↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/34

バルゴは逃げられない

 王宮から届いた手紙。

 それは春にも行われた、舞踏会の招待状だった。



「またあの舞踏会があるのね。まだこの間の舞踏会が、つい先日のことのようなのに」


「……ミア様、いかがなさいますか?」



 ミアのようにはしゃいでみせる私に対して、シリウスは静かに尋ねた。

 けれどその言葉の裏には、シリウスの求める返事が見えている。


 えぇ。

 私も、その答えに異論はないわ。


 私は手紙を持つ手を、ゆっくり下げた。

 


「そう、ね……。本来なら出席すべきなのだけれど、レグルス様のこともあるでしょう?だから、とても残念だけれど、今回は欠席した方がいいと思うの」


「そうですね。私も、欠席された方がいいかと存じます」


「本当に残念だわ。せっかくの舞踏会なのに……」



 小さく、ため息をつく。

 そんな私を見て、シリウスは分かりやすく、ほっとした表情を見せた。


 私としては、まったく残念ではない。

 むしろ、お二人に会わなくてすむという安心感の方が大きい。



(でも、これがミアだったら……)



 きっと、春と変わらず、大喜びで出席すると答えるに違いない。



『セシリア様なんて関係ないわ!せっかくの舞踏会なんですもの、楽しまなくっちゃ!それに、レグルス様ともっとお近づきになりたいし!』



 と、いったところだろうか。


 けれど、私にはそのようなことはできない。

 ミアには悪いけれど、レグルス様とお近づきになるつもりは、私にはない。


 これで舞踏会は大丈夫だ。

 そう、思っていた時だった。



「ミア様、あの……」


「どうかしたの、クロエ?」



 部屋の扉をノックして、クロエが私に声をかける。

 その声にいつもの元気がない。


 中へ入ってもらうと、クロエは眉毛もハの字にして、困っているようだった。


 いったい、何があったというのだろう?


 不思議に思っていると、クロエは少し言い淀みながらも、私に用件を話し始めた。



「いえ、その……。実は、セシリア様より荷物が届いておりまして……」


「セシリア様から?」



 そうか、だから言いにくそうにしていたのか。


 あのセシリア様から、荷物だなんて……。

 つい、一瞬だけ眉を寄せてしまった。


 けれど、私はすぐにいつものミアの顔を作る。


 シリウスはといえば、セシリア様の名前を聞くなり、表情を曇らせたままだ。



「……いかがいたしましょうか?」


「セシリア様からプレゼントだなんて、いったい何かしら?こちらへ運んでもらえる?」


「わかりました」



 あくまで私は、ミアのように明るく伝えた。

 クロエは一度部屋から出ると、大きな箱を持って、再び部屋に戻ってきた。



「こちらです」


「ありがとう、クロエ」



 テーブルに置かれた大きな箱は、中身が全く想像がつかない。

 箱に飾られたリボンに、手を伸ばす。震える手でなんとかリボンを解くと、シリウスがゆっくり箱を開けてくれた。



「ッ……!」


「これは……」



 思わず、口元を手で覆う。


 箱の中は、一面の黄色だった。

 ぎっしりと、黄色の花で、隙間なく埋め尽くされている。


 花は二種類だ。

 前回と同じ、黄色のバラ。そして、新たにもう一つ……。そこに加えられていたのは、黄色のカーネーションだった。



(嫉妬に……軽蔑と拒絶。以前にも増して、セシリア様はお怒りでいらっしゃる……ということね……)



 ……無理もない。

 いくら否定しようとしても、当のレグルス様があのご様子なのだから。


 私は手を、口元から胸元へと移動させた。


 きっともう、私が何を伝えたところで、セシリア様は聞く耳を持たないだろう。

 唯一聞いてくださるとすれば、レグルス様の口から語られる言葉くらいだろう。けれど、レグルス様のご様子を見る限り、それは望めそうにない。



(私は、どうすればいいのだろう……)



 考えながら、箱に詰められた黄色のカーネーションを手に取る。

 するとその下に、まだ何かが入っているのが見えた。



「……何かしら?」



 敷き詰められた花を、丁寧に退けていく。

 そこから出てきたのは、一着のドレスとメッセージカードだった。


 すぐに、私はメッセージカードに目を通す。

 けれどそれは、あっという間に読み終わってしまった。



「……さすが、セシリア様ね。これでは、舞踏会を欠席するわけにはいきませんわ」



 そう言いながら、私はシリウスにカードを渡す。

 その横で、クロエもカードを覗き見た。


 カードには、強弱のはっきりした文字で、こう書かれていた。



『ごきげんよう、ミア。あなたにぴったりのドレスを見つけたの。ぜひ、今度の舞踏会で着てちょうだいね』



 是が非でも、セシリア様は私を舞踏会に出席させるつもりらしい。



「ッ……!しかし、ミア様……!」



 シリウスが言わんとしていることはわかる。

 これはきっと、前のお茶会の時と同じだ。


 あまり考えたくはないけれど、セシリア様の目的は、大衆の中で、私を辱めることなのだろう。そうでなければ、このようなドレスを、私に送ってくるわけがない。


 私は、花々の下から出てきたドレスに視線を移した。



「……シリウス、ごめんなさいね。さっきは欠席すると言ったけれど、私、これを着て舞踏会に出席するわ」


「ミア様?!」


「そんな、ミア様……ッ!このようなドレス……!」



 クロエが動揺するのも無理もない。

 セシリア様から送られてきたドレスは、一見してわかるほど布が薄い。それだけで、社交界……ましてや、王宮主催の舞踏会へ着ていくようなドレスではない。


 このようなドレスを着て、舞踏会に出席したら……どのような目で見られるか、想像に難くない。



「いいのよ、クロエ。私はどう思われても。それに、もしもこのドレスを着て舞踏会へ出席することで、レグルス様も私から離れてくださるのでしたら……その方がいいと思わない?」


「ミ、ミア様……」



 あのレグルス様のことなので、これくらいのことでは動じないかもしれない。

 けれど、このようなドレスを着た者を近くに置いておくだなんてこと、たとえレグルス様であってもしないだろう。



「それよりも、私がこのような格好をして、ヴォルフラム様がどう思われるか……」



 箱の中のドレスに触れてみる。


 私はどう思われようともかまわない。けれど、このドレスを着れば、ヴォルフラム様まで周囲から悪く思われてしまう。

 それが一番、心苦しくてならない。



「それなら大丈夫です。あの方は、きちんと事情を理解して下さるはずですから」


「そう……?本当に、ヴォルフラム様はお優しい方ね。それに、シリウス……あなたにも迷惑をかけてしまうわ」


「それこそ、お気になさらずに。あなたに何か起こらないよう、ご一緒するのが私の役目ですから」


「ありがとう。シリウス」



 こうして、私は再び舞踏会への出席を決めた。

 けれど、この時の私は、まだ知らなかった。


 この決断が、大きな間違いだったということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。