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奇妙な魔法少女たち  作者: みずゆめ
12/22

間話その2 放課後ライフ

 昼のゾンビ騒ぎ……もとい、魔物の襲撃が終わり、放課後となった。

 

「そんじゃカズキ、またな」

「……おう」


 すっかり余所余所しくなってしまった親友と校門で別れ、俺は家に帰……らないで学校へ逆戻りする。

 なぜなら、魔法少女変身してからやりたいことがあったからだ。


 俺は周囲に誰も居ないのを入念に確認した後、男子トイレの個室に入る。


「変身! ……よし、後は家から持ってきたこれを……」


 そう言って取り出したのは、数年前に姉が着用していたこの学校の制服だ。

 さっそく着替えに取り掛かる。


「スカートってどうやって履くんだ……。変身衣装だと勝手に履いてたからなあ……。あ、ホックがあった」


 その後も悪戦苦闘するも、何とか女子制服を着ることに成功する。

 

 そう、俺は女の子の姿で女の子の服を着て外を歩いてみたかった。魔法少女の服ではなくて、普通の服を。

 まずは女子制服というわけだ。


 この制服はこの学校の卒業生だった姉のものを借りてきている。

 サイズは全然合わず全体的にだぼだぼだが、まあ萌え袖が出来たしいいか。


 トイレの鏡で自分の姿を最終確認した後、外に出る。

 外に……女子の姿で女子の服を着て出た。ワクワクしてきたぞう。


「よし! まずは女子更衣室に行こう!」


 意気揚々と女子ライフを開始しようとしたが、視界の端に人影が――


「不届き者を発見したわ! 原型が無くなるまでタコ殴りよ!」

「うおおお!?」


 謎の桃色髪の女が突然襲い掛かってきた!

 犯人は考えるまでもなくレイだ。


 俺は――いいえ、あたし・・・は、いきなり暴力を振るってきたレイちゃんに文句を言うことにしたの。


「もう! レイちゃんたら危ないじゃない! こんな可愛くて可憐でぷりちーなあたしになんてことをしようとするの! ぷんぷん!」

「は?」


 あたしの腰に手を当ててほっぺたを膨らませたキュートな仕草に、レイちゃんは見とれちゃったみたい。

 ……見とれてるんだよね? 何かレイちゃんから背筋がゾッとするようなオーラが出てるけど、気のせいだよね、きっと!


「あと、レイちゃんも女の子なんだから、もっと慎みを持たないとね!」

「ああん?」

 

 レイちゃんがとっても怖い形相で指をボキボキ鳴らしながらこっちにズンズンと足音を立てて迫ってきてる。コワイ。

 え? レイちゃんてこんな顔するの? なまはげとか目じゃないんだけど。泣く子も泡拭いて失神してそのまま昇天するレベルなんだけど。


 だ、だだだダメよハジメ。負けちゃダメ。レイちゃんが怖すぎて漏れそうだけど屈しちゃダメよ。暴力なんかに屈したら魔法少女の名折れだわわわあわわわ。


「レイちゃ――」

「今すぐその虫唾が走って反吐が出そうな殺意が湧く喋り方と仕草をやめなさい、ハジメ。さもなければアンタの全身の穴という穴にシャーペンの芯を挿し込むわ。新種のサボテンとして花壇に並べてあげる」

「すいませんごめんなさいもうしません許してください!」


 速やかに全力土下座。


 屈しました。はい。

 怖かったんです。もう視線だけで2回くらいは殺されている感覚だったんです。

 全身が冷や汗でぐっしょりだ。ハジメ液によるちょっとした池ができている。

 絶対、数キロは痩せたぞコレ。


 ……カズキ、俺が間違っていた。レイが怖いって噂は本当だった。

 視線だけで人を殺せるって噂を流そう。


 俺が大人しくなったのを見て、レイも殺気を向けてくるのをやめてくれた。

 レイはため息を吐いて呆れ顔で質問をする。


「で? なんであんなバカみたいなことしてたの? 正直に答えなさい。ボケたら……殺すわ」


 俺はひとボケかまそうかと一瞬だけ思ったが、殺されたくないので正直に答える。


「えっと、今の俺って見た目は小さい女の子なんだし、言葉遣いもそれらしくした方がいいかなって思って……。そんなにダメだったか?」

「おぞましいわね」

 

