第十七章 第十節
私は以前、人形芝居の一座の娘カミルに、『物語』について聞いたことがある。それは人形劇を上演するにあたって、言い伝えなどの既存の物語(時として書物に残っているもの)を、どのような考え方で台本に落とし込むのか、である。場所は宿屋で夜遅く、だったと思う。ペットが隣で、その日は少し眠れなくて、ふと横を見るとカミルも起きていた。その時に質問をした記憶が甦る。
「相変わらず難しい話をするよな、ビル」
旅の安全を確保するため、男性の格好と話し方、声や体格さえもそのようにしているカミルが『難しいことは苦手なんだよな』と言いたげな顔で天井を向いたまま、私を横目で見ていた。
「オレはほとんど人形劇の台本を書いたことはないんだ。でも親父が・・・いや、爺がオレに何度も言ったことは覚えている。本当の意味はわかっちゃいないが、人形劇の声を当てる時に、まあ、頭の隅には置いておいたことかな」
「どんな事なんだ?」
「布・・・?織物の模様みたいなもんだって」
「織物・・・?」
「織物は縦糸と横糸があるだろ?もちろんイメージだから、本当の織物がそうかどうかは知らないけど、縦の糸がある所に横の糸を詰めていく。縦の糸が物語の『筋』。横の糸が物語の『色』・・・何度もそう言われた。筋だけ伝えるのであれば縦の糸だけで良い。でもそれでは物語にはならない。色を付けた横の筋を、縦の筋に重ねながら織り込んでいく。そうするとその織物に模様が描かれる。それが物語だと」
「・・・・・」
「いや、オレもよくわかってないんだぜ。だけど実際に人形劇で声を当てる時、このセリフは今物語の縦の糸なのか、横の糸なのかは意識するようになった。それにほら、ずっと長々劇やるわけにはいかないだろ?時間がある程度決まってるから・・・そん時に必要な模様を・・・みんなが面白いと思えるものはどんなものなのかって考えたときに、必要な横の糸が分かって、そっから必要な縦の糸が分かって・・・・言ってることわかる?」
「ああ、なんとなく・・・・今度物語を読むとき、私も意識をして読んでみよう・・・・で、それを考えることで何か変化があったのか?」
「あ、ああ・・・なんていうか、感情がグッと入ってくる時は、なんだか横の糸で模様を描いているような気分にはなってきた。すごい速さで織物を織っているみたいな・・・・織った先から、どんどんその状況や人物像が姿を現してくる・・・・・」
カミルの目は天井を見ていたが、身に写っているものはおそらく、織物に描かれた英雄伝のような気がした。
「なんか、縦の糸がしっかりしてないと、横の糸がうまく紡げないんだ・・・だから自分で、何か足したり引いたりしたくなることがある。その先に物語を作る何かがあるのかもな・・・・」
彼女の言葉は不明瞭ではあるが、その奥に見えているものが、明確にあるという感じを受けた。彼女は突然こちらを見て、私の瞳を一点見つめた。
「ビルの創る物語はつまらなそうだな。縦の糸ばっかりで」
「そうかもな」
私は思わず笑った。その意味は、彼女の的を射た冗談に笑ったのか・・・意地悪そうに微笑する彼女そのものに、微笑み返したのかは・・・・
今になってはわからない——————————
時間は深夜に近づこうとしている。敵陣のノクティア領邦軍の帷幕にて、久方ぶりに再会したのは師団長のグラオだけではなかった。三国同盟の統括国、ヴァルドリス王国レオナルド師団長の参謀として付き従った・・・・細い体で黒髪を後ろで束ね、琥珀色の眼差し、私という一点を見つめている『イリア参謀』
