第14話 決着 そして新たなる影
カンダミリア大陸
序列第7位国 王都イシュダリアの闘技場には大勢の兵士達が招集され、場内から幾人もの怪我人が運び出され今も尚 激しい怒号と悲鳴が行き交う。
そして周辺の地域に住む住民達にも不安と緊張の声が上がり、いつしか町全体に不穏な空気が流れ始める...
そんな城下町や闘技場を一望できる高さに聳え立つ王城の城壁の上にて現状を眺める一人の青年がいた。
その男は髪が長く女性と見紛うほどの端正な顔立ちに白く絢爛な鎧を身に纏い、背中にはその細い体に似合わぬ太い大剣を携える。
そこへ城壁の上を警備する一般兵士が恐る恐るそのロン毛美青年に近づき声を掛けた。
〔あの...《剣聖様》は出陣なさらないので?〕
すると剣聖と呼ばれたロン毛美青年は静かに微笑みながら口を開く。
「ン~そうだねぇ、僕が行ったらこの王城の守りが居なくなるしね。それにあれは陽動かもしれないし王様達が城へ避難して来るなら尚更ね?」
〔そっそうでしたかっ確かに! 考えが至らず出過ぎた真似を...申し訳御座いません!!〕
「ン~別にいいよ。」
その兵士は自分のウッカリさに慌てて深く頭を下げるが、ロン毛美青年の剣聖は別段気にした様子もなくまた遠くを見詰める...それにホッと一息ついてこれ以上機嫌を損ねないようにとその兵士がゆっくりフェードアウトしようとしたその時、剣聖の表情は僅かに曇っていた。
そして再び地上ではーーー
「おぅらあぁぁぁクソボケ~~~!!」
「んぬおぉぉ~~負けるかだワ~~!!!」
まさおと拳聖リムークが格闘技ファンなら誰もが知るあの伝説の試合『PRIDE』の高山VSドンフライ戦の様に、互いに首根っこ掴んでのノーガードで顔面をボコりあっていた。
そのエグくもありアートでもあるような凄絶な光景に、周囲の一部の兵士らは己の職務を忘れ魅入られたように歓声を上げる。
「ははっまさお君は相変わらず人を楽しませるのが上手いねぇ~」
「貴様っ何をよそ見しているっっ我との戦いを愚弄するか!!」
そこへ炎系魔法を得意とする賢聖ガーナの炎と寧々の能力である氷の嵐が舞うような白熱した戦いを周囲に見せていた二人だったが、実のところ寧々にいいように翻弄されるガーナは著しく冷静さを欠き激昂していた。
まずは氷と炎の相性。
氷より火が強いのか、火より氷が強いのかの問答をすれば、それは勝利条件によるだろう。
だが単純な科学の話をすれば、バスケットボール程の大きさの氷に摂氏1000度の炎を一時間あて続けても氷を殆んど溶かす事は出来ない。
炎は氷の表面を温めても中まで熱が通らず熱の大部分は外層に吸収される。そして氷が大きい分だけ溶かすのに時間がかかり、それを溶かすには膨大な熱エネルギーが必要なのだが、現状 敵味方が入り乱れたこの乱戦の中でそれほどの炎魔法を使えば仲間を殺す事にもなりかねない.....のだが、特大炎魔法を使ったとしても結局 寧々の優位は揺るがないだろう。
それはガーナが炎の【魔法】を使う為に詠唱というタイムラグがあるのに対し、寧々は瞬時に氷の【能力】を発動させ、決まった形の炎しか出せない魔法と違い寧々の氷は手足のごとく変幻自在に操作・創作する。
詰まるところ、接近戦での主導権は常に寧々が持ち、ガーナの炎が寧々の氷を越えて当たることはなく、寧々の氷が溶ける前にガーナに必ず当たるのだ。
しかし特に相手を倒す必要もないと考えた寧々は適当に賢聖ガーナを相手にし隙あらば重装兵団・魔法兵団・一般兵と牽制攻撃をしつつ、博士が上のワイバーンを排除し撤退作戦決行のその時までただ時間稼ぎの戦いをしていた。
そしてそれを察した賢聖ガーナのプライドは深く傷つく。誇り高き五眷聖ともあろう自分がこんなヘラヘラしてチャラついた男一人にコケにされるなどあってはならない...なのに寧々は明らかに手を抜き、よそ見をしては まさおのボコり合戦に思わず吹き出し、その事がガーナの逆鱗に触れた。
「ぐうっ許さんっ許さんぞ!それならばこの上級 炎魔法で骨すら焼きつくしてくれる!!皆 離れろっっ」
ガーナが両手を前に出し詠唱を始めると前方に魔方陣が展開され拳ほどの炎の球が出現する。
「ーーーー灼熱をも焦がす火炎の赤き精霊に我の魔力と融合してその力を示せ...」
すると詠唱を唱えるガーナの周りから巻き込まれないよう兵士らが慌てて散っていき、ガーナの後ろへと逃げ込む兵も多くいる中でその炎球は横回転をし始める。
「喰らえっ炎嵐監獄のーーー《ゴンッッ!!》
「あいたっだワ!?」
しかしガーナが詠唱を終え、寧々に向い炎魔法を放とうとした瞬間...まさおのドロップキックによって吹っ飛んで来たリムークがガーナに激突し、体勢を崩したガーナはクルリと180度 体の向きを変る。
そしてガーナの魔法に巻き込まれない様に、その背後へ詰め掛けていた魔法兵団や他の兵らの真上にガーナは炎魔法を放ってしまったのだ。
「へっ?」 「「「「「「えっっ!?」」」」」
ガーナとその後ろにいた大勢の王都兵の素っ頓狂な声がリンクし、皆がゆっくりと己らの真上に放たれた炎球を見上げるとーーー
シュゴッッーーーボボボボボボボ!!!
