第16話 伝記
その昔...
十つ国 第三位国 ゴナドゥ帝国の帝
ダイオン十六世がカンダミリア大陸 西側の覇権を掌握する
野心 溢れる ダイオン十六世はカンダミリア大陸の全権を握らんとする為 大陸を真に統べる天地万物の四大厄災
《 鳥 獣 蟲 魚 》の 一角
西の空の覇者
漆黒の竜を討伐し その武力を示さんとした...
ダイオン十六世は己の帝国の総力を上げ大部隊を率いて 漆黒の竜の住まうシリルナ山脈へと遠征をし 黒き竜との熾烈な戦いを繰り広げる
...はずだった。
だが、ダイオン十六世が その住みかへと辿り着き目にしたものは漆黒の竜の不在と それの『ツガイ』であろう純白の高級な絹すら霞む程の光沢を放った『白き竜』が前に立ちはだかる姿であった
二体の竜を相手取る事を不利と読んだダイオン十六世は黒き竜が帰還する前に白き竜の討伐を計るが、そこから先は想像を絶する凄惨な戦いが待っていた
ゴナドゥ帝国を支える屈指の騎士達や魔道士達は、次々と白き竜の爪や牙にて血飛沫を上げ、息吹にて塵へと化し その命を散らす
何百 何千の兵士らの屍が積み重なり白き竜の美しい鱗も次第に赤黒く変色する程の沢山の...本当に沢山の犠牲の中.....ダイオンの剣が白き竜の首を落とす
大勢いた兵隊は幾ばくも無い位に数を減らし 勝利とは程遠い犠牲を払い 目的である黒き竜の討伐はもはや不可能とされ ダイオン一行は白き竜の首を持って撤退を余儀なくされた
あの時...素直に撤退していれば良かったのだ
白き竜の亡骸の奥に見据えるは 四つの卵
白き竜が腕を失い 腹を割かれても決して一歩も退かなかった理由
そしてーーー
大勢の犠牲を出し 信頼する家臣達を失い 猛り狂う ダイオンは白き竜が命を懸け守ろうとした その卵らに剣を突き刺した
割れた卵の殻の中から見えた 間もなく孵るであろう 竜の形をしたモノが血を流し 生気が失われてゆく姿が今でも目に焼きついて離れない
ダイオンと生き残った僅かな兵隊は白き竜の首を持ち帝国へ帰還する最中、多くの傷を負っていた『私』は隊列から離脱し 一人回復を待って帰還する事を望む
皆も傷つき疲弊していた中で誰にも負担をかけたくないとの思いから私はそうしたのだ
薬草と薬で己を処置し眠りにつき、どれほど眠っていたのだろうか
やがて動けるくらいに回復すると私は重い体に鞭を打ちながら歩き、 己の住む帝国都市を一望できる山に差し掛かった時
あの時の絶望を私は今でも忘れない
帝国も 都市も 近隣の町も 人々も全てを飲み込む凄まじい業火の炎は辺り一帯を埋め尽くし
空に舞うは漆黒の竜と その一族であろう十数体の竜が 妻を 子を 家族を失い 哀しみに打ちひしがれ悲鳴にも似た叫びを上げていた
私は痛いほどに竜の気持ちが伝わった
焼かれる都市から響き渡る 家族を思い泣き叫ぶ人々の悲鳴と...
焼かれる私の家族が住む町に向かって泣き叫ぶ私の悲鳴は同じだったのだから.....
そして 十つ国 第三位国 ゴナドゥ帝国は竜の襲撃にて たった一夜にして地図から姿を消し、漆黒の竜と 他の竜も又その後 大陸から姿を消し、以降 誰もその姿を見た者はいない......
