××I これは誰かの悲願
届け。
届け。
僕は手を伸ばし、周りの人間に助けを求めた。だが、誰もその手を掴んでくれない。振り払う事もしない。ただ気付かずに通り過ぎて行く。
誰も理解してくれなかった。
僕が何と言おうと、困惑した顔で見つめてくるだけだった。唯一の肉親の父親も気味の悪い者を拒み、嫌った。
故に、『それ』に怯える僕を嫌った。
「信じるな」と言い聞かされても聞かなかったのが悪かったと思う。
でも、子供の頃は何でも信じてしまった。
『彼女』に言われた通り、僕はこの目で、暗闇の未来をずっと見てきた。
本当に、信じたのがおかしかった。
今なら笑えるだろうな。
苦笑し、過去を後悔したたった一人の僕の周りには誰もいない。いや、自分から他人との接触を極力避けてきたと思う。
——家出して、旅をして、ある男と出会い、戦争に参加する。あるものを失い、ある事を知ってから、小さな村で命を落とす。
それが、僕の未来。
『彼女』が小さな僕にした予言。信じてはいけなかった、僕の運命。
暫く一人で森を散策していた時、僕は名前も知らない、とある男に拾われた。
その後は、ラガンライラという都市へ連れて行かれて、戦争と呼ばれるものをこの目で見た。
それからは、流れに身を任せて自分の好きな事をした。頼まれれば誰でも守るし、頼まれれば誰でも殺す。
僕は頼まれた事を断らず、淡々と仕事こなす傭兵のような存在になったらしい。よく情報屋の間でそういう噂を聞いたからだ。またある時に、仕事で出会った茶髪の女性に「良心がないんだね」と言われた時、怒りは湧かず、納得した。
僕はあるもの、イコール良心を失ったのだと思う。
これも『彼女』の予言通りだった。
そうやって「ああ、当たったな」と感じる時はいつも「いつか予言が外れてほしいな。」と口癖のように、今でも呟いている。
*
ある村で、僕は君に会った。
「良心がないんだね」と言ったあの女性によく似た君と出会ったのは予想外だったよ。
何処かで会った事ある?って聞いたら知らないって返すんだから驚いた。
まあ、君とはあまり関わらないと思ってたのに、しつこく君は付きまとってきたね。昔は嫌だったけど、今はもう平気だ。だって、君は何気なく話した僕の未来を信じてくれたからね。
予言が外れたのは嬉しかったし、僕は君に会えて救われたのかな。
ふふっ、と一人で笑うが、まるで霧の中で遭難したような目前の霞みと絶望で、苦笑する形になってしまった。
後ろには壁、前には石を狙う獣。こんな状況は、きっとぼんやりとした頭が生み出した悪夢に過ぎないのかもしれない。いや、悪夢が良かったかな。
信じていた人にはとことん裏切られる人生だった。
でも、こんな僕を信じてくれた人は確かにいた。拾ってくれたあの男性も、心が病んでしまった戦友も、正直に全てを打ち明ける事が出来た君も、弟のように体験談を嬉々として聴いてくれた少年も、最期に腕を伸ばした少女も、かけがえのない人々だと言える。
足元に溜まる自分の血液を見て、身体が、頭が、危険信号を発しているのが分かる。
「私は目を離さないからね」と言った君から怖くて逃げ出したら、このザマだ。まさか、この村の森で襲われるなんて思ってなくて。
——ね、君はこんな僕をどう思うかな?
目の前の獣が動いた。そう、こいつらは獣と称しても良いくらいに飢えている。
「やっぱり、予言は外れないんだね」
予言、いや決められた運命。『彼女』から逃れられないのが人間だ。
それが当たり前。『彼女』達にとっては未来を当てているのではなく、すでに決まった人々の末路をただ言っているだけの、作業に過ぎない。
最期に、愛しい君達の茶髪が見たかった……なんて言うと、引いちゃうかもね。
身体に伸びてくる逃れられない運命を物質と化した『それ』を一瞬見遣り、僕は目を閉じた。目の奥には、記憶を失った少女の後ろ姿が映し出される。
「でも、きっと思い通りにはならないよ、××××」