 そっか……。そっ……かぁ……。結構頑張って考えたんだけどな……。


「……それと、女の子に変身できるんだから、普通の女子の服着て歩いてみたいなって思ってな。ちょうど姉ちゃんの制服があったから、それを着て学校を回ろうと」

「ふーん……」


 レイは半眼のまま俺に顔を近づけて尋問を続けた。


「そんで女子更衣室に?」

「そっすね」

「女子更衣室で何をしようとしたの?」

「いや、着替えを覗いたりとかそんな過激なことじゃないぞ。ただ匂いを嗅ぎたいなって」

「シャー芯をありったけ持ってくるわ! 学校の新しいオブジェにしてやるわよ!」


 正直に答えたのに処刑されそう! なんでだ! 嗅ぐくらいいいだろ!

 くそっ、着替えに時間をかけてしまったから厄介なやつに見つかっちまった。こんなことならさっさと女子更衣室に乗り込めばよかった……!

 いや、レイがシャー芯を取ってきてる間に事を済ませば……! ってもう帰ってきた! 無駄に早えよ!


「ハジメさん、考えていることが手に取るようにわかりますわよ。魔法を悪用してはいけませんわ。わたくしたちは正義の魔法少女なんですから」


 と、ひょっこりと現れたマリネが可哀想なものを見る目で俺を諭すが、かなりやつれた顔をしているため、マリネのほうが可哀想な事になっている。

 昼の騒ぎで俺の回復魔法を食らった後遺症だろうか、元から悪い顔色がさらに悪くなっている。いや、回復魔法で後遺症ってなんだよ。どうなってんだこいつの体は。


 マリネは少し咳払いをした後に、取り出したスマホを俺に近づけて来た。


「……なんすか」

「さっきのキャラで”マリネお姉ちゃん、だいしゅき!”って言ってくださいまし。録音して色々なことに使用するので」

「嫌だよ! それは悪用っていうんじゃないですかねえ!?」

「スマホの録音機能は魔法じゃないですもの!」

「科学なら悪用してもいいのかよ!」


 悪用だなんて心外だと頬を膨らませている。

 ダメだコイツは。

 コイツはダメ人間だ。

 マリネは人としてダメだ。


「ていうかマリネ、いたのか。いつからいたんだ?」

「ホント。気が付かなかったわ。いたなら言ってよ」

「最初っからいましたわよ! 口を挟む隙がなかったんですの!」


 初めからいたらしいマリネがバタバタと腕を振り回して存在を主張する。

 やっぱりアンデッド系だから存在感が薄……と、言おう思っていた所でマリネが「それを言ったら泣きますわよ」とアイコンタクトで訴えてきたので黙っておいた。

 が、


「やっぱりゾンビは生気がないから存在感が薄いのかしらねえ」

「わああああレイさあああん! ハジメさんは我慢してくださいましたのにいいいい!」


 平然と地雷を踏みぬく女、場坂レイ。

 なんて酷いやつだこいつは。まあ俺も明日あたりには我慢できなくなって言ってただろうけど。


 泣いてるマリネをなだめるためにも話を変えることにした。ついでにシャー芯サボテンの刑もなあなあにしてしまおう。

 いや、話を少し戻そう。ちょっと聞き捨てならないことを言っていたからな。


「なあ、魔法を悪用しちゃいけないって言ってたけど、今日の昼に屋上に上がった時、本当は立入禁止だけど魔法道具でどうにかしたんだろ? それって悪用って言うんじゃないか?」


