十三話ー争奪戦
自身の願いを小さいと小馬鹿にされムッとするクロ。
まあ怒るのは分かるんだが、もうちょっとこう……絶大な力に相応しい願いとかあるんじゃないの?
「何を言うんだ! あんのクソ上司よりも偉くなって、デスクでふんぞり返りながら「お茶」って命令をしてやりたいんだクロ! 想像するだけで快感だよ!」
「そんならどうして現場にきて魔物を呼び出してんだよ! 願いまんまに偉くなってデスクにいるんじゃねえのか?」
そう、願いが叶うならそのまま偉くなるはずだ。魔物を呼び出す事とどう関係があるのか。
「いや、違うクロ、確かに出世したいクロ。でもただ出世したいわけじゃない! ボクたちのチームの業績をどーんと上げて、確かな実績を見せつけてやりたいんだクロ! 同僚や上司に! そんで高笑いしたいんだクロ!」
短い手足をばたつかせて自身の願いを力説している。
一息に話した後、クロは内緒話をするようにこちらへ口を寄せた。
「で、うちの業務でポイント稼ぎやすいのって、魔物討伐なんだよねクロよ。だから、暗黒結晶に魔物をポコポコ呼べる力を願って、呼んだ魔物を君たちに倒してもらえば、業績ウナギ登りって寸法よ! クロ!」
「それ知ってる! マッチポンプって言うやつだ! アホか! 何が確かな実績だ! 不正でしかねえよ!」
こいつ絶対バカだ!
それを実行に移している辺り、レイやマリネより救いようがないかもしれねえ!
「つうかお前、過労で倒れたんだろ!? そんな職場でまだ働きたいってのか!? 俺はてっきり過労の恨みで裏切ったんじゃないかって思ってたんだけど」
「ああ、過労は暗黒結晶をちょっと調べるための偽装だし、そもそも恨みなんてあるわけないクロ。やりがいがあって、確実にスキルアップできるアットホームな職場クロ」
「ブラックぅー!!」
もう駄目だコイツは。少なくとも味方じゃない。……例えその案に乗ったとしても、ブラックに染まったコイツの案がどんなスケジュールなのかなんて想像に難くない。
コイツをしばいて暗黒結晶を取り上げるためにレイとマリネに戦闘開始を告げようと後ろを振り返ったら、キラキラと目を輝かせたダメ魔法少女がいた。
「ナイスアイデアね! クロったら天才だわ! これで魔法少女ポイントでいろんなもの買い放題ね!」
「うふふ、わたくしは女児に話しかけることを組織から厳重にロックされてしまいましたが、ポイントを使って権限を開放すれば……!」
それはちょっと心惹かれる内容だけども! それとマリネは後で浄化魔法な!
魔物を自由に呼び出してポイント荒稼ぎ、それはとても甘い誘惑。しかし、それは超えてはならない一線だ。
――そんなことのために魔法少女になったわけではないんだ。
思い出せ、魔法少女になって何をしたかったのか。
……なんて真面目な事を言っても、欲に目がくらんだ者を説得できるとは思えなかったから、現実的な話で夢から覚ませよう。
「クロー? お前の出世作戦は、一体どんなスケジュールなんだー? どのくらい魔物を倒せばいいんだー?」
「お、なんだかんだ話がわかるじゃないかクロ。えーと、20分くらいで一戦闘として、それを学校がある日は8時間分やってもらうよクロ。学校がない日はありったけ。休憩は多めに10分……ああ、ハジメちゃんの回復魔法があるからもっと短くても良いクロね。今のを基本として、自然発生した魔物も当然倒してもらうクロよ。これを一ヶ月続けて慣れたらもっと詰めるクロ。ああ、ちゃんと睡眠時間もあるから大丈……」
「悪の手先! 覚悟しなさい!」
「美容に仇なす黒ブタめ! 成敗してくれますわ!」
予感的中。そんなもん無理に決まってんだろ。
クロはどうして断られたのか分からないと言った様子で、おそらく鬼のような顔をして詰め寄るレイとマリネを根気強く説得しようとする。
「ええっ!? 睡眠時間があるだけ破格の待遇クロよ!? ポイントもちゃんと支払われるし! あーでも夜になったら先にタイムカード切ってから――」
「やかましい! もうお前とは交わす言葉もねえ! レイ、マリネ! やるぞ! アイツには長い休暇をとってもらう! 病院でな!」
「ひええ!?」
俺達の剣幕に押されたじろぐも、すぐに不敵な笑顔を浮かべるクロ。
まあ不敵なのは表情だけで、空高く逃げたし身体はブルブル震えてるんだけどな。
「もう、情報規制を破ってまで君たちを勧誘しようと思ったのに……。でも、ふふん、ボクを止めたいのなら、このスライム君を倒してからにしてほしいね! クロ!」
そう言ってクロが指さしたのは、俺達の天敵とも言える魔物、スライム。
俺達の会話の間、一歩も動かずに佇んでいる。
そういやいましたね。
まあ、あんま関係ないけど。
「そのスライム、動けるのか?」
「あー……やっぱりバレてたクロか?」
とっくにバレてるクロ。長く話し込んでいたのに、一切動く気配がなかったからな。
最初はクロが操って動きを止めているのかとも思ったが、そんな素振りも見せていなかった。
クロ本人も言ったが、暗黒結晶に魔物を呼び出す力を願ったが、魔物を操る力を願ったわけではないのだろう。
