第七話 産業が増えました!
「太陽……?」
誰かの言葉は、ある意味で正解だったのでしょう。
一流の侍従であるセレスさんによるお化粧で、私の貧相さは覆い隠されていましたし。
なによりも、ルーくんの村の方々が作った〝それ〟は、素晴らしい出来映えだったのですから!
燦然たるドレス。
鮮やかなオレンジ色に染められた生地がまばゆく映える中に、繊細な刺繍が彩り。
無数のフリルが層をなして、たなびくほどに長い裾までを、咲き誇る太陽のように輝かせます。
「あの光沢……まさか、シルク?」
「まあ。国内でも出回り数の少ない絹をあんなに贅沢に? いいえ、そもそも品質がとてもよいような」
「なんて若さと情熱に溢れたドレスなの……」
「見事に着こなしている、麗しの乙女だ……」
「あの生地、どこで手に入るのかしら、是非とも知りたいわ!」
いくつも上がる感嘆の声。
私は嬉しくなりました。
だって、ルーくんたちは本当に頑張ったのですから。
このドレスは、彼らが織りなした最高傑作です。
きっと多くの方が希求してくれることでしょう。
これだけの演出をしてくれた閣下には、感謝の念しかありません。
そう思いながら、隣のイェルハルド閣下を見上げると、そっと腕を突き出されました。
えっと。
これは。
まさか……エスコート?
「行こう、アンリ。どうせなら一曲付き合って欲しい。きみを皆に見せつける」
「嫌と言っても聞かないでしょう?」
「君が心から願うならば」
「もう」
私はちょっとだけ頬を膨らませて。
それから彼の腕を取りました。
かくして、アンリ・ユングバリとしての社交界リデビューは。
おそらく、成功裏に終わったのです。
§§
しばらく経って、私がルーくんの村を訪れました。
そこで、大いに驚くこととなります。
村人の皆さんが、総出で私に跪いてきたのです。
何事かと戸惑っていると、ルーくんが歩み出てきて、
「これまでのご無礼をお許しください」
そんな風に、らしくもない敬語で口にしました。
どうやら、あのパーティー以来、辺境伯領のシルクと染料、さらに刺繍の技術は大いに買われたらしく、ここだけでなく手法を伝授していた全ての村々が一気に潤ったのだとか。
おかげで食事に困ることもなく、御洒落をする余裕までできたとかで。
というかこれ、バレましたね? 私の正体。
そりゃあそうですよね。
シルクを買い付けに来た商人さんたちとの値段交渉を行ったのも私ですし……。
「心より感謝申し上げます、辺境伯夫人さま」
平伏する皆さん。
困惑するしかない私。
一応、説得してみますか?
「一緒に糸紡ぎをした仲じゃありませんか。これまで通りで構いませんよ?」
「構います! さすがに、ぼくたちの命的なものが!」
ちょっと大声になるルーくん。
ウンウンと頷く村人の皆さん。
そ、そこまで仰るなら……。
「でも、私たちは仲間です。何か困りごとがあれば、いつでも頼ってくださいね?」
「……アンリ様……」
オロオロと泣き始める皆さん。
いよいよどうしたらいいかわからなく私。
いえ、今日はこんな戸惑いを見せるために来たのではありませんでした。
「ルーくん、お姉さんは、どちらに?」
「はい!」
彼が意気よく応えると、ひとりの女性が、村人の皆さんたちのなかから立ち現れました。
遠くからでも目を惹く、純白のウェディングドレス。
彼女こそ、ルーくんのお姉さん。
そして今日こそは、延び延びになっていた彼女の結婚式だったのです。
そう、私はこのイベントに参列するため、やってきたのでした。
ルーくんたちが贈ったドレスを、彼女が身につけた姿を見るために。
結婚式に、参列するために!
§§
結婚式は、村を挙げて行われました。
みんなが笑顔で、或いは感涙しながら花嫁を見守り。
村の小さな聖堂で誓いの言葉を唱え、口づけをかわし。
そのあとは宴会になって、飲めや歌えの大騒ぎ。
ルーくんは泣きべそを掻きながらお姉さんと抱き合って。
とても、とても楽しい時間が流れます。
私も、主賓のひとりとして、彼らに言葉をおくり。
それから一つ、大事なことを付け足しました。
「皆さん、聞いてください。各領から、シルクを求める声がたくさん届いています。閣下も、主産業として力を入れる旨を宣言してくださいました。つまり、つまりです」
私は声を大にして、皆さんへと訴えるのです。
「これから忙しくなりますよ? たくさん、素敵なドレスの原料を作りましょうね!」
歓声が上がります。
この場に居合わせた、各村々のえらいかたも喝采を口にして。
ひとびとが、活気づいて。
それは、とても素晴らしい光景で。
だから、私は知るよしもなかったのです。
このしばらく後。
辺境伯領を、ある事件が襲うなんて――




