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お家存亡のため、ヒトの心が解らない辺境伯さまとやらに無理矢理嫁がされましたが、毎日一緒に過ごしていたら情緒が未完成なだけだと解ったので一緒に外交内政を頑張ります。ところで実家、私が居なくても大丈夫?  作者: 雪車町地蔵
第四章 治水を行いつつ、将来について考えましょう!

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第六話 生け贄至上主義ですか!?

 レクター老からの問い掛け。

 私が本当にやりたいことについて、ここ数日悩んでいました。

 それは、アガメノンの復興に(たずさ)わっているときも同じです。


 メイドのセレスさんや、護衛のかたに付き添って貰いながら、現地での土砂を撤去。

 建物の再建や、畑の回復などを行っているときも、私は心の片隅で、これがやりたいことなのかと自問自答していました。

 無論、言うまでもなく、やるべきことであるのは間違いありません。


 閣下の妻としても、貴族としても確実に為すべき役目です。

 だから、疑念がよぎるたびに頭を振り、私は仕事に打ち込みます。

 そんな折りでした。


「橋を架けるならよぉ、生贄(いけにえ)を埋めてくれよ、若い女がいいぜ」

「今どき人身御供(ひとみごくう)だと?」

「おうよ。おれたちゃ生贄至上主義だからよぉ」


 (いか)つい顔つきの方々と、作業員の方々が、何やら揉めている場面に遭遇しました。

 事情を(うかが)うと、強面(こわもて)の方々は、現地民の皆さんから工事を請け負ったと自称しているらしく。

 なんでも、作業を安全に成し遂げるには生贄が必要だと強弁し、作業員の皆さんを足止めしているようでした。


 むむ、生贄至上主義とは、古風な価値観です。

 たしかに、数百年前の風習であれば、人柱を立てることで橋が安定する、なんて逸話(いつわ)もありました。

 しかし、いまではすっかり(すた)れた考え方です。

 人道的に問題がありますし、再現性がありません。


 教会が奉る神さまとは別に、あちこちに宗教というのは残っていますが、その権能、(あらわ)す秘蹟というのは、どこも枯れて久しいものです。

 端的に言うなら、神さまに祈って助けて貰おうという考え方は、現在では否定的にとらえられています。

 もっと慎ましやかな、感謝や祈りを捧げる相手こそ神さまだと定義されているのです。


「みなさん、よろしいですか? まずは陳情(ちんじょう)をお願いします」


 このような場所で言い争っていても仕方がないですし、陳情ならば受け付けられます。

 書面にして要望として提出されたなら、それが多数派の意見でなくとも、ここ辺境伯領ではしっかりと審議されるのです。

 なので、まずは対話の準備をしましょうと、私が願い出たときでした。


「……こいつか?」

「こいつだな、やっちまえ!」


 生贄至上主義を語る彼らが突如、土木用具を手に襲いかかってきたのです。

 思わず、身がすくみます。

 暴力は、ふるうのもふるわれるのも苦手だからです。

 そしてこの場に、閣下はいません。

 私めがけて投げつけられるスコップ。


 ギュッと目を閉じたとき、また脳裏を疑念がよぎります。

 これが、私のやりたいことなのかと――


 自分に吐き気がしました。

 責務に対して、誰かのための行動に理由を求めるなんて、恥ずべきことです。

 痛みや理不尽ごときを前にして、為すべき事を(ひるがえ)すなんて、あってはならないことなのです。

 だから、このまま打ち据えられても仕方がないと考えて。


「ぎゃっ!」


 悲鳴が上がりました。

 おそるおそる目を開けると、強面の皆さんはセレスさんたちにたたき伏せられて、這々(ほうほう)(てい)で逃げていくところで。


「アンリさま、お怪我はありませんか? セレス、一生の不覚。追い返しましたが、つぎに顔を見たら全員しょっ引いてやります」

「い、いえ、そこまでしていただかなくとも……」


 過激な物言いをするセレスさん。

 けれどすぐに、彼女が私を安堵させたくて、冗談を言ってくれているのだと解ります。

 このひとは、とても優しいかたなのですから。


「彼らも雇われているだけのようでしたし、そこまで罪もないでしょうから」

「……アンリさまがそう仰るなら、致し方ありませんね。罪人、放免」

「罪人ではないですよっ!?」


 なんてつっこみながらも、私の内心には、暗澹(あんたん)たるものがありました。

 先ほど感じた邪念、妄念は、忌むべきもの。

 その日の視察を終え、お屋敷に戻っても、私は深く、思い悩んでしまっていたのです。


 まだまだ、領地全体の治水工事や、ダムの設計など、やるべきことは山積みなのに。

 人々の暮らしがよくなるように、力を尽くしたいと思うのに。

 石を投げられることに怯え、そんなことで立ち止まる自分に腹がたち。


 葛藤(かっとう)に葛藤を重ねて、頭の中がぐしゃぐしゃになってしまって。

 両目に、涙がにじんできたときのことです。 


「アンリ、少し出かけないか。(こん)を詰めすぎるのは、俺たちの悪いクセだ」


 閣下が、そんな提案をしてくださったのは。


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