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2話 特異点、アンデッドを狩る

ファンタジー系の方が人気がでるのだろうか。

飽和状態のWeb小説界隈で読んでもらうのも大変だ。


 クラリスは腐乱したアンデッドを踏みつけ、躊躇なく頭を撃ち抜いた。


 夜闇に響く銃声。

 飛び散る魔物の脳漿。

 広がる悪臭。


 クラリスはグロテスクな光景にも顔色ひとつ変えない。ただ無駄のない動きで淡々とアンデッドを処理していた。


 それとは対照的にジナは五本の指先から派手な仙術を解き放った。


「白雷!」


 ジナが小さく叫ぶと夜闇を切り裂く光条が、雷鳴を撒き散らしながら迸る。

 妖しく光る紫電に照らされ、木々の黒々とした輪郭が一瞬、怪物のように浮かび上がり、本当の化け物たちを消し炭に変えてしまう。


 ふたりを視界に入れるや否や、甲高い奇声を上げてアンデッドが飛びかかってきた。

 眉間に皺を寄せ、クラリスは耳を塞いだ。

 無言で繰り出したハイキックが見事に延髄をとらえた。

 綺麗に入った一撃は勢いそのままに、アンデッドの首を蹴り折った。


 昔は魔物の死体を見るだけで泣きそうになっていたのに、逞しくなったものだ。

 アカデミー時代を懐かしみながら、ジナは更なる攻撃を始めた。


「で、なんで私たちはこんな所でアンデッド退治なんてしているのかしら?説明はしてくれるのよねぇ」


 クラリスのツンとした冷めた声が響く。

 二人の間に横たわる凍てつく大河。

 今日のクラリスはずっと機嫌が悪い。全然目も合わせてくれない。

 

「連邦軍の依頼で仕方なく……」

「まったく、なんで今なのよ」


 クラリスは大きなため息をついた。

 

 明らかに拗ねてる。いや怒っている。


「ごっ、ごめんね?こんなことに付き合わせちゃって」

「ごめんじゃないわよ。ふたりきりの旅行、楽しみにしていたのに!」


 それが、ずっと機嫌が悪い理由だった。俯いて小石を蹴飛ばすクラリスに、ジナは手を合わせて急いで頭を下げた。


「本当に、ごめん!」

「ふん、知らない!」


 鼻を鳴らすとクラリスは、何も言わず背を向け、大股で先に歩いていってしまう。


「やばい……やらかした」と呟き、ジナは冷や汗をかく羽目になった。


 梢の擦れ合う音すらも空虚な嘲笑に感じてしまう。

 どうすればクラリスはゆるしてくれるのだろうか。ジナの足取りも、心持ちも鉛のように重くなっていた。

  


◇◇◇


 

 ジナとクラリスは森の浅い箇所を一通り巡り、アンデッドの大量発生が起きたという村に来ていた。

 

「酷い……」


 どちらともなく洩れ出た行き場のない声。


 動く屍が転がる遺体を貪り、手足のない子供のアンデッドが芋虫のように這いながら腐肉に群がっていた。

 村と呼べる場所ではもうない。

 荒れ果てた家屋の残骸とハエがたかる残飯のような辛うじて残る営みの痕跡。

 全てが淀み、空気や時間といったあらゆる流れが死んでいる。 

 目を背けたくなる光景にふたりは顔を青くし、しばらく立ち尽くすことしかできなかった。


 だがいつまでも思考を止めてはいられない。

 アンデッドたちは新鮮な肉を見るとすぐに、大挙して襲いかかってくるからだ。


 すぐに戦闘が始まる。


 クラリスの魔銃が火を吹き、ジナの仙術がアンデッドを吹き飛ばす。その繰り返し。

 クラリスの操る特注品の魔銃ベオウルフの威力は、その美しい銃身からは想像もつかないほど高い。実に優秀だ。

 間違っても自分に弾が飛んでこないようにとジナは祈るばかりであった。


 敵の肉片が飛び散って、血や体液が地面を汚す。上半身や頭がなくなってようやく動かなくなる。


「ねぇ。数やばくない?」

「うん、さすがにキリがない」


 アンデッドたちは倒しても倒しても湧いてくる。村人全員がアンデッド化したからといって、こうはならない。


「森の奥から大量の汚染された魔力が吹き出してるらしいの」

「その汚染された魔力が原因?」

「おそらく。魔力が濃すぎて軍も近づけないで困っているらしくて」

「それで軍のお手伝い?民間人の私たちが?」


 元軍属のクラリスがそれを言うかと苦笑いを浮かべるジナを、「なに?」と睨んで、一言で黙らせた。

 クラリスの鋭い目つきに、ジナはわざとらしく咳払いをして、話題を切り替えた。


「コホン、調査を任されたグレゴリー少佐に泣きつかれて仕方なく……」

「グレゴリー少佐……私、あの人苦手なのよね」


 その名を聞いたクラリスは何やら渋い顔をして、ソワソワし始めた。


「グレゴリー少佐と何かあるの?別に悪い人ではないと思うけど?」

「それはまぁ……」


 不思議そうな顔でクラリスの顔を眺めるジナ。

 

「あのね、少佐が会う度に食事に誘って下さるの」

「食事に?」

「ちゃんとお断りはしてる。そういう関係を期待されても困るじゃない。あなたと付き合ってるのだし」

「えっ?クラリスを口説こうとしてるってこと?」

「ええ。端的に言えば、そう思うわ」

「私たちの関係は知ってるの?」

「ちゃんと伝えたわ」


 その話を聞いたジナはみるみる真顔になっていく。

 不機嫌なのを隠そうともせず、周りの敵に八つ当たりを始めた。

 這いずりながら、ジナの足に齧りつこうとしてきたアンデッドの頭を力任せに踏み潰し、その身体を遠くへと蹴り飛ばしていく。


(ふふ、やっぱり怒るわよね……)


 ジナは意外と心配性で、嫉妬深い。そんなところも愛おしい。クラリスは心配する必要なんてないのにと少し可笑しくなってしまう。


「ジナ。左からオークの群れが来てる。二十体はいるわ」

「少佐とは、ちょっと今度お話する必要がありますねッ!」


 ジナのアイスブルーの瞳が昂りに呼応するように淡く輝きを宿す。

 グレゴリーへの怒りを口にするジナ。

 感情に任せ、手のひらに膨大な魔力を集中する。

 どんどん圧縮されていく魔力。

 水晶玉サイズになると、腐臭を撒き散らしながら迫り来る醜いオーク・アンデッドの一団に向かって、魔力の塊を撃ち込んだ。


 次の瞬間、大きく大地を揺さぶる衝撃にクラリスはよろめき、小さく悲鳴をあげた。

 爆発に巻き込まれたオーク・アンデッドたちは丸ごと跡形もなく消え去り、ぽっかりと豪邸が建ってしまいそうな穴ができていた。


「やりすぎよ」と、クラリスはそっとジナの肩を掴んだ。

「だって……」


 ジナは俯き、悔しそうに唇を噛む。


「少佐のこと黙っていてごめんなさい。何もなかったとはいえ、ちゃんとあなたには話しておくべきだった」

「……こっちこそ、軍の依頼を勝手に受けて付き合わせてごめんなさい。仲直り、できる?」

「そうね……」と、その提案にクラリスも頷いた。


 




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