よって、このスライムは攻撃しないように命令されていたわけではなく、そもそも攻撃しようとしてこなかった、もしくは出来ないだけだ。
おそらく、暗黒結晶の力を見せつけた後に、クロの出世大作戦を説明する時間が欲しかったから、この魔物を選んだのだと思われる。
「なら! 今からでも暗黒結晶に願って……いだっ!?」
このスライムの弱点を看破され、焦ったクロは暗黒結晶を使って新しく魔物を呼ぼうとしたのか、それともスライムを操ろうとしたのか分からないが、どの道、失敗だ。
俺が投げた杖がクロの眉間にクリーンヒットして、黒幕の撃墜に成功したからな。
スライムを倒す必要はない。暗黒結晶で呼ばれたなら、暗黒結晶で戻せば良い。まあ、倒せるならそうしたかったけど。
その暗黒結晶を持っている者が倒せるのなら当然、そちらを狙う。
ある意味、クロが本丸で良かったとさえ思える。スライムだけだったら詰んでいたからだ。
落ちていくクロが「魔法……は……」と呻いている気がするが聞こえない。魔法の杖による攻撃だから魔法攻撃です。
クロの落下地点付近にいるレイとマリネに向かって叫ぶ。
「今だ! 首輪をもぎ取れ! 暴れるようなら半殺ししても構わん! 後で俺が治す!」
「了解! 存分にいくわよ、マリネ! アハハハはは!」
「ええ! デュアル・マジカルフクロダタキですわね! ひひひひヒヒ!」
悪鬼の様な笑い声を発し指をポキポキと鳴らして、落ちてくる獲物を待ち構える魔物が二匹。あれに捕まったら終わりだ。
獲物もそう悟ったのか、脳震盪を起こしているだろうに意識を繋ぎ止めて、足を掴まれつつも必死にもがいて抵抗している。
「いやあああ! やめてクロおおお! 引っ張らないで! つねらないで! あっ、ちょっ!? そこ全然首じゃないって! やめて! お嫁に行けなくなっちゃう!」
……あいつら何してんの? あとアイツ雌なのな。
「くっ、意外と力が強くて引きずり込めないわね! やっぱりトゥインクル・カンチョーを決めて怯んだところを一気に……!」
「レイさぁん! さすがに魔法少女として、いえ、乙女としてその技はどうかと! ですがクロさん、わたくしたちが温情をかけている間に捕まったほうがいいですわよ! さもないと……」
マリネがこちらを振り向き言い放つ。
「あそこのハジメさんに死んだほうがマシな目に遭わされますわよ!」
「そうだぞ! 泣こうが血が出ようが鼻が千切れようが止めないからな! だけど安心しな! 回復魔法があるからな、傷はすぐに治る! 痛みはあるがなあ! 魔力が切れるまで続けてやるぜ! ふははははは!」
「ひええええ!? 回復魔法ってそういう使い方なのクロお!?」
いや、マリネの話に乗ったのはクロを脅かして気力を萎えさせようとしただけだからね? 実際にはしないよ? だからレイとマリネ、そんな目で見ないでくれ。つーかマリネ、お前が話を振ってきたんだろうが、せめてお前は俺の味方でいろよ。
思惑通り、クロは怯んで力が抜けたようだ。その隙を見逃さず、レイとマリネはクロをがっちりと押さえ込み、首輪を外すことに成功した。
「ああっ! ボクの出世が……!」
首輪が引き剥がされても往生際悪く短い手を伸ばすクロ。
しかし、首輪はすでにレイとマリネの手に落ちてしまい、もう取り戻すことは叶わないだろう。
諸悪の根源の暗黒結晶を手に入れ、後はそれを使ってスライムにお引取り願えば俺達の勝利だ。
なのだが……。
「豊胸!」
「幼女!」
新たな悪が生まれていた。
悪二人は自身の願いを叶えようと宝石を奪い合っていた。
そんな二人をクロが血相を変えて止めようとする。
「だ、駄目クロよ! 暗黒結晶は魔法少女が使ったら処罰ものクロよ! いやまあボクもなんだけど、でも魔法少女はボクよりも厳しい罰があるし、副……痛あい!?」
もう自分の欲望のことしか考えていない二人には馬の耳に念仏状態らしい。
しかし、この展開は読めていた。
なぜかって? 俺が逆の立場ならそうしていたからだ。
ん? 暗黒結晶は不気味だから例え願いが叶うと言っても本能的に触りたくないって言ってただって? 処罰もある?
欲望の前にはそんなもん抑止にはならん。こちとら完全な女体化したいんだよ。
もみ合う二人を止めるため、俺はまずマリネに加勢する。
すっとレイの後ろに立ち……両手の指を広げ……
「あら? ハジメ? 今マリネから暗黒結晶を奪……取り戻すから邪魔しなあひゃひゃひゃひゃひゃ!?」
レイの脇腹を思い切りくすぐり無力化させる。
腰を抜かしたレイには構わず、すぐさま手の平を暗黒結晶を奪い取ったマリネに向け……
「やりましたわあああああ! 感謝しますわハジメさん! これで世界の幼女はわたくしのほおおおおおおおお!?」
浄化魔法を放った。
マリネが掲げていた手から勢い良く暗黒結晶がすっぽ抜ける。
――勝った。
これで俺の望みが……おい?
すっぽ抜けた暗黒結晶は
空中で大きく弧を描いて
俺達の醜い争いをずっと傍観していた
スライムの中に
とぷん、と音を立てて収まった。
この場も誰しもが――おそらくスライムも思ったに違いない。
そんな馬鹿な、と。