 俺の指摘に二人の動きが止まる。

 図星を突いたようだ。このまま何とか丸め込んで俺の罪もうやむやに……


「悪用じゃないわよ? 魔法少女の活動に必要だったんだし」

「ですわね。作戦会議の場を作るために使用したのですし」


 動きが止まったのも一瞬、二人は全く悪びれずに言い切った。

 あまりにも堂々とした言いようだったため一瞬信じかけたが、すぐにそんな事はないと思い直す。


「い、いやいや! 作戦会議っていうか飯食っただけだろ! 完全に私用だろ! 無断侵入だろ!」

「あれを悪用って言ったら魔法少女の活動なんて出来ないわよ?」

「普段どんな事してんだよ!?」


 いや、魔物の出現位置によっては侵入せざるを得ない時もあるんだろうけど!


「そうそう、屋上にも魔物が出てきましたし、結果オーライですわ」

「結果オーライって、途中にはなんか問題があったってことじゃん!」

「ええい、やかましいですわね! バレなければいいんですわ!」

「そうよそうよ!」


 また言っちゃったよ!

 言ってしまったよこいつら! 悪い魔法少女じゃねえか! 昼の時点で分かってたけど!


「じゃあ俺のもいいじゃん! 魔法だってバレなきゃいいんだろ!? 俺も見た目は女子だから大丈夫だって! ごまかせるって!」

「見た目え!? 股にこんなもんつけてるクセによく言うわね!」


 レイは勢い良く腕を下から上へ振り上げてまくった。俺のスカートを。

 スカートは盛大にまくられ、秘密の花園が露わになる。


「ワーオ!」

「ほわああああああ!?」


 スカートを風にまくられた時用に考えておいたセリフにマリネの悲鳴が被ってしまった。

 くそう、せっかくのネタだったのに台無しじゃないか。風じゃなくてレイだし、マリネがセリフ被せてくるし。


「ん? なんでマリネも悲鳴あげてんだ? お前はまくられてないだろ」

「い、いや……そうではなくて……。え? あの、ハジメさんになにか……あったような……。おパンツ越しにも分かるような……なにかが」


 マリネが小刻みに震えながら信じられない物を見たような目を向けてくる。

 ああ、そうか。マリネは知らなかったんだったな。俺が”一部”だけ女体化できていないことに。

 そりゃ知らないよな。今日あったばっかの奴にこんなもの教えるはずがない。頭がおかしいと思われてしまう。……手遅れかもしれないけど。


「マリネ、実は俺は最初の変身時にトラブルがあって……」


 説明をしようとする俺に全く構わずに、レイが俺のスカートをひょいと指で摘み上げて言い放った。


「マリネ、紹介するわ。こちらハジメのハジメくん」

「ほおおおおお!? 女の子じゃありませんでしたのおお!?」


 手で顔を覆って崩れ落ちるマリネ。

 指の間から見える頬が赤い。そりゃそうだよな。布越しとは言えおいなりさんがあるしな。健全な反応だ。


「……ていうかレイさんよ、一応俺にも羞恥心というものはあるんですよ? お前自由すぎじゃない? あと結構平気なのな」

「あんまり平気じゃないけど、笑いのためなら頑張るわ!」

「下品すぎる笑いだけどな! まあ良いリアクションが見れたしいいか」

「いいんだ……」


 その良いリアクションをしたマリネは未だにショックから立ち直れないらしく、体育座りで虚空を見つめている。

 ……そんなにショックだったのか? なんか俺もショック受けるんだけど。


 マリネは受け答えができそうもないので、隣のレイに聞く。


「なあ、さすがに凹み過ぎじゃないか? 実は男が苦手とか?」

「いいえ、男の人が苦手とかは聞いたことないわね……。小さい女の子は大好物だって聞いたことはあるけど。」


 ああ、それで変身後の俺にやけに執着していたのか。

 それにしても”大好物”て……。土に埋めたほうがいいんじゃないか、あの女。

 いや、マリネなら土から沸いて出てきそうだな……。なんて厄介な。


