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令嬢、小休憩する


 ネビュラ帝国にたどり着いて早々、襲撃に巻き込まれたジナとクラリス。

 襲撃の理由も分からずじまい。


 ジナはいつも通りだが、クラリスは群星連邦を発ってから次々と降って湧いてくる事件に頭を悩ませていた。


 女神との遭遇。

 盗賊に、謎の襲撃者。


 「外交特権使って、帝国に圧力をかけてやろうかしら。それともジナを皇宮に放って、物理的圧力をかけてやろうかしら」


 虚ろな目をして微笑むクラリス。

 温い夜風に当たりながら、窓枠に肘をかける。

 今は昼前だが。


 辿り着いた日の帝都は活気に溢れ、異常気象をものともしない底力を感じたが、よく観察していると俯く人の姿も増えている。

 世界経済の中心地の帝都にも陰りが見え、陰鬱とした空気が蔓延っていた。


 こういうときは、何をしても焦りは消えないものだ。

 クラリスは腰のホルスターと服に隠れた左脇のホルスターから魔銃を抜くと、バラして整備を始めた。

 こうしていれば、余計なことを考えなくて済むからだ。

 パーツひとつひとつを布切れで丁寧に磨き、歪みなどを確かめていく。

 元軍人らしく、銃の整備は手馴れている。


 「うー、クラリスぅ」


 ベッドの中でモゾモゾと、温もりを探し求めるジナ。

 ペルセポネーから受けた呪詛のせいで傷の治りが悪いらしく、何者かの襲撃にあった夜から寝込むことが多い。

 襲撃者と戦って、血まみれになっているシナを見たときは血の気が引いた。

 

 「カグヤ、ジナは本当に大丈夫なの?」

 「きっと本能的に身体が回復に専念しようとしてるんでしょうね」

 「それは、わかっているけど」

 「心配性だなぁ。特異点は、殺したって死なないような種族だよ。このくらいの傷、唾つけとけば治るって」

 「あなた、本当に何かと雑ね。出会ったときはもっと威厳と不気味さがあったじゃない」 

 「あなたたちといるうちに、色々学んだの」

 「感情豊かになったのは認める」


 カグヤは時折、こうして顕現してはジナに治癒術をかけている。

 解呪も試みてはいるが、そちらはあまり上手くいっていない。

 呪詛は無数に絡み合った糸のように複雑怪奇な構造になっていて、解析にはまだまだ時間がかかる。

 ジナは一時的に侵食を抑え込んでいたが、弱っているとそれも難しい。

 カグヤが今は代わりに、封印の術をかけてやっている。

 

 「まったくこんな身体で無茶をするから」


 前に診たときより明らかに呪詛の巡りが早い。

 カグヤは呆れながら、寝息を立てるジナのお尻を軽く叩いた。

       

 「う〜、クラリスのエッチ」 


 クラリスに悪戯された夢でも見ているのだろうか。呪われ、傷だらけの本人が一番呑気だ。


 ふたりは揃って顔を見合わせた。


 「ジナ、おやすみ」

 「まったく」


 クラリスは目じりを下げ、カグヤは眉間に皺を寄せながらジナの回復を祈り、おでこにキスをする。

 流れるような淡い金糸と鮮やかな銀糸が顔を撫で、ジナは幸せそうに身体を丸めて規則正しく息を吐く。

 裾の間から見え隠れする青紫色の刺し傷まわりからは冥府の女神好みの暗澹たる気配がそこはかとなく滲み出ていた。


 クラリスはまた、窓際に腰を落ち着けると魔銃を一から組み立て直し始める。

 カグヤはジナの身体の様子を一通りチェックしていた。


 「異常しかないけど、異常なし」


 ひと仕事終え、カグヤはドカりとベッドの端で胡座をかく。

 珍しくジナの中には戻らず、瞑想を始める。すると、磁石で吸い寄せられるかのように魔力がカグヤへと集まっていく。流石は星霊だ。


 「カグヤ。そこにあるジナのレイピア取ってくれない?」

 「んっ」と片目を開け、カグヤが指を振るとレイピアがひとりでにクラリスの元へと飛んでいく。

 「さすがね」

 

 クラリスに褒められたカグヤは、得意げに鼻を鳴らした。

 受け取ったレイピアをそっと鞘から抜き放つと所々刃毀れがある。さらにじっくり観察するとミスリルの剣先も見事に歪んでしまっていた。

 

 「なんで襲撃のとき、レイピアを抜いてなかったのか疑問だったけれど、こういうことね……」


 ミスリルの本来の輝きは失せ、光沢が鈍い。

 本来、鏡のように澄んでいたはずの刀身は曇り、クラリスのシルエットがぼんやりと映っていた。


 ペルセポネーとの戦いのせいだろう。

 戦いのあと、ジナはずっと入院していたからメローペの街の鍛冶屋に足を運ぶ余裕がなかった。

 

 「研いであげようと思ったけど、修理しないとダメね」

 「ねぇ、カグヤは錬金術とかで、この剣を直せたりしないの?」

 「んー?その剣はもう死んでるぞ。もう魔力が通ってない」 

 「そう……」

 「この子の魔力によく馴染んでいたんでしょうね。あの陰険女神と戦い抜いて、折れなかったんだから」

 「ジナは大事にしていたから、悲しむわね」

 

 カグヤはまた目を閉じ、思案げに口を閉ざした。

 

 「お疲れ様。ジナを守ってくれてありがとう」


 クラリスはそっと役目を終えた剣を胸に抱くと、せめてもと刀身を拭い、手厚く清めてやった。

 ジナが目を覚ましたら、一緒にどこかで供養してやろうとくすんだ銀剣に鞘を履かせた。

        

 


読んでくれてありがとうございました

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