシュナ様!一体なにが!?今までコイツラがこんなに暴れる事なんて一度もーーーッッ〕
「この子達...怖がってるヨ?」
斥候兵団 副団長の男が血相を変えながらシュナに話し掛けると、何か異変を感じたシュナもそのワイバーンらの怯える遠くの方角へと目を向けた。
そして博士もシュナ達の様子に何事かと攻撃を止め、皆が見据える方向を見る。
ほんの僅かな時が過ぎ...
空では多くの鳥の群れが何かから逃げるように博士らの場所へと向かい通り過ぎーーー
地上でも同じ様を見せる動物達の姿がそこにはあった。
そんな騒がしさの後に訪れた静けさのなか、それでもシュナ達は微動だにせず遥か遠くの山間を注視していると、
...それは姿を現す。
「ん? ...あれ?」
シュナは目をゴシゴシと擦りながら何度も目を細め遠くを見詰める。
〔な、なんだアレは? 少しばかり大きく見える...いやそれより初めて見る奴だな... 〕
〔う、う~ん。新種の大怪鳥でしょうか?〕
そして斥候兵団 副団長の男と他の兵士らも首を傾げながら凝視していると、シュナが顔から汗をダラダラと流し今にも泣きそうな上づった声で口を開いた。
「あ、あれ~もしかしてあれって《竜》じゃないヨねへ~? 私も書物でしか読んだ事ないけど...あれ.....【六本】あるヨね?」
シュナの言葉にその場の全員の顔が真っ青になるが、しかし誰もが頭では理解しようとしても心がそれを拒絶する...それは竜と認める事は己が死と同義になるからと。
〔ですがシュナ様。伝記で竜とは三百年前に十つ国 序列第3位 ゴナドゥ帝国を滅ぼして以来、誰もその姿を見た者はいないと...〕
〔も、もしかしたら竜でなくワイバーンの突然変異種とかの可能性もあるのでは? まさか物語上の生物が存在するなどーーー〕
〔どうして...いやっそれよりどうするのですかっ?? 物凄い勢いでこっちに向かって来ますよ!?〕
その竜と呼ばれる巨大生物は遊覧するといった感じの飛行ではなく、何か狙いを定めた様にシュナ達の方へ一直線に飛んで来る。
シュナはハッとしながら自分の後ろにある王都をチラ見し、先程のキョドッた顔から真剣な表情へと切り替わった。
「みんな今は空飛ぶ鎧の事は忘れて前方の竜に集中っ!王都に被害が出ないように近づけさせないでヨ!」
〔無茶を言いますねシュナ様。といってもあれは竜ではなくそれに似たもモノと思う他ありませんな.....よし総員 せめて囮ぐらいにはなって城から引き離すぞ。お前は戻ってこの事を宰相様へ伝えるんだ、では行動開始っ!! 〕
副団長がボヤきつつ一人の部下を伝令に送ると、俔聖シュナ率いる残りの斥候兵団が竜に向かい特攻を仕掛ける。
そこへ急に一人放置された博士も、スティール スーツのフェイス望遠レンズをズームにして竜を視界に入れていた。
「あ~~あれはまさか.....」
そして竜と俔聖シュナを筆頭に六体のワイバーンライダーが互いの方向へと猛スピードのチキンレースを始める.....否、竜の眼には俔聖シュナ隊は映っておらず、シュナも正面へ対峙して初めて竜が視ているのは後方の王都だと確信する。
互いの接触まで50メートルまで差し迫るとシュナは手を上げ、
「いくヨ、ブレスボール~~~今っ!」
シュナの攻撃の号令と共に各ワイバーンらの口から火炎弾が吐き出された。だが竜はそれを避けるでもなく翼をはためかせ更にスピードを出して突っ切る姿勢をみせる
「くっ散開だヨっっ!!!」
竜の突進にシュナらはギリギリ避けてすれ違うと、竜はシュナ達など意に介さずそのまま王都へと飛び去っていく
〔ぐぅっマズイぞ、追えっ追うんだ!?〕
〔我々など道端の小石に過ぎぬかクソッ!〕
〔早い...あの巨体で...追い付けるか?!〕
ワイバーンライダー隊は空で急転回し透かさず竜の後を追うが徐々にその距離は開いていく
