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何も知らない世界の君へ  作者: 瓜戸たつ
第二章 街での邂逅
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第二十一話 得る為にすべきは


 読み方がよく分からないような文字にルビを振りました。少しでも読みやすくなっていれば幸いです。







 気恥ずかしさで扉を開いたアリゼは、その家の大きさに感嘆の声を上げた。

 まるで本で見た酒場のような場所だ。

 真っ先に目に飛び込んできたのは、冒険者らしき人々が(たむろ)する姿だった。机がいくつか設置されているようで、集まって話し合いをする人が見られた。カウンターらしきところでは、何人かの人が並び、何かを手渡されている。



「あそこに並ぶんだよな」


「ひぎゃ!……えっ、あ、そ、そうじゃない?」



 音もなく近付いたのか、入った時には側に居なかったユニが、いつの間にか隣で胸を張って立っていた。

 情け無い声で叫んだアリゼを小馬鹿にしたように「はっ」と鼻で笑い「ひぎゃ、だってさ」と更に追い打ちをかけてくる。



「並んだら情報訊ける感じかな?」


「オイ」


「早く並ぼう、ね?ユーニ」



 にこ、と不自然な笑いを向けるアリゼの目には「何もなかったよね?」という脅しの色が浮かんでいたようで、ユニは眉間に皺を寄せて「怖い顔」と呟いた。



「……おう、行こうか」



 きっと反応するとユニが楽しむと思ったアリゼは、何とか気にしない振りを続けた。気を紛らわそうと改めて辺りを見渡す。

 周りにいる人は、明らかに熟練者の雰囲気を纏う人から、まだ旅やら冒険やらに慣れていなさそうな似た空気を感じられる人までと様々だった。また大人ばかりではなく、アリゼ達と近しい年齢の人もいた。

 おそらく、自分達と同じようになにか目的があって村やら街を出て、ここに来たのだろう。

 アリゼは四列中の、一人だけしか並んでいなかった列に足を進めながらも、好奇心を抑える事が出来なかった。

 この街は、きっと誰もが重宝しているに違いない。

 そう心の中で呟くと、この街の凄さを更に深く実感した。

 見た事のない鎧や兜を見に包む者、大小、長短、色々な形の武器をもつ者、青や紫といった刀身を腰から覗かせて紐で固定している者など、本当に興味深い。さっきからずっとユニは興味本位で動いていたのだと分かるが、不思議と装飾品について知りたいとは思わなかった。

 ふとユニに視線を移すと、彼は前で紙を受け取る男の背中に掛けられた、豪華な装飾が施してある剣の鞘を見つめている。アリゼもその鞘を見てみるが、何故こうも豪華にするのかとその必要性が分からず、ただ煌びやかで、目に痛かったそれを見るのをやめる。



「ありがとうこざいました、貴族様をお守り致せば良いのですね」


「はい、そうですわ」



 しかし、アリゼが目を逸らした瞬間、男のバリトンボイスと女のソプラノボイスがやけに大きく耳に入ってきた。

 「あ、次!」アリゼが前を向くと、その男性は「お先に」と一礼して外に出て行った。顔こそは見えなかったが、彼は黄ばんだ地図のようなものを手にしていたのだけは分かった。


 暫し出口を眺めていると隣でユニが「おい、見過ぎ」とアリゼの肩を叩いた。自分的にはそんなに見ていたつもりではなかったのだが、客観的に見たらかなりじっと見つめていたらしい。「ご、ごめん」



「そりゃ、あの人の武器の金箔っつーのかな?それの多さといったら何か凄ェし金もかけてんだろうよ。まあ、武器は見た目より性能だぜ。あんなもの憧れる程子供じゃねえしな、ホントあんなの重いだけだっつーの。……いや、もしかしたらあの武器、王様とかあの辺から貰ってたりするのか?それだったら価値あるものって事だよな。それに……」



 ユニの口から、彼が最初に否定した憧れが滲み出している。腰に手を当て、片目を閉じる器用な仕草をして早口で喋るユニは止まらない。どれだけ否定したいのか、それともただ武器について語りたいのか、いつの間にこんな武器オタクとなったのだろう。