その炎球は超高速回転を始め眩いぐらいの赤色発光をすると、拳ほどだった炎球が徐々に大きさを増し竜巻へと変わってゆく。
「ガッ、ガーナ様っ早く魔法を解いてください!!?」
そこへ竜巻と化してゆく炎球の下にいた魔法兵団の副団長が必死の形相でガーナへと声を掛けるがーーー
「ムリだ...この魔法は一度 発動したら解除は出来ん.....」
その言葉にその場の兵士ら全員の血の気が一斉に引いていく...
それを見ていたリムークも、
「だっだったら魔法障壁を上に張るだワッッ早くっっ!」
「ムリだ...もう間に合わーーー
ゴオォオオオォォオオォォォオォオオオォォオオォォォオォオオオォォオオオォォオオォ......
〔ぎやぁ~~~~~〕
〔助けてくれぇ~~~〕
〔まだ死にたくっっ〕
〔イヤだぁぁぁぁ~~〕
〔ヒイィィィ~~~〕
20メートルほどの高さまで立ち上る炎柱の竜巻は、ガーナの背後にいた兵士らを炎の中心へと飲み込み中から大勢の兵士達の断末魔が場内に響き渡る...
その恐ろしい光景と悲鳴に先程まで向こうで争っていたナタリカ達や他の兵士らも何事かと戦うのを止め、闘技場内の誰もがその巨大な炎の竜巻をただじっと眺め立ち竦んだ。
そしてガーナ自身も炎に焼かれる寸前のところで拳聖リムークの手によって炎の外へと退避し九死を免れるが、
「は...はは.....殺してしまった。仲間を....、ゲルロの奴はもうすぐ挙式をあげるというのに...サワドはこの前子供が産まれ.....ははは」
ガーナは目の焦点が合わずブツブツ言いながら倒れるようにヘタりこんでしまった。
「お~い大丈夫か?」
そこへ空気を一切 読まない まさおがガーナの顔を覗き込むように声を掛けると、リムークは突如まさおの胸ぐらを掴み大声で叫んだ。
「お前っ大丈夫な訳あるかだワッッッ! 確かに敵同士っ命を懸けた戦いだがっっそれでも兵士としてこんな武勇も名誉もない無様な死に方はあんまりだワ!! そもそもお前のせいでーーーー」
リムークは敵とはいえ、自分と堅聖ゴランが認めた男が騎士道の精神も分からぬ軽い振る舞いをした事に憤慨し八つ当たりをする.....しかし まさおはそんなリムークに対しその胸ぐらを掴む手を払いーーーーのけずシレッとアイアンクローをカマすと、
「アイダダダだワッッッ?!?」
「ええ~い 喧しいぞオッサン、ヒーローが目の前で人を見殺しにするかよバカ野郎。」
そういって まさおが巨大な炎の竜巻に目をやる
すると次の瞬間ーーーー
パアァ~~~~~~~~ン
その巨大な竜巻の炎は内側から弾け、周囲の者達が熱風を感じるよりも先に冷たい風と共に空からキラキラと輝く氷の結晶が舞い落ちる
そして仲間の死に涙しながらヘタりこんでいたガーナと、炎の竜巻に巻かれ死を覚悟し目の前に絶望しか見えなかった兵士らの前には、金髪アロハシャツの男とその頭の上に乗る小娘が立っていた。
「か、間一髪だったっスね...信じてたっスよ寧々さん.....」
「ハハッ杏子ちゃんナイス ファインプレーだね。でもちょっと重いし早く頭から降りてくれるかい?あと土足だよね?」
それは炎の竜巻がガーナの背後の兵士達を飲み込んだ刹那、杏子が寧々を連れて炎の竜巻の中へと瞬間移動し、寧々の氷と冷気で中の兵士らを守っていたのだ。
そして寧々の能力を信じていたとはいえ獄炎の中に身を投じた杏子は若干震えながら半ベソをかいていた。
場内の王都兵の誰もが仲間の死に悲観するなか、突然起きた目の前の奇跡に戦闘の最中を忘れた兵士らは思わず歓声やら深く溜め息を吐き、拳聖リムークすらも無防備に胸を撫で下ろしていた。
ーーーーだが、
「まっ待て貴様! なぜ...なぜ敵である我らを助けた!!我らは命の奪い合いをっっ殺さねば殺されるのだぞ?! なのに己の身を危険に晒してまで....」
仲間が無事と分かりホッと安堵しふと我に返ったガーナは、まだも混乱する頭を整理するかのように寧々に指さし強い剣幕で詰め寄った。
「メンドくさ。」
思わず まさおがそう呟くも、それはガーナだけではなく他の兵士らも同じ疑問を抱き何故といった表情で寧々を見据える。