「本当に・・・・ビル殿とこんなところで会えるとは、思っていませんでした」
優しく、柔らかく右手を伸ばし、再会の握手を求めてくる。私はできるだけゆっくり手を差し伸べながら、思考の時間を確保する。だがヘルヒンに来る前と後では、その時間の使い方が違う。以前であれば何を話すのかにそれを当てたが、今は息を整え、頭を休めることに使っていた。故に次に出てきた私の言葉は、計算とは対極の素直な感想であった。
「どうしてイリア参謀が・・・・グラオ師団長と?」
ぎりぎり『ノクティア領邦軍に?』という言葉だけは避けた。
「まあ、そうですよね。ご説明しますので、まずは座っていただいて・・・」
イリア参謀が奥側に右手を伸ばすと、テーブルといくつかの食事、暖かい紅茶が用意されていた。
「ありがたい・・・」
私は素直にそう言い、素直に席についた。イリア参謀とグラオ師団長が席に着く前に、入れてある紅茶に手を付ける。二人は私が、よっぽど喉が渇いていたのだと解釈したようだが、私は飲み物を飲むことで、少しでも頭にエネルギーを送りたかった。
「ビル殿は兵の恰好をしていますが・・・・」
イリア参謀が柔らかい口調で質問をしてくる。私も柔らかく相手を見る。計算はするが隠し事をするつもりはない。
「ここで兵をやってるのか?」
意外そうにグラオ師団長が聞いてくる。
「はい」
簡潔に答える。余計なことは言わない。
「なぜ兵士をやっているのですか?」
イリア参謀は『自分がここに居ること』を始めに説明すると思ったが、綺麗に話題をずらして来た。しかし今の私は、そんなことを気にしない。あるがまま相手の質問に答える。
「シルバー先生に置いていかれまして」
「置いていかれた?」
2人は顔を見合わせる。
「はい。今となっても理由は全く分かりません。しかし先生は、この街に二年過ごすようにとおっしゃられました。もちろん他の人たちはそのまま旅を続け、ここにはいません」
私はそういうと、再び飲み物を口にした。無作法だとは思いつつ、先ほどから目の前でうまそうな匂いを漂わせている鳥のソテーを、小皿の上に盛って自分に引き寄せた。以前の私であれば決してしないであろう。ここまで来る時はたくさんのことを考えているのに、いざ相手を目の前にすると、恐ろしくいろんなことが、どうでも良くなってくる。ここぞという時まで、すべての自らの紐を緩める。
「それは・・・・実に大変というか・・・・・ビル殿達と別れてから、もう一年くらいになるのでは?」
「そうだな。つまりビル殿は、あれからずっとこの町にいるというのか」
「はい」
もぐもぐもぐ
当たり前だが、ここ最近うまいものも、温かいものもほとんど食べてない。いや、スープのようなものが多いので、温かいものは食べてはいるか・・・・
だがうまい、体の芯に熱が戻っていく。
がちゃがちゃがちゃ
テントの外では、兵たちの動きが聞こえる。つまり、目の前の二人が黙っている間が長いということだ。おそらく私に何を聞くべきか、何を伝えるべきか考えているのであろう。私の頭の中は、2つ目のソテーを食べるかどうかで一杯だ。
「我々が、なぜヴァルドリス王国を攻めているのか、理由はご存知ですか?」
「いいえ」
イリア参謀の質問に、私は即座に否定の答えを返す。変な質問だ。ヴァルドリス王国の参謀のアンタが、ノクティア領邦軍にいう方がよっぽど理解に苦しむのに、そのことを言わずに、まるで自分の軍のような話をしている・・・?ということは、もうこの参謀はヴァルドリス王国ではない?あんなにレオナルドに助けられ、付き従って来てたと言っていたのに?