「……あら、今度は可愛らしいお客さんだこと」



 アリゼが呆れて言葉を失っていると、男性と話していたらしき女性が口元に手を当てて微笑んでいた。

 意外な人物がユニの言葉を制止した事で、アリゼとユニは彼女に驚きの目を向ける。



「あら、お邪魔でした?失礼致しました、お話なさってもお止めしませんわ、どうぞ?」



「あっ、いえ、結構です!すみません!ほら、ユニ!」


「えっ、あ、すみません……」



 どうして謝るのか、と頭の上にハテナを浮かべたユニは流れで謝罪する。



「謝らなくてもよろしくてよ?」



 お嬢様口調で笑みを崩さない女性は「ふふ、微笑ましい」と穏やかな言葉を述べた。



「さて、本題に入りましょうか」



 丁寧な口調で女性は高い声を抑える。綺麗なロングヘアーを垂らした女性は、一言で表すと大人の女性という感じで、アリゼは目を奪われてしまう。そんなアリゼの隣でユニが「……でけェ」と溢してしまったのは、きっと変な意味じゃないだろう。が、何となく嫌な気分になった為、アリゼはとりあえず彼の脇腹に肘鉄をかましておいた。


 えっ、と女性から声が漏れたのは仕方がないと思う。「ぐぅぅ」とユニが脇腹を押さえて悶えているが、アリゼはそんな彼に冷ややかな視線を送りながら「お願いします。」と女性に応える。

 女性は目を丸くしてユニを見ていたが、切り替えるように咳払いをしカウンターの下から紙を取り出した。



「え、ええ……では、コホン。ここは四番目に位置する情報屋です。情報屋はこの街に一から十まであり、四番目のここは基本的に冒険者様向けの魔物退治、貴族の護衛等の情報を取り扱っております。一番、情報屋っぽくなく、依頼のような形で受けるのがこの四番目の特徴です。いえ、もちろん最新の情報も受け取っております故、お伝えする事も出来ます」



 噛まずに言い切った女性は、そこで一度言葉を切る。



「申し遅れました、私レミテイルと申します。何か、お求めな情報、ご依頼はありますか?」



 変わった情報屋だな、と素直にアリゼは思った。情報屋と聞くだけなら、依頼を貰えるなんて考えもしないだろう。

 それに、情報がタダでもらえるとは思っていない。



「あの、依頼とってるのがここだけって、何か意味があるんですか?」



 「意味、ですか?」レミテイルは細く伸びた指を顎の下に当て、健康的な色をした自身の肌をなぞった。「意味というより、情報屋全ての責任者が違うんですよ」


「責任者ですか?」


「はい。一の情報屋ならこの人、二の情報屋ならその人、三の情報屋ならあの人、といった具合に違うんですよね。統括しているのは一人なんですが、まぁ、そんな感じで分けられています。四の情報屋(ここ)の責任者は結構変わった貴族なんです。他は、その、すみません、私はあまり詳しくなくて」



 レミテイルが申し訳なさそうに目を伏せた。アリゼが次何を言おうと迷い、焦っていると「パワフルになったな、アリゼ」と悟ったように呟いたユニが会話を繋げる。



「レミテイルさん、でしたか?実は聞きたい事が二つだけあるのですが」


「それは情報ですか?依頼ですか?」


「一つは情報ですが、もう一つは世間話に近いです」



 ユニが何を聞くのか一つは理解していたが、もう一つが何なのかと疑問に思う。

 ユニがこちらに目配せをしてきたが、分からないアリゼは肩をすくめる。



「えっと、じゃあ世間話的なものを」


「はい」


「……情報っていくらかかります?」


「いえ、お金は結構です。ただ、私達のお願いを聞いてくだされば、それで良いのです」



 「へえ!」カウンターに体重をかけ、腕を組んでいたユニの目が街中で見た時のように輝いた。



「では、まず聞きたいのはこの街に入ってくる時の検問についてなんですが」


「はい」



 そこでやっとアリゼはユニの聞きたい事を把握出来た。「なるほど、良い事を聞くね」と言いたくなる。



「あれって前なかったらしいんですけど、何で今あるんですか?」



 「それは」とレミテイルが初めて言葉に詰まった。しかしすぐにユニの目を見つめると「最近、この街は物騒になってきまして」と紡いだ。


「実は今、この情報の街と呼ばれるライナスで殺人が起こっているんです。三日に一人、誰かが殺されているんです」


「殺され……!?」



 アリゼとユニは息を呑んだ。おそらくライナスと言うのは情報の街と呼ばれるこの街の正式な名前なのだろう。安心安全だと聞いていたはずなのに何故、と目で訴える。



「今は夜に外出を控えるように領主様から連絡がありまして、普通だったら防げるはずなのに、防げないんですよね。昼は本当に安全なんです。ただ、亡くなった方は皆夜に殺されてまして、その、首を」