三百年前から伝わる十つ国 前第3位国 ゴナドゥ帝国の悲劇と竜に纏わる伝記は、未だに多くの詩人の歌や演劇にもされている程に民衆へと広く浸透されており大陸で知らぬ者はいないほどだった。
その伝説であり悲劇や恐怖の対象とされた竜が突然なんの前触れもなく現れーーー
王都イシュダリア闘技場の上空を舞う竜に場内の兵士達だけでなく近隣の住民から城下町、王都中と瞬く間に未曾有の光景を目の当たりにした人々は次々とその恐怖が伝染していく。
元々まさお達によって闘技場には厳戒態勢が敷かれ投入された兵士らの物々しい数や、逆に闘技場から逃げ出した大勢の観客らで王都中へと騒動は広がっており、住民の皆が不安を胸にその方向を注視していた所へ竜が現れ 大混乱は一瞬で広がった。
そして俔聖 斥候兵団の報国により、王城の最上階 王室の露台でも、闘技場から退避していた王族一行がその目を疑う光景に愕然としていた。
「な、ななな~なんざまぁすか?ここまでの長い旅疲れで幻覚でも見てるざまぁすか??」
公開処刑という催しの為イシュダリアへ来訪していた十つ国 第4位国 宰相のトンガマが額に手を当て立ち眩むようにヨロける。
「あわわわっあれは何ですゾっっ!? そんなまさか...何かの間違いですゾ!!」
そしてこの王都イシュダリアの現王 デスラムも目の前の光景に膝をガクブルさせながら混乱していると、同じ様に小刻みに震えながらも平静さを取り繕うようにイシュダリア宰相のカルマが王へと進言する。
「ですが王、あれはどう見ても【六本】あります。竜に纏わる他の書物に書かれている事から見ても、『色』と『大きさ』は違えど伝記に出てくる竜と同じ種族かと...」
「ごわぁっはぁっーーー何という事ざまぁす!?何やってるざまぁすか早く逃げるざまぁす今すぐ馬車を用意するざまぁっっっす!!!」
カルラの言葉にトンガマは取り乱して従者へと逃走の指示を出すが、竜の出現で王都中が大混乱に陥り誰もが逃げ出そうと ごった返す中で城の外に出るのは危険と従者達に制止される。
「第3位国ですら滅ぼされたというのが真実ならば 我らイシュダリアにとても太刀打ち出来る力など...この国の未来は一体どうなるゾ...」
デスラム王は小さく呟きながら ただ遠くを眺めていた。
そして竜の真下でも、皆がパニくり大騒ぎしていた。
『おい杏子ぉ~~どういう事だゼ!? 』
『全然ワイバーンじゃないカイッッ??』
「んな事いわれてもアッシらが森で竜を見たっていったら それはワイバーンだって言ったのはそっちじゃないスか?」
『ぐっっまさか本物の竜とは思わないナ!?!』
ガイハ・コーク・レイビィに詰め寄られ杏子が押し問答をしていると拳聖リムークが、
「おいお前あの竜の事を何か知ってたかダワ?」
「いやだからまさおが森であのりゅ~ムグッ?!」
リムークの問いに杏子が口を開いた所へ まさおのアイアンクローが杏子の口元に炸裂した。
「おいおい杏子ちゃん俺が思うにあの竜さんは【偶然】ここへやって来たんじゃないかなぁ~?まるで俺が元凶みたいな風評被害は止めてくれる?証拠は?名誉毀損だよ? んん~~~?」
ギリギリ...
「いららららっっ砕けるっシュ! アゴの骨が砕けるっシュ!!」
リムークやガイハらが不審なジト目でまさおを見据えるなか、まさおは話を逸らす様に口を開く。
「でもよ、皆スゲェ騒いでっけど確かにちっとデケェがあのワイバーン ライダーの奴らのと何が違うんだ? 」
「ハァァァーーーッッ?!?本気で言ってんのアンタ!!」
「クラリ落ち着くサネッまさお殿達は本当に何も知らないサネ!」
「うっそうだった...」
クラリが半ギレたが、まさおらの諸事情を知るトルネとネルコがその辺を簡単に説明をしてくれた。
「まさお殿達もご覧になったと思いますが、この大陸では私達が乗って来た土竜馬車や蝙蝠翼頭竜のように《亜竜》と呼ばれる《竜》とは似て非なるモノが存在しますカナ。そしてその亜竜と真竜の決定的な違いは【四本】か【六本】であると言うことですカナ。」
「早い話が土竜は前足と後ろ足の【計四本】、蝙蝠翼頭竜も足と翼の【四本】で他の亜竜も同じに対し、真竜は手・足・翼の【六本】あるサネ。勿論 言い伝えでってだけで実際に六本の竜なんて見るのは初めてで、その六本竜が三百年前に十つ国の一国を滅ぼしたって言われてるサネ!!」
そんな話を『ふ~ん』と他人事の如く聞き流しているユルい空気のまさお達とは対照的に、賢聖ガーナは全身ガクブルさせながら今にも気絶しそうな感じで『何故?どうして??』とブツブツ呟いていた。
「フヌ...一説によれば竜らは第3位国を襲撃した際に竜自身も深手を負い、その傷を癒すため何処か遠い地へ身を潜め眠りに就いたと言われ だから姿を消したと。もしやそれが目覚めたのかも知れませヌ...もしこれが始まりならば.....」
[ヒィィィッッ 終わりだっこの国も滅ぶっっ]
[助けてくれぇっ死にたくないぃ]
[今からでも遅くない俺は家族と逃げるぞ!?]
ブランカの言葉に端を発し周囲の王都兵が慌ただしく騒ぎだすと、武器を放り捨て上官の命令を無視してその場から逃げ出す者も現れる。
「ほっとくだワ、それより今は真上の竜に集中!!彼方サンは逃げる猶予もくれないみたいだワ。」
リムークが冷や汗をかいて苦い顔をしながら上を見上げると、竜の閉じる口の隙間から見える深紅の炎は今にも牙のダムを決壊させ溢れ出さんとしていた。
そして まさおが内氣功を眼に集中させ竜を見据えると、竜は他の誰でもない『まさお』とバッチリ目が合っていた事にまさおはシレッと黙っていたのだった。
17話もすぐにアップできると思います。
見てください。