「ビル殿。あんた達と一緒に戦ったペソン攻略の後・・・・レオナルドは変わった」
強く押しつぶすように、グラオ師団長は言葉を出した。私は前を向く。しかし興味の目はしない。心と同じく。
「彼が弟を殺したということもある。それから・・・・・自分の妻も殺した。弟と通じていたからだ」
イリア参謀は言葉を濁した。ここで言う「通じていた」は情報でもなければ工作でもない。不貞だ。コウルサンの街での『時語り』が話していたことが、事実としてあったということだ。
「レオナルドは国民からは称賛されたが、国の権力ある立場としては孤立をしていった。彼の行った正義の行為より、彼を『英雄』扱いされるほどの人気が、ほかの権力者との関係を壊していったのです」
「それで?」
そのことが、イリア参謀がレオナルド師団長から離れたこと。同盟を破棄しヴァルドリス王国を攻撃していることは直結しない。目の前の2人は同時にグラスに入ったワインを一口飲む。そして、やはり説明役としては自分が適していると意識したのか、真っ白い布の服を一度整えてから、イリア参謀が続けた。
「あなたの師、シルバー先生が予測した通り、モントベリーの軍は動きを見せる様子があった。もちろんすぐということではなかったが、我々が空白地帯にしたペソン北東に侵攻する動きだ。それに対抗する手段をすぐに協議しようとしたが、レオナルドは『一度それぞれの国内の状態を定めるべき』だと言い始めた」
私はまだ何も言わない。レオナルドの気持ちは分かる。三国同盟のヴァルドリス王国、リュセール公国、ノクティア領邦で彼の国がもっとも状態が定まっていない—————いや、乱れているといってよいのが、ヴァルドリス王国だからだ。国王は首都にて安泰といっても、全権委任の師団長が、前線基地の弟を攻撃し処断、さらにその流れで自らの妻も処刑したのであるから、国としては落ち着いたが本人の中では最も乱れた状態であろう。レオナルドは優しい。優しい故に、彼はこの状態に極度に苦しみ、次の戦いに臨む精神状態ではいられなかったのでは・・・・
「我々は、レオナルドを説得しました。しかし頑として聞かず、敵であるモントベリーが攻めてきてから迎え打てばよいと主張し続けました。たとえそうだとしても、準備だけはしておかなければなりません。しかし彼は国王にべったりとなり、城にしがみつき、いつでも敵を迎え撃つ、将たる顔が完全に消えていました」
縦の糸がずれた—————
私は彼らの言葉をよく把握できていない。これが物語であれば都合よく「レオナルドがヘタレた」と受け取るであろう。そのように物語の縦糸を繋ぐだろう。しかし現実はそんなに単純ではない。あまりにも少ない一方方向の情報しか得られないところで、何かを決めつけるのは、落とし穴に自ら落ちるようなものである。少なくともズレを感じたにもかかわらず、思い込みでその縦糸をつなぎ合わせるのは、もっとも悪手である。
グラオ師団長も話に加わる。
「そんな時、サニントガウコスでヴァルドリス王国とノクティア領邦の小競り合いが起きちまった。もともとそこは時々争いが起きてて、モントベリー攻略で同盟が強固な時は収まっていたんだが・・・・」
エリアス先輩が死んだ戦いだ・・・・
「それで両国は険悪となり、レオナルドは関係改善を進める私の言葉も聞いてくれなくなった・・・・私はやむを得ずグラオ師団長を頼り、ノクティアに身を寄せた」
「あれだけ信頼を寄せていたイリアが離れなきゃいけなかったんだ。よっぽどだったんだろうぜ」
イリア参謀の言葉の後に、グラオ師団長が言葉を足す。また縦の糸が切れていると感じた。しかも二、三本・・・・・両国間の戦闘が始まったことが重要なのに、まるで以前から当たり前のように存在していたことで、それは今ここに至っていることに、あまり重要ではないというニアンスを感じた。そんなことあるのだろうか・・・・イリア参謀がノクティア領邦に亡命するなど普通ではない。しかしその部分も納得の度合いが高いことは、何も語られていない。しかもそれを、レオナルドの変貌のせいだと事実を上から溶かし込まれている気がする。グラオがそれを補足するように言葉を足していることが、縦糸を無理やり紡いでると感じてしまう。
彼らの語っているのは全て『縦糸』——————