すると寧々は吸い終わったタバコを携帯灰皿にしまい新しいタバコを口に咥え直すとーーー
「なんでって、君達が死んだら哀しむ友達や家族はいないのかい?」
寧々のその言葉に先ほど死にかけた者、また仲間を失いかけた者達には思わず脳裏に浮かぶ顔があった。
皆が沈黙して静まり返るなか、寧々はタバコに火を着けつつ そのまま言葉を紡いだ。
「でもそれは獣人と呼ばれる『人達』も同じだと思うけどねぇ。人は皆 祝福されてこの世に産まれてくるものさ。だからボクは苦しむ人がいるなら手を差し出すし、悲しむ人がいるなら全力で助けようと思うだけさ。」
先ほどまで悲鳴やら怒号やらで喧騒していた場内が一気にシンとした空間に包まれると、寧々の声だけが澄んだ音の様に響き続けるーーーそして
「まぁそれでももし...残酷な世界で誰からも愛されず ずっと一人ぼっちで泣いてる人がいるなら その時は.....その時はボクが傍で一緒に誕生日を祝うさ。」
タバコの煙を深く吐くと寧々は優しくも子供のような無邪気な笑顔を見せ静かに笑った。
その温かな何かに胸をギュッと締め付けられるように鼓動を感じたガーナはその顔が真っ赤に萌えた...燃えた。
「オウ天然いぶし銀野郎、ゴチソウサンデス。」
まさおがガーナを見てボソリと呟くと、
「寧々さん。ボクじゃなく、達っスよ!達!!」
そこへ寧々の頭から降りた杏子がニヒルなドヤ顔で寧々の《キメッ》を持っていこうとした。
「うん 色々台無しだ。」
まさおがツッコンむ。
そしてリムークも何かに気づいたように寧々の言葉でハッとした表情を見せて中央の処刑台に目を向ける。
そもそも本日は闘技場にて王族主催の催しが開催されその警備は王都イシュダリアでも選りすぐりの兵士らによって厳重に警戒態勢がしかれる為、まさか五眷聖の手を煩わすような事態は起こるまいと眷聖らの召集はなかった。
それは王族の血族といえど直系ではなく傍系で親等が離れる程に王家から受けられる恩恵は遠ざかり、その遠縁の領主や貴族ならばそれを守る兵士や護衛の質も劣るため王族に恨みを持つ者らや賊の襲撃を受ける事も少なくないーーー
だが今回のように一国の王が出向くような催事で問題を起こすような命知らずの馬鹿はここ何十年と聞いた事がなく、だからこそ今回の催事に眷聖らは必要ないと判断された。
そこへ寝耳に水の如く【賊徒】【反逆者】【頭のオカシイ奴】が催事で暴れてるとの一報を受け、眷聖らはその前代未聞の珍事に半信半疑ながらも鎮圧へと赴き、敵が『何故』にそんな事を仕出かしたのかなど気にも留めなかったのだ。
だからこそ今一度 冷静に周囲を見渡して状況を察し、相手の意図に気づいたリムークは心底 奮えた...
リムークは今回の催事に対して政治が絡んだ茶番という事は承知しており、獣人とはいえ何の罪もない年端もゆかぬ子供が処刑されるのを酷い話とは思ったが、
しかし千年前の人族とそれ以外の種族との大戦によって敗北した獣人達の奴隷化は必然であり、己も軍人として戦に負ければ同じような処遇も覚悟する以上とくに獣人に情けをかける事はしない。
【戦争で負ける方が悪い】
【戦争で負けたのだから仕方ない】
それはリムークのみならず、この世界の誰もが思う常識であり、地球でも過去あったように奴隷制度はこの大陸の文化でもあった。
故にリムークは獣人を甚振るような趣味も無ければ、【獣人】を虐める【弱い奴】に嫌悪感は抱くものの、奴隷である獣人がどうなろうと仕方のない事との考えが日常と化す。
己の心中にあるのは たった二つ。
《強くある事と王の為に身を捧ぐ事》
リムークは出世欲や権力などに興味を持たず、ただ己の強さを磨き王の為に献身してきた結果 拳聖の名を手にしたに過ぎない。
ーーーが、それでもその名は自身の信念の証であり心は誇りで満たされた日々も、幾年かの時が経ちたった今それが音を立てて崩れ去った。
目の前の訳の分からない奴等は種族に拘らず己が命を賭しても弱きを助け、真に相手を思いやり、その為ならば巨大な力にも立ち向かう...