 レミテイルは言いづらそうに首を振って「いえ、言いますわ」と自分に言い聞かせるように息を吐くと「それで」と言葉を続けようとしたが、ユニが彼女の前に右手の平を向け、静止させる。



「結構です、分かりました」



 ユニが冷静に言い放った。しかし、昼は多くの人で通りが賑わうのに、夜は人が一人も通らないと想像すると怖くなる。そして殺人鬼が彷徨いているなんて条件が加われば、一層街が恐怖に怯えるに違いない。



「検問の事情が分かって、良かったです。あと一つ聞いて良いですか?」



 ユニは腕を下ろし、首を傾げた。こういう何気ない気遣いを美少年と言うのかもしれない。



「すみません、どうぞ」



 「実は行きたいところがあって」というユニの言葉の続きはは見ず知らずの男性の「レミテイル、交代だ」と呼ぶ声にかき消された。

 カウンターの向こう側で、レミテイルの側にザッと二メートルはあるであろう大柄な男性が彼女の肩を掴んだ。



 「レミテイル、交代だ」と繰り返すと、その男性はアリゼとユニに嫌悪感剥き出しの表情を向けてきた。筋骨隆々とした男性の眉を寄せた顔は、アリゼとユニを黙らせるのに十分な迫力だった。

 レミテイルが困ったように「フリッツさん、このお客様は私の受け持った方ですわ」と反論するが、フリッツと呼ばれた男性は言葉なしで無理矢理彼女の肩を引き追い払うように指を反らして振った。


 「すみません、お客様」と涙目になっているレミテイルの理由は分からなかったが「いえ、ありがとうございました」とお礼を言った。

 レミテイルが別のカウンターに移動し、黒髪の大柄な男性はアリゼとユニを値踏みするように見下ろす。



「俺ァ、フリッツって言うんだ。悪いな、アイツまだ新人でさあ」


「はぁ」



 先程の視線は嫌だったが、アリゼはなんとか返事をした。が、ユニはフリッツを鋭い目付きで睨んでいる。



「交代したのは、アイツじゃ駄目だと思いましたんでね。で、おたくら何処に行きたいんだい?」



 アリゼの目ではなく、ユニの目をじっと見つめてフリッツは身を乗り出した。ユニが応えるかと思ったが、睨むだけで特に反応を示さない。答えないのは失礼だと思い、アリゼは口を開いた。



「あ、はい。私達ある村に行きたくて」



 アリゼが恐々と言うも、フリッツは耳を傾けず、ずっとユニを見ている。胸にもやっとしたものが溜まり、ムッとしてアリゼはまた言おうとするが、フリッツは目だけをアリゼに向けて、



「お嬢ちゃん、俺ァこの坊主に聞きてえんだ」



 そう低い声で発するとすぐに視線を戻す。「す、すみません」感じ悪いなあ、という不満と自分より遥かに身体が大きく逞しい男性への恐怖で、アリゼはそれ以上何も言えなかった。

 悄気(しょげ)るアリゼを見て、ユニは「チッ」と彼らしからぬ舌打ちをした。



「ちょっと、アンタ酷いぜ。聞いておいて無視すんなよ。それに俺らはレミテイルさんと話してたんだ、交代してくれ」



 客故の強気な態度なのか、ユニはフリッツの事が心底気に喰わないらしく顎を引いた。

 しかしフリッツは気にならないといった悪びれぬ態度で「こいつはすまん。だが新人は色々大変なんだ、この業界も色々あんだよ」とユニと同じく顎を引く。

 ピリッとした空気が二人の間に流れたが、アリゼはどうする事も出来ずただ立ち竦んでいた。そこでやっと、この情報屋の家がとても静かな状態になっている事に気が付いた。誰一人話さず、ある人は目を逸らし、ある人はフリッツを瞬きせずに見つめている。