聞いていて、すべて嘘くさい。いや、八割くらいは真実であろう。しかし後の二割小細工することで、なんだか肌触りの悪さを感じてしまう。参謀であれば最後までその知略を持って、仕えている人物にその言葉のヤイバを向ければよいではないか。同盟の相手だと思っているのであれば、軍隊を動かすのではなく、二、三発殴って目を覚まさせてやればよいではないか。もちろん、それでなくてもよい。だがどうであれ・・・
『横糸』を感じない——————
何の模様も見えない——————
『色が見えない』——————
実につまらない——————
あの時の私——————
あの時、彼女と見つめ合った時——————
何か一言・・・・「好き」でなくても良い。手を握るだけでもいい・・・・愛しい気持ちを・・・・・『横糸』紡げたら・・・・・・何かが・・・・・・・
私は改めて目の前の二人を見つめる。こんなことで、戦が始まり、何人も死に、見せたくもない醜い姿を見せ合い・・・・・・
「そうだったんですか・・・・それで、このままヴァルドリス王国を亡ぼすんですか?」
「・・・・・・」
二人とも少しキョトンとして、お互いを見る。
「いや、まさかそこまではやらない。本当にそんなことになればモントベリーの軍、いや中央政権の軍が一斉に攻めてくるだろう。あくまでも南国三国同盟を堅持しつつ、ヴァルドリスの王とレオナルドに目を覚ませてもらうのが目的だ」
そんなことでみんな死んだのか——————
そうだ、それが自然の流れ。この壮大で壮絶な矛盾が現実でなくて何が現実だ。間違っていることこそ、この世界の在り方であるのは不変。私は・・・随分と眠くなってきた・・・随分と面倒くさくなってきた・・・・私は・・・・・以前の私では・・・・この街に来る前の私ではできなかった『横糸』を、ゆっくりと紡ぎはじめる。
「では、このヘルヒンを攻め落とす理由は、ほとんど無いといっても良いですね」
また二人は少し止まる。
「ん・・まあな・・・」
グラオ師団長がある意味で素直に答える。イリア参謀もすぐに反論や否定はしてこない。おそらく私の口調から、何らかに誘導しようとする意図を、感じなかったからであろう。その通りだ。私は今縦糸を放り投げている。紡ぐべきは横糸である。すべてを馬鹿らしく感じ、すべてを面倒くさく感じる。後先は考えない。
「では、そのままバラクローナに攻め入ってはどうでしょう?ヴァルドリス王国の首都にもずいぶん近づきますし、レオナルド師団長たちも焦るのではないですか?」
「まあそうだが、イリア参謀と立てた作戦は、主要都市より前のところをいくつか落とし、こちらが本気なところを見せてから、相手の変化を見てみようと・・・」
それでお互いの兵が死に、市民が苦しみ・・・・・
実に正しい‥‥正しくて面倒くさい・・・・
「それならより一層、こんな小さな街に構わないで、素通りしてバラクローナに行った方が良くないですか?」
「・・・・・・」
グラオ師団長の眉間にしわが寄る。明らかに不快な表情だ。それを感じ取ったのか、それと同時に私の頭を探ろうとしたのか、イリア参謀が少し早口で割って入ってきた。
「それはビル殿が、ヘルヒンに今住んでいるから言っているのでは?」
「それもあります」
まるで否定をするつもりがない私に、ふたりは全く違う表情をする。
「それもありますが、私は普通にあるべき道理で話をしています。まずあなた方の言ってることに矛盾があります。ヴァルドリス王国に脅しをかけるためにこの軍事作戦をしているのに、高々ヘルヒンのような小さな町を一つ落とすことに、これだけ手間取っているのであれば、それは彼らに余裕を持たせる行為以外何物でもない。現に彼らは、バラクローナからヘルヒンに約束をしている援軍を送る様子が全くない。これは、本来心理的にあなた方を恐れて、自分たちの兵を減少させることを嫌がっていた行為。しかし今ここに至っては、城内が少ない兵にもかかわらず、何日間も街を陥落さられないので、このまま援軍を送らなくても大丈夫ではないかと思い始めているでしょう」
「ははは、ビル殿!それはまだ先行部隊しか来ていなかったからです。本体が来た今・・・」
「その言葉は果たして、初めから計画しているものでしょうか?私が想像するに先行部隊ですぐにヘルヒンをおとし切り、本隊が来るときは更地になっていたはず。今この時点で落せてないことで、その計画は既に崩れているのではないですか?」
「!・・・」
再びグラオ師団長が不機嫌な表情を隠さず、拳に力が入る。私が描き出した『横糸』に色が入り始めた。