そんな夢物語を宣う強者か馬鹿かはまだ分からないが、少なくとも彼らは自身より強くあり強くあったのだ.....
それはたかが小娘や小僧の方がデカく見える程に。
「お前らみたいな奴ら今まで一体ドコにーーーいやドコから現れただワ? こんな馬鹿共が今まで誰にも知られずにいられる訳.....はぁあ??」
まさお達が突然 降って湧いたかのように話し始めるリムークは自分が発した言葉に急にパニクり出すと、その部下である遊撃兵団 副団長の男が言葉に詰まりながらも進言を求めてきた。
〔あ、あのリムーク様...どうするので?〕
「ぐっくそっどうするったって...おいガーナ! ~~~ガーナ? おいナニを呆けているだワッッ!!」
部下の問いに自分もどうして良いか分からなくなったリムークが頭をワシワシと掻いて賢聖ガーナに向き直ると、今だガーナは顔を真っ赤にしたままフリーズしていた。
本来ならば世界が違くとも、戦場が変わろうとも、敵が万別であろうとも戦の波が変わる事などまずない。
つまりは敵に情けをかけようと敵を救おうとも敵は己の喉元に刃を突き立てて来るものだ...しかし眷聖らの部隊を含めたイシュダリア兵は再度まさお達への攻撃の開始を逡巡する。
それは戦闘狂や出世、褒賞金目当ての兵士らでもまさお達の強さに迂闊に踏み込めるはずもなく、又 まさお達の不殺の惚けた感じは殺らなければ殺られるという防衛本能や生存本能を著しく削ぐ...
兵がブッ飛ばされてはいるが誰も殺されず、恨みという程の怒りや因縁もなく、兵を救い、終始見ていた者には何の冗談か目の前の賊が獣人の子供を助けたという事実のみ。
王に逆らう者は処刑せよという大義名分も、兵士によっては内心あの王族によく言ってやったと思う兵士らもいるだろう。
その場の兵士らが一様に周りを見渡し、その群集心理がまさお達への攻撃に躊躇を生んだのだ。
「こっちの準備は出来たぞ 博士。」
当然 まさお達はその隙を見逃さず、残りの一手である空を見上げた.....しかし、
ヒュンヒュンヒュンッッ
ズドオォーーーーーーーーーーン!!!
空から猛スピードで落ちてくるスティールマンは、そのまま激しい縦回転をしながら地面へと激突した。
「「「「「博士っっ!!?」」」」」
「ぐう、すまん...空の確保を失敗した。」
そういいながらスティールマンがゆっくり起き上がると、皆が空を再度見上げる。
その闘技場の真上には大きく翼を羽ばたかせ咆哮する一匹の巨大生物...
「「「「「げっ.....」」」」」
それを見上げたまさお達が思わず苦い顔をすると、杏子もまたその巨大生物を指差して大声で叫んだ。
「あ~~~ガイハさん あれっス! まさおが森でぶっ飛ばしたワイバーンってのは彼奴っス!!まさかここまで追い掛けて来たんスか!? 」
しかし杏子がガイハ達に目をやると、ガイハらは尋常ではないほどに体を畏縮させ、それは王都兵や眷聖らもまた同じ様に体を硬直させながら顔面を蒼白させる。
すると賢聖ガーナが声にならない程の小さい声で呟く...
「馬鹿な...三百年前にこの大陸から姿を消したのではないのか.....?」
そして拳聖リムークもまた声を震わせながら口を開く...
「お、おとぎ話だと思ってたワ...ホントにいるとは.....夢でも見てるのかだワ?」
更に王都兵らのあちこちからも信じられないと言った声が漏れ始め、中には腰を抜かす者や気絶する者まで現れた。
周囲の反応が思った以上に震撼する光景を見て杏子が横に首を傾げる...するとガイハが重苦しい雰囲気で杏子に声を掛けた。
「あ、杏子...あれはワイバーンでは.....あれはまさか...本物の....竜なのか?」
超職人大家族。も連載してるので見てください。
二作品共になるべく早く更新できるよう頑張りますので応援よろしくお願い致します。どうか...




