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何も知らない世界の君へ  作者: 瓜戸たつ
第二章 街での邂逅
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第二十九—一話 四人目


 今回はかなり短めであまり話しが進んでいません。更新も遅れています、大変申し訳ございません。





 情報屋の人が少なくなったのは、アリゼ以外にもリオンを探しに行った人がいたからだと聞いた。今は物騒なこの街の夜であるのに、アリゼの一声で外に出た人がどっと増えたらしい。パトリシア(いわ)く「愛されてると思った」だそうだ。


 ご機嫌に口笛を吹いていたパトリシアが呟いた。



「で、アリゼにお礼したいんだけど」


「そ、そんなもの結構ですよ」


「受け取っとけよ?トリッシュさん、結構金持ちだと思うぜ?」



 機嫌の良いパトリシアとユニの間で、アリゼは小さく唸る。あまりこういう事に慣れていない彼女は、無意識の内に頭が真っ白になっていたようで



「む、無理です!!それより、その……ああ、そう!あ、あの森の中の女の子ってどこに!?」



 所々噛みながらもアリゼははっきりと言った。すぐに話を切り替えてしまうのは情けないと、一人落ち込んでしまう。

 驚きつつパトリシアが「今かい?うん、分かった。レオ」とレオンに目配せすると、今まで黙っていた小柄な少女は「あの子だね、お姉ちゃん」と頷いてカウンターの奥へと向かった。



「実は起きちゃってね。五月蝿いから少しだけ遠くに行ってもらったって訳さ。普段ならしないんだけど、ちょっと焦っちゃって」



 お茶目にウインクすると、パトリシアは腕を組んで、得意げに指を立てた。



「話はアリゼが戻ってきてからしようとしてたのさ。お姉さんはそういうの大事にしたいんだよね」



 「そうなんですか」とアリゼはレオンが向かった場所を見た。情報屋は全体的に明るいもの、カウンターの奥は薄暗い。何かがいてもおかしくないくらいで、ゾッとする。アリゼは怖くなってすぐに視線を逸らした。また背中にゾクゾクと嫌な感覚が走る。「黒いから見逃された」。奇跡的に助かったが、おそらく殺される瞬間と同じくらいの恐怖を味わっただろう。アリゼは自身の腕を組み、身体を丸めた。



——ああ、駄目だ、忘れられない。どうしても、思い出してしまう。



 「大丈夫か?」逸らした視線の先にいたユニが、アリゼの様子を心配そうに窺っている。大丈夫、とすぐには言えないアリゼは口の中に溜まっていた唾液を飲み込んだ。ユニの言葉で、自慢げに話していたパトリシアも、ぼんやりしていたリオンも眉を下げて悲しそうにアリゼを見つめている。



「うん」



 アリゼは自分でも分かる程、やけに弱々しい返事をした。険しい表情でアリゼを見ていたユニの横で、リオンが何か言いたげに周りを気にした後、身を乗り出し「あの」と口を開く。

 アリゼに向けられた視線が、今度はリオンに注がれた。じっと見つめられ、リオンはその黄色の髪を片手で押さえ、



「や、やっぱり何でもないです」



 視線を落としながら、背凭れに体重を掛けて黙ってしまった。アリゼとユニはなんとなく目を合わせて首を傾げた。パトリシアも「そっか」と肩を竦めた。



「……うん」



 リオンがそこで黙り、アリゼ達も口を閉じる。がやがやと声がするのは周りだけで、アリゼはこの机だけ異様に静かだと思った。



 四人が黙って、少し経った頃だろうか。カウンターの奥から「こら、離せ!無礼者!」とヒステリックな声が上がった。これには周りの冒険者達も不思議に思ってカウンターを見遣る。



「お姉ちゃん。連れてきたよ」



 ある意味人々の目を奪っている本人であるのに、レオンは躊躇う事なく、森の中にいた少女を引きずってきた。無邪気に微笑んでいるが、レオンが少女の首根っこを掴んで連れてきているのに驚いて、アリゼの顔は引き攣った。

 苦笑いをしているアリゼをレオンは「変なの」と一瞥し、パトリシアの目の前に少女を投げた。



「ぶふっ」



 顔面をぶつけたであろう痛々しい音で、ユニの口から「うわぁ」と同情するような声が漏れた。正直ユニの頭を殴られた時の方が私は怖かったよ、とアリゼは冷や汗を浮かべた。

 器用に顔を上げ、少女は赤くなった顔を更に赤く染めた。



「いったたた……!もう許さないぞ、貴様ら!!」



 手足を縛られているのに、威勢良く少女は叫ぶ。ユニが手を出して、



「オイオイ、色々聞きたい事があるんだけど」



 少女を挑発するように頭を撫でた。アリゼも椅子から立ち上がり「お願いして良いかな」と引いて訊く。だが少女は反応を見せず、無視に徹していた。その間も、ユニは頬を引っ張ったり額を叩いたりしたが、全く反応がない。



「……はぁ、駄目だなこりゃ。夜が明けるのを待つか」



 ユニは飽きたようにやれやれと首を振り、先程の席に戻った。緊張しているアリゼを、パトリシアとレオン、リオンの三姉弟は黙って見守っている。



「あの、少しでも駄目?」



 アリゼは、また恐る恐る尋ねた。一言も話してもらえないと、個人的に辛いと思った為落ち着いて訊いたが、どうやら駄目らしい。


 ふとアリゼは、パトリシアに助けを求めた。どうして自分がユニではなくパトリシアを見たのかは謎で、身体が無意識に動いていた。



「……やっぱり、勘が良いね。うん、分かったよ」



 ふっとニヒルに笑うと、パトリシアは少女の前に膝をつく。アリゼが立ち上がった時、心なしか、少女がレオンに視線を送った気がしたが、すぐに俯いた。多分、見間違いだろう。



「ねえ、話してくれないかな」



 ユニ、アリゼに続いてパトリシアが穏やかな口調で話し掛ける。が、やはり反応はない。



「お姉さんは君の為に話し掛けているんだ。それでも、君は無視するのかい?」



 ピクリと少女の眉が動いた。少女は悩んでいるのか、下唇を口の中に隠している。それを見てパトリシアは天を仰ぎ、溜息を吐いた。そこで、仰天する事実を口にした。



「いい加減にしないか、ネリス。さすがにお姉ちゃん、怒るぞ?」


「……ごめん、お姉ちゃん」


「はっ?」


「えっ?」


「ん?」



 アリゼとユニは思わず声が漏れた。今、確かに少女はパトリシアの事を「お姉ちゃん」と呼んだ。いや、まさかとアリゼが目を見張っていると、



「お姉ちゃん、でも、私は悪くない」



 アリゼ達の頭に追いうちをかけるように、少女がまたハキハキと言った。



「うん」



 パトリシアは満足げに微笑む。しかし、少しも思考が追いつかないアリゼ達は必死にパトリシアを問い詰めた。



「いやいやいや!?トリッシュさん?ちょっと聞いてないぜ!?」


「言ってなかったからね」


「お、おかしいですって!だってこの子、森の中にいて!」


「反抗期だったからね」



 ぽかんとアリゼは口を開けた。という事は、パトリシア達は四人姉弟という事なのだろうか。ネリスと呼ばれた少女は、見た目的に、レオンの下ぐらいだろうか。

 アリゼは開いた口が塞がらなかった。





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