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11話 特異点、襲撃に遭う



 鋼を容易く切り裂く得物を構える影たち。

 覆面で顔は見えず、感情を読み取ることもできない。

 ジナが鋭い殺気を送っても、柳の葉が揺れるように手応えも反応すらない。

 ジナもまた余裕ぶった笑みを消し、眼光を研ぎ澄ます。


 戦闘の起こりは一瞬だった。


 神魔の嗤う夜闇に、斬光が閃く。ジナの死角をつくように弧を描き、振り下ろされた刃。


 前後左右から絶え間なく飛んでくる攻撃を紙一重で躱すたびに、ジナのポニーテールが忙しなく跳ねていた。

 刃はジナを掠め、氷のような青髪が数本夜風に舞う。

 回避に専念しながら、観察していると動きが変わる。

 合図もなしに仲間が飛び退いた瞬間、控えていた者たちがジナに向けて魔術を放つ。

 一糸乱れぬ統率された動き。まるで群体のようで不気味さが際立つ。


 足元が凍りつき、氷の茨が絡みつく。


 「きゃっ!」


 身体に走る電撃の痛みに、ジナは小さく悲鳴をあげた。


 闇に紛れて襲ってくるだけあって、静謐な魔術を紡ぐ。

 氷結魔術ロサ・アズーラで動きを止め、電撃魔術ショック・ボルトで意識を奪う。

 

 激しい爆発や眩い閃光は伴わない。


 無詠唱魔術を使いこなす力量がある。


 「私だって痛いんだから」


 氷の蔦を無理やり引きちぎって、立ち上がるジナ。


 ジナに魔術が効かないと悟ると、急に動きが一変した。

 背後から二つの気配が迫る。

 強引な攻め手に、ジナは眉を顰めた。

 

 ジナが背後に気を取られた刹那、強烈な衝撃が身体の芯を穿いた。


 「あぐっ!?」


 背中に広がる焼けるような痛み。

 火を吹いたのは、大口径の魔銃だった。


 「そんなものどこに」


 攻撃は止まない。

 体勢を崩したジナに別のふたりが飛びかかる。

 

 ひとりはジナの腕を掴み、もうひとりは腰に組み付いて短刀を突き立てる。


 (何、これ!?魔力が乱されて、上手く練れない……!)


 腰と肩に突き刺さる黒い短刀から感じる不吉な気配。ジナはこの感覚に覚えがあった。


 (ペルセポネーの矢を受けたときに似てる)


 呪詛同士が共鳴するように刺されたところから、ジナの四肢、そして胸の傷痕にも激痛が飛び火する。


 「調子にならないでっ!」


 腕にしがみつく敵を振り払い、腰に組み付く変態の顔面に雷撃を纏った膝蹴りを叩き込んだ。

 ぐしゃりと顔が潰れた音が響き、血飛沫が舞う。


 肩に刺さった短刀を引き抜くと、すかさず身を翻して投げ返す。

 短刀は敵の装備の隙間に滑り込んで、肩口を穿いた。

 ジナも受けた呪いが刺客の身体を蝕み、ビクビクと痙攣してやがて動かなくなった。


 ジナは残る襲撃者を威圧しながら歯を食いしばり、腰に突き立てられたもう片方の刃を抜き捨てる。


 カランカランと金属音が鳴り、短刀が屋根を滑り落ちていく。

 それを合図に大型魔銃から放たれた閃光弾が闇を切り裂く。

 戦闘中は感覚が研ぎ澄まされる特異点の特性が仇となり、光に目を焼かれたジナは、神経を逆流するような痛みに呻いて蹲った。


 (またあの短刀で攻撃されたら、殺される……) 


 ジナの脳裏に死の影がチラつく。

 身体を巡る魔力は乱れたままの状態で強引に障壁を張ると、内側から血の塊がせり上がってくる。


 びちゃびちゃと大量の血が地面にぶちまけられた。

 もう身体が限界らしい。

 

 視界の端に遠ざかる輪郭が映る。

 三人倒したが、あとはまんまと逃げられてしまったわけだ。


 朦朧とする意識を何とか繋ぎ止め、ジナはクラリスが合流してくるのを待った。



◇◇◇



 視界が戻り、クラリスが来た頃には倒した者も含め、覆面たちは影も形もなく、消え去っていた。


 「ジナ、傷だらけじゃない」

 「ごめん、逃げられちゃった。相当に訓練された奴らだったよ。ちょっと舐めてた」

 「そう……何か手がかりは?」

 「龍鱗の全身装備を身につけてた。あとそこの下辺りに奴らの使ってた短刀が落ちてる」


 地面に飛び降りてみると、ジナの言った通り、血糊がべったりとついた短刀が転がっていた。


 「あったわ」

 「ちょっと見せて」


 クラリスの拾ってきてくれた黒塗りの短刀には、案の定呪詛が刻まれている。


 「人間の呪術では、なさそう……。詳しくは、ちゃんと調べないとなんとも」

 「彫ってある文字はワラキアの言葉に似てるわね」

 「ワラキアね」

 「読めるのは、こことここ。『傷』、あとは『鳥』って刻んである」

 「ワラキア、帝国?」

 「お手上げね」とクラリスは首を振り、肩を竦めた。


 (対人装備にしては厳重すぎる。でも最強種用には足りない)


 このチグハグさがどうにも腑に落ちない。

 違和感の正体はなんなのだろうかとジナは首を傾げる。


 「龍鱗を惜しげもなく支給装備に使うのなんて、龍狩りしかいないわよね」

 「そうだね……」

 「私は追跡の手際から帝国の暗部が出てきたのかなって思っていたのだけど。帝国情報部とか、処刑塔とか」

 「処刑塔?」

 「ジナが知らないのも無理ないわね。処刑塔は皇帝直属の暗殺部隊とされているけど、実態は連邦も掴めてないの。言わば、帝国の影ね」

 「帝国の影……」


 (あの襲撃の手際、暗殺が本業なら納得がいく……龍狩り、処刑塔。なぜかはわからないけど、厄介なのに目をつけられたってことよね)


 次々と舞い込む厄介事にジナは、内心めんどくさくなっていた。

 受けた傷が順番に疼く。まるで、借りを返せとでも言うように。


 龍狩りでも処刑塔でも吸血鬼でも、やられた分はやり返す。


 「真祖とか出てきたら、どうしよう……」 

 「不吉なこと言わないで!!」と、クラリスが金切り声を上げた。


 


読んでくれてありがとう

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