2話
ファンタジー系の方が人気がでるのだろうか。
飽和状態のWeb小説界隈で読んでもらうのも大変だ。
クラリスは腐乱したアンデッドを踏みつけ、躊躇なく頭を撃ち抜いた。
夜闇に響く銃声。
飛び散る魔物の脳漿と広がる悪臭。
しかし、クラリスはグロテスクな光景にも顔色ひとつ変えず、淡々とアンデッドを処理していた。
魔物の死体を見るだけで泣きそうになっていたアカデミー時代のクラリスが懐かしい。逞しくなったものだ。
プラチナブルーの髪が風に揺れる。
クラリスに負けじと、ジナも仙術を駆使する。
解き放った雷撃が無数に枝分かれして、アンデッドを焼き払う。
ジナの得意とする東方仙術は東の国々を起源とする西洋魔術と並ぶ流派で、魔術ほどの威力はないが死霊やアンデッドに効果が高い。
「白雷!」
ジナが小さく叫ぶと続けざまに紫電が迸る。
バチバチと雷鳴が唸り、敵を消し炭に変えていく。
「で、なんで私たちはこんな所でアンデッド退治なんてしているのかしら?」
クラリスのツンとした冷めた声が響く。
二人の間に横たわる凍てつく氷河。
今日のクラリスはずっと腹を立てたまま。
目も合わせてくれない。
真っ暗な森の中を彷徨うように、アンデッドを退治するふたり。
急にこんなことさせられたら、虫の居所も悪くなるに決まっている。
面倒に思うのも仕方ないとジナはため息をついた。
「何よ?ため息なんてついて。私といるのが、嫌になった?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、何よ?」
明らかに拗ねてる。いや怒っている。
「いや、こんなことに付き合わせて、悪かったなって」
「ごめんじゃないわよ。ふたりきりの旅行、楽しみにしていたのに!」
やっと理解できた。クラリスの機嫌が悪い理由はそれか。やっと合点がいったジナは、頭の上で思いっきり手を合わせた。
「本当に、ごめん!今度、絶対に埋め合わせするから、ね?」
クラリスのことを拝み倒してみたが、ダメだった。
「知らない!」
ふんと鼻を鳴らすとクラリスは何も言わず背を向け、またアンデッドの頭を正確に射抜く。
謝っただけでは全然効果がない。
許してはくれないらしい。
ジナが顔を引き攣らせている間に、またバンバンと連続して銃声が響く。
発射された魔力弾は敵の上半身にあたり、吹き飛んだ。
血や体液が飛び散り、かなりグロい。
クラリスの操る特注品の魔銃ベオウルフの威力は特別優秀らしい。
自分に弾が飛んでこないようにと、ジナは手をすり合わせて、ただ祈るばかりであった。
「はぁ。さっきの続きだけど、何で民間人の私たちがこんなことをしなきゃいけないのよ」
「あはは、民間人ねぇ───」
元軍属のクラリスがそれを言うかと苦笑いを浮かべるジナを、「なに?」と睨んで、一言で黙らせた。
クラリスの鋭い目つきに、ジナはわざとらしく咳払いをして、話題を真面目なものに切り替えた。
「コホン、この森の中心から大量の汚染された魔力が吹き出してるらしいの。その汚染された魔力を浴びて、人や魔物がアンデッド化してる。あまりにも魔力が濃すぎて軍も近づけないで困っているらしくて」
「それで軍のお手伝い?」
クラリスの言葉の節々に刺がある。
「うっ、調査を任されたグレゴリーさんに泣きつかれて仕方なく……」
言い訳じみた言葉を口にしてみたけれど、それは泡沫のように途中で萎んで消えていく。
誠心誠意を尽くさなければ。
「グレゴリー少佐かぁ……」
その名を聞いたクラリスは何やら渋い顔をする。
「グレゴリーさんと何かあるの?別に悪い人ではないと思うけど?」
「それはまぁ……」
どうにも煮え切らない物言いだ。
クラリスは少佐のことが苦手だった。
ジョーダン・グレゴリー。彼はふたりの学術アカデミーでの先輩にあたる。
クラリスは彼から過去に告白を受けたことがあった。その時にしっかりお断りしたし、クラリスはその後も一切興味はない。
だけど、向こうは違った。今でもクラリスに未練があるらしく、何度か食事に誘われたことがある。
その度にこちらも断っている。
ジナと付き合っているクラリスとしては、好意を持たれても正直困るのだ。
そういった経緯もあって、クラリスは少佐を苦手としていた。
「ジナ怒らないで聞いてほしいの……。あのね少佐、会う度に食事に誘って下さるの」
「食事に?」
「ちゃんとお断りしてるの。そういう関係を期待されても困るじゃない。あなたと付き合ってるのだし」
「クラリスを口説こうとしてるってこと?」
「ええ……端的に言えば……」
話を聞いたジナがみるみる真顔になり、温度が下がっていく気がした。
(ふふ、やっぱり怒るわよね……)
ジナは意外と心配性で、嫉妬深い。そんなところも愛おしい。クラリスは心配する必要なんてないのにと少し笑ってしまう。
「ちょっと今度お話する必要がありますねッ!」
頬を膨らませて、ジナは物騒なことを言い出す。
横に手をかざすと、圧縮した魔力の塊を八つ当たり気味に放った。腐臭を撒き散らしながら迫り来るオーク・アンデッドに叩きつけた。
オーク・アンデッドを跡形もなく消し飛ばし、木々を薙ぎ払い、腐肉を粉砕しながら森の奥の方へと消えていく。
地響きと衝撃にクラリスは咄嗟に耳を塞いで、小さく悲鳴をあげた。
怒りに任せてジナが膨大な魔力を込めたせいで、向こうにクレーターができている。
多くの木々もなぎ倒され、見通しがよくなってしまった森。
「いっそ細切れにしてこの森に埋める?」
遠くを見つめて、ジナは不穏なことを呟き出す。
「……やめなさいよ」と、クラリスはそっと肩を掴んで、窘めた。
止めてはみたが、ジナの目はまだ諦めていないようだ。恋人に言い寄る悪い虫の駆除を。
「少佐のこと黙っていてごめんなさい。何もなかったとはいえ、ちゃんとあなたには話しておくべきだった」
「クラリスのせいじゃない……けど、話してほしかったな……」
二人の間に少々、気まずい空気が流れる。
「───ねぇクラリス。軍の依頼を勝手に受けて付き合わせてごめんなさい。私も少佐の件は水に流すから、これでチャラにしない?」
「そうね……」と、その提案にクラリスも頷いた。
◇◇◇
今、ジナたちがいる周辺は入口付近よりも更に魔力が濃い。だが、なんの気配も感じられない。生き物は全て死に絶えてしまったのだろうか。
「アンデッドが見当たらない」
「この辺りで生まれたアンデッドは外周部に移動したのかも。本能的にこの異様な魔力を嫌ったとか?」
「それなら、もっと入口付近で遭遇しててもおかしくないよね。アンデッドの氾濫が起きている様子もなかった」
「そうね……」
「この異常な魔力の発生源を突き止めよう。これはもうただの魔力じゃない。こんなの生命を蝕む毒」
「私たち平気なわけ?」
「星霊の加護のおかげだって。カグヤが」
そう言って、ジナはそっとお腹をさすると体内に宿る星霊カグヤの鼓動を感じる。
自分たちを護ってくれているのだ。
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