「だから、明日から総攻撃を仕掛けてすぐにこの街を落とし、中の連中も皆殺しにしてやる!」
言葉が強くなり、色が鮮明になっていく。
「ここまで手間取っているのに、なぜそんなに簡単に落とせると思うのです?それに、ここでそれだけ兵力を大量投入しないと落とせないとわかれば、むしろ主要都市であり、正規兵が潤沢にいるバラクローナを脅すことに向けては、どこまでも逆効果ではないですか?」
さらに拳に力が入る。グラオ師団長としては、かつての友人と楽しい話を繰り広げようと思ってたにもかかわらず、自らの部隊をクソミソに言われているのである。イリア参謀が再び割って入る。
「なぜそこまで、この街を守ろうとしているのですか、ビル殿?」
参謀らしい、道一本論法をずらした言葉だ。どうにかして私が理性的でなく感情的に、感傷的にものを言っていると、かたちづくりたいのであろう。実に・・・実に面倒くさく・・・眠たい・・・・
「先ほども言ったように、感情的にこの街を守りたい気持ちもありますが、ほとんどが道理としての言葉を言っています。私はこの街の守備隊長をやっています。おそらく報告で聞いていると思いますが、序盤で西方面を攻撃したあなた達の軍は、壊滅されたはずです。その指揮は私がとっていました。以降も私がヘルヒンの守備指揮し、徹底抗戦をする構えです。今おっしゃったように、本体が到着することはわかっていましたし、そこから二日持ち堪えれば『ノクティア軍弱し』と判断して、バラクローナから一斉に援軍をよこすようにすでに伝達をしています。二日です!たった二日守れば完全に形勢は逆転します!」
私はあまりにも自然に嘘を混ぜて、二人に向かって言葉をぶつけた。『嘘』といったがそれは今からでも手の打てる、いや、打つ自信がある内容だ。
「ビル殿・・・アンタ本当にオレたちの軍が、一斉に攻撃して凌げると思ってるのか?」
「勿論」
「そおじゃねえ・・・・アンタをここから、なんもしないで返すと思ってるのかと聞いてるんだ」
グラオの言葉に反応して、槍を持った衛兵たちが入り口を塞ぐ。
くだらない—————
本当にくだらない—————
この私が・・・・『智慧の篝火』と言われているシルバー先生の弟子であるビル・フィッツジェラルドが、そんなことも考えずにここに来たと本気で思っているのか!!
「私の言葉を全く理解してないようですね?私がいなくても、あと二日間は必ず持ちこたえる。そのための策も既に伝えてある。そしてそこを持ち堪えれば、確実に援軍が来る。こんな街も落とせないない連中であると彼らが感じれば、恐れていた反動で確実に攻勢を仕掛ける。第一あなた方は、本当は怖いのだ。どこかで本格的に交戦することを恐れている。だからこんな小さな町を相手にしている。それが根底にあるから、矛先が鈍っている。本気であるのであれば、とっとと首都に巨大な石を打ち込めばいい。だが怯えてこんなところでうろちょろしている。そのグダグダの先にこそ、何の理由かわからない、お互いに後に引けない状態になるのだ。その先でどっちの国が勝とうが、あなた方の目的は何ひとつ達成できなかったことになる!そして他国がその利を得る!それが理解できていないと言ったのです!!」
策など何も伝えていない。バラクローナにそんな内容は伝えていない。第一私は、たった何十名を預かる一部隊長だ。だが大きな流れは、私の言ったこと何一つ矛盾はしてない。嘘でありながら本当である。
私は近くにあった長椅子に横になると、そのまま目を瞑った。眠たさが限界に達していた。私を縄で縛ろうが、首を落とそうがどうでもいい。私は眠たいのだ・・・横になるとすぐに意識が消え始めた。その消えゆく意識の中で、遠くイリアの声が聞こえた。
「ビル殿・・・一つお聞きしたい・・・ここまで攻撃をしておきながらヘルヒンから手を引くには、それなりの理由が必要なはず。それはどうすれば」
私は夢の中で答える。
「ヘルヒンの・・・・この街にシルバー先生の弟子、ビル・フィッツジェラルドがいたから手を引いた・・・・だから手間取ったし、スルーすることにした・・・・そう流布すればいい・・・・人は本当かどうかなどどうでもよく・・・・理由だけを求めてる・・・そのビルが・・・ノクティアに付いたと言えば・・・・・あんたたちの目的通り・・・あいつらは・・・・・怯えて・・・・・・・・・」
最後の方は何を言ったか憶えていない。私は心地よい眠りについた—————




