君の哀しみを消してあげるまで
かつてユウコが産んだ子どもは障害があり、産まれてすぐに心臓の手術と鼻唇の手術を受け、点滴で命を繋いだまま5ヶ月を病院で過ごした後ようやくユウコ夫婦の家に入った。
子どもの体重が増えるのをまって5歳までにあと数回手術が予定されるという状態で、子どもを待ち望んでいた夫や婚家の親兄弟は手のひらを返すようにユウコを責め、病児の世話を若いユウコだけに任せていた。
寝る暇もなく昼夜ひとりで育児というより終わりのない介護を続けていたが、ふた月ほどで精神的な支えも無いユウコは家を飛び出してしまい、
欲しがる乳児に反応するように張って痛い乳房から母乳が漏れる身体で数日間どこかをふらついて