「駄目駄目っ駄目だヨ! 町には皆がっお父さんとお母さんがっっお願い!お願いだからもっと早く飛んで!!」
シュナは焦りの表情を浮かべながら祈る様に己の乗るワイバーンに叫び続けるーーーーそこへ
「ふむ、音速0.2程といった所か。その図体にしては早いが...町であのブレスを吐かれては堪らないのでなーーーーフレア。」
〈 ッッグギャアァ!!? 〉
スティールマンが竜の前に着いて飛行すると、その鼻先へと近づき正に目の前で戦闘機が赤外線ミサイルを逸らす為の装置である発光弾を数十発 発射した。
突然の眩い閃光に流石に驚いた竜は体を捻り進行方向を変え距離を取ろうとするが、
「フラップ。」
博士はスティールスーツの高揚力装置部分を開け急減速し、すぐさま竜と同じ方向へと飛行し真上から装光線砲と光線連射機関砲を放つが竜はきりもみ回転飛行をしながらスティールマンの攻撃を躱す。
〈 ピーーーエネルギー残量 10パーセント 〉
「くっこれではレーザーの出力も上げれんし無駄撃ちも出来ないな...さてどうするか。」
博士が攻めあぐねている所へ、直進飛行ではなくなった竜に何とか追い付いた斥候兵団らが再度 火炎攻撃を仕掛けようとしたその時、
〈 ゴオアアアァァーーーーッッ!!! 〉
〔うおっくそっっ落ち着け!〕
〔こらっ逃げるんじゃない!!〕
〔駄目だ言う事を聞かないぞっっ?!〕
竜が大気を揺るがす程の咆哮を斥候兵団らに放ち恐れおののいたワイバーン達は制御魔法によっても操縦が効かずその場から離脱をし始めるが、シュナだけは何とか騎乗するワイバーンを制御しつつ竜の行く手を阻むように前を塞いだ。
しかし竜の口の中が怪しい光りを発している事に一瞬 気づくのが遅れたシュナは、竜が口を開け喉の奥からまるで地獄の業火でも溢れ出したかの様なその恐ろしい光景に瞬き一つ出来ず固まった。
「あぁ神さま...」
「こらこら、まだ諦めるんじゃない。」
竜のブレスが吐かれる寸前でスティールマンがその首にしがみつき、そのままジェット噴射で加速し地上の方へと引っ張って行く。
だが竜は抵抗を見せるどころかその勢いに乗って大地へと滑空し、地面スレスレを飛行しながら己の体とスティールマンを大地で削るーーー
ガリガリガリガリガガガガガガーーーーーッッ
「ぐおぉっ!!?」
そしてスティールマンが首から剥がれ落ちるや竜は地面を蹴飛ばし上空へと上がると、再び王都を目指し飛び去った。
「あいたた...くそ、中々賢い奴だな。」
「オジイさん大丈夫っ!!」
「オジイッ!?~~~あ、あぁまだ生きてるよ。とにかく早く追って何とかしないと多くの怪我人が出るどころじゃ済まないな。」
そういって博士も空へと飛び上がると王都へ向かった竜をマッハの速度で追いかけ、置いてきぼりを食ったシュナはただ呆然と眺めていた。
「嘘...はやっ?!」
そして闘技場内でも賢聖ガーナの放った炎魔法による炎柱の竜巻が沈静化を迎えた頃、その上空の空高くでは竜がホバリングをしながらジッと下を見据えていた事に場内の誰もがまだ気づかないでいた...
「おおぉおぉおおおぉーーーー!!!」
そこへ超スピードで猛追して来たスティールマンは背を向けていた竜を見るや好機とばかりに更にスピードを上げ攻撃体勢に入るーーーが竜も又、先程スティールマンを引き剥がし地を蹴り空へと跳躍した際に無数の岩を足に握り込んでいたのだ。
竜はスティールマンを一瞥もせず音だけで迫って来た事を感じると、ギリギリまで引き付けた所で足に握っていた無数の岩を放して尻尾で弾じくーーー
「ーーーーッッ!!!?」
ガガガッゴンッッ!!
「ぐあっ何て奴だ!誘われていたのか?!」
竜のほぼ無動作に近い投石攻撃はスティールマンの迫る速さとその距離もあって回避に間に合わず直撃し、スティールマンはそのまま激しい縦回転をしながら地面へと落下していった.....
そして場内の者達が竜の存在に気づき相対する。
それぞれの絶望を胸に...