「ま、聞く前に頼み事だ。アイツに聞いたろ?情報の代わりに依頼を受けろって」



 「はぁ?」とユニはやはり不快感を露わにした。こんな大男に動じず、反応的な言葉を返すユニは凄いが、こんなにも腹立たしく怒るユニは久し振りに見た気がする。



「そもそも、アンタ誰?」


「俺はフリッツだっての。レミテイルの上司で、この村に来ている傭兵団の一人でもあるんだが、そんなのはどうでも良い。そこに行くのか行かねえのか」


「行かないに決まってるだろ。というか、どういう依頼かを教えろよ」



 ざわ、と静かだった周りから(どよ)めきが上がった。

 普通だったらこんな誘い断るに決まっている。

 第一印象最悪な男性に情報をもらう為に命令を聞くなんて、誰が聞くのだろうか。



「無理だ、引き受けたら教える。あのな坊主、いや坊ちゃん、普通断るか?」


「断らない方がおかしい」



 フリッツも舌打ちをし、即答したユニを睨んだ。

 アリゼが介入する余地は、本当になくなってしまった。



「分かった、じゃあ、これは情報屋(おれたち)からの頼み事だと思って引き受けてくれ。そこのお嬢ちゃんと一緒で良い、二人で頼まれてくれねえか?」



 ユニがアリゼを見遣る。ユニ的には、こんなくだらない事で時間を潰したくないし、何よりこの見下す態度が嫌だったし、アリゼを巻き込みたくもない。

 だが、アリゼは「い、行くなら一緒に行く!」と震える声で頷いた。



「え、俺行きなくないんだけど……」


「えっ、そ、そうだよね!早とちりだった、はは」



 気が早かったとアリゼは頭を掻く。

 少し気が楽になったのか、ユニは僅かに微笑を湛えて「なあ、アンタ。引き受けたら俺達が得する事あるか?」と尋ねた。



「ある。情報をやる」


「他には?」


「……情報以外の何かをやろう」



 ユニがどうだ?と視線を送ってくる。本当は絶対にやりたくなかった、否、やりたくない。しかしフリッツはしつこく、きっと断るのは許さないだろうと直感した。



「良いよ。ユニ、引き受けよ」


「おう」



 「て訳だ、やってやるよ」とユニは腰に手を当てた。「何すれば良いんだ?」

 フリッツは不敵な笑みを浮かべ「引き受けたな?引き受けたな?」と念を押すように、洗脳するように、ユニに言い聞かす。



「どうもだ。じゃあ、地図を渡すからここで魔物を倒してこい」


「は?魔物?」


「出来るだろ?お前達冒険者だからこの四の情報屋に来たんだろ?」



 しまった、とアリゼは唇を噛んだ。詳しく聞かずにここに来た為、どれだけ慣れていなくても冒険者扱いになるのか。

 焦るアリゼとは対照的に、ユニは余裕のある口調で「分かった、やってやるよ」と吐き捨てた。



「頼んだぞ」


「仕方なくだっての。っつーか、お前ここで働いてんなら客には敬語を使うべきだろ。それにその悪い目付きも努力して良くしろ。態度の悪い従業員なんざ、誰も求めてないと思うぜ?」



 言ってやった、とユニは満足顔でフリッツの手から地図を奪い、アリゼの腕を引いた。こんなにも、ユニを格好良いと思ったのは初めてだろう。「悪い。色々言っちまった」と小声で囁くのがユニらしい。



 「オイ!」と扉に手を掛けたアリゼとユニにフリッツは叫んだ。「失敗したら分かってんだろうな!?」



 「行こうアリゼ」と完璧に無視に徹するユニの背中に、フリッツは先程より低い声で「オイ」と呼び掛けた。



「聞きたい事がある。お前だ、お前。男のテメエにだよ——その目は本物か?」



 「はっ?」おかしな質問に思わずユニは振り返る。紫色の瞳に嘲笑の色を滲ませて「当たり前だろ。」と小馬鹿にするように笑い、すぐにその場を離れた。



 地図を手に、ずんずんと進むユニの手に引っ張られながら、アリゼは彼が更に頼もしく見えた。






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