「それに、今日のお昼だって普通に接してたじゃない」


 そう言えばそうだったな。昼ごはんを食べる時は俺は男の姿でマリネに会っていた。

 だから男だと知らなかったとか、男に拒絶反応があったりとかはないだろう。


 なぜだろうと考えていると、マリネがのろのろとこちらを見て理由を話し始めた。


「……あり得ない組み合わせを見て脳が追いつかなかったのですわ。うう……あんなに可愛い顔、可愛い声をしていらっしゃるのに……」


 ああ、そういうことだったのか。俺も最初は驚いたよ。

 でもなマリネ、世の中にはそういうジャンルもあるんだぜ。


「そもそも魔法があるんだから今更細かいこと気にすんなよ。この際こういうのもイケる口になろうぜ。守備範囲拡張してみろ」

「えええ!? なんちゅーこと言うんですの!? ……いえ、まあ本人が気にしないと言うなら、わたくしがとやかく言うのも失礼ですわね……」


 ようやく精神的に落ち着いたらしく、ゆっくりではあるが立ち上がるマリネ。

 のろのろと前かがみでふらふらしながら立ち上がる様は、やはりゾン……言わないでおこう。


 会話に間が空いた所で、騒いでいた反動か身体に疲労感が押し寄せる。

 時計を見るとそろそろ下校時間だ。


「はあ、なんか疲れたな。帰るか。あ、それともパトロール的なものがあるのか?」

「その前に魔法を悪用して女子更衣室で邪なことをしようとした者を処断するわ」


 ちぃっ! 覚えていたか。レイのことだから忘れてるかと思った。


「いや、その事については全面的に謝るよ。ちょっと自分を見失ってたわ。もう二度としないよ」


 一時の欲に任せてこれからの魔法少女人生を棒に振りたくないしな。

 楽しみたいからこそ慎重にいかないと。

 あれ? ちゃんと反省してんのか? 俺。


「いやに物分りがいいわね? 何か企んでるでしょ?」

「そんなことないぷーん!」

「かわいっ……! いえ、絶対何か企んでますわこのかわいこちゃん!」


 ……崩すならマリネ(コイツ)からだな。

 よし、ハジメちゃんにキャラチェンジしてマリネをたぶらかそう……と思ったけどレイの視線が物凄く怖いからやめよっと! このキャラは封印!


「本当だって。魔法が使えるからこそ、そういうことはやっちゃダメだよな。反省してる」

「むう……。まあ、疑いすぎるのも良くないわね。それと、私の方こそごめんね? あなたを捕まえた時にうっかり本気で殺意を向けちゃって」


 やっぱり本気だったんだ……。あの時全力で謝っといて良かった……。


 俺が思い出し失禁をしそうになっていると、マリネが横から


「ハジメさん、わたくしに許してほしくばこのスマホに”マリネお姉ちゃん、ごめんなさい”と……」

「レイ、コイツは断罪しなくていいのか?」

「その子はとっくの昔にダメだから……」

「ちょっとお!?」


 そんなバカみたいなやりとりをしながら帰る支度を整えていたらレイが


「ハジメ、ちゃっちゃと着替えて変身解除してきなさい。待ってるから」

「あん? このまま帰るから大丈夫だぞ。着替えもバッグに入れたし」


 ……。

 場に沈黙が流れる。


 やがてレイが口を開く。


「魔法を悪用しないってさっき言ったわよね?」

「い、いや、これは悪用じゃないだろ! 誰にも迷惑かけてないし! 個人の趣味の範囲!」


「……」

 

「…………」


「………………」


 俺は全力で駆け出した――!


「ああっ! 逃げたわ! 追うのよ!」

「これは捕まえたら好きにしていいってことですの!?」

「マリネ……。一応先輩なんだからもっと節操を保ってよね……」

「ガチ説教!?」


 アホな言い合いをしている二人が追いかけてくる。


 くそっ、追いつかれてたまるか……!


 俺の、生きがいを、奪われてたまるか――! 

  

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