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お家存亡のため、ヒトの心が解らない辺境伯さまとやらに無理矢理嫁がされましたが、毎日一緒に過ごしていたら情緒が未完成なだけだと解ったので一緒に外交内政を頑張ります。ところで実家、私が居なくても大丈夫?  作者: 雪車町地蔵
第四章 治水を行いつつ、将来について考えましょう!

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第三話 辺境伯の家庭教師です!

「いやぁ、サッパリした。清潔にはしていたつもりだけれどね、風呂に入ったのは久しぶりだった。新しい着物もありがとね! この藍染(あいぞ)めという技法はいいね、風雅だ」


 お屋敷に入るに至って、身ぎれいにされたレクターさんは、見違えるようでした。

 先ほどまでは、その日暮らしすらままならないようなボロ布に包まれた腰の曲がった蓬髪(ほうはつ)ご老人という感じだったのですが――いえ、とても失礼なことを言っている自覚はあるのですよ?――現在は、背筋もしゃんと伸びられて、髪も頭頂部で(くく)られて、おひげも整えられて、どこか賢人のような(おもむき)さえあります。


 レクター・スピリオさん。

 閣下の、教育係だったご老人。

 私はこのお方について何も知りません。

 けれど、閣下が信用されているという一点で、これから一緒にお仕事をしていくことになります。


「早速で申し訳ないのですが、レクターさん、御力を拝借できますか?」

「ほっほっほ。そのために舞い戻ってきたからねぇ。大変だったよ、山越え。ついでにアガメノンも視察してきたさ」


 山越え?


「失礼ですが、レクターさんはこれまでどちらに?」


 彼とともに、お屋敷内に用意していただいた私用の書斎へ向かいながら、そんな問いかけをすると、想定外の答えが返ってきます。


「ガリューンだね」

「え?」

「アジフにもいたし、極東にも行った。大陸と近隣の島国は、この十年で大半回ったかな」

「あなたは、いったい……」

「だから、家庭教師だよ」


 老賢者が、にっこりと笑います。


「世の中を少しでもよくしたいと願う、世話好きなただのジジイさ」



§§



 書斎に辿り着いて、資料を机いっぱいに広げ、私はレクターさんにご意見を伺っていきます。


「早速なのですが、アガメノンに必要なことはなんでしょうか」

「ふふ」


 老人は、微かに笑いました。

 そうして、


「まずはお嬢ちゃんが考えていることを言ってごらん」


 と、こちらに問いかけを投げ返してきます。

 なるほど、家庭教師っぽいですね。


「アガメノンに限らないのですが、高山地帯から続く河川一帯には護岸工事が必要でしょう。同時に、これだけではいざというときの対応になりませんから、大雨を受け止める容器が必要になると思います」

「それをダムという。自在に放出する水の受け皿、人工的な巨大な溜め池とでも言えばいいか」


 ダム。

 そうですね、必要なのはそう言った概念でしょう。

 水の出入をコントロールする施設が必要になってくるはずです。


「残念ながら、私にはアイディアと知識があっても、実際に行った経験がありません。ダムの設計や、設置場所を一緒に考えていただいても良いですか? できれば、試行の実施についても意見を頂きたくて」

「もちろんだとも。しかし、そうだね。そのまえに、お茶でも飲みたいな。何せ長旅だったから」

「これは、失礼を」


 私は慌てて厨房へと走ろうとしますが、そのときには入り口が勝手に開いていました。


「必要ありませんよアンリさま。このクソジジイには現地の泥水でも飲ませておけばいいのです。セレス、プンスコ」


 現れたのはセレスさんでした。

 吐き出した悪態とは異なり、彼女はティーセットを携えています。

 素晴らしいタイミングですね。


「聞き耳を立てていたのかい、セレス」

「そのようにはしたない真似を、主さまのメイドはいたしませんので。ええ、家庭教師ならやるかも知れないですけどね」


 あれ?

 あれれ?


 なにか、お二人の視線がバチバチしていませんか?

 ひょっとして、私の(あずか)り知らぬところで因縁とかあったりなかったりします?


 ハラハラしながらにらみ合う二人を見ておりましたが、どちらともなく興味を失ったようにそっぽを向かれ、私は安堵の息を吐きます。

 一端お茶を(きっ)して休憩。

 仕切り直します。


「ともかく、辺境伯領の領土(りょうど)強靱化(きょうじんか)は必須です。今後も異常気象が続くようならば、災害対策はしておくに越したことはありません」


 私の言葉に、レクターさんは一つ頷き。

 それから首をかしげます。


「けれど、あなたはそれを一存で決められる立場ではないね?」

「もちろんです。ここでの意見をまとめて、計画書を作り、閣下に提出して許可を仰ぎます」

「そんなことしなくとも、アンリさまがお願いすれば、主さまは悪いようにはいたしませんよ? メロメロですし。セレス、不思議」


 メロ……というのはよく解らないですが、横車を押してはいけません。

 これは、どうあっても領土全域を巻き込む問題です。

 領民さんたちにも負担を強いることになるでしょうし、国土防衛においても影響が出かねません。

 各所の兼ね合いは必要ですし、私の独断では誰も動いてはくれません。

 責任を押しつけてしまうことは大変心苦しいですが、閣下の採択無しには、行動なんて出来ないのです。


「あのイェルハルドがメロメロ? 悪いようにはしない?」


 ところが、レクター老は、なにか別のところが引っかかっているようで、しきりに首をかしげていました。

 彼はしばらく考え込んだすえ、こう尋ねてきます。


「あなたとイェルハルドが、今日までどんな生活を送ってきたか教えて欲しい」


 場合によっては。


「イェルハルドに再教育を施さなければいけない可能性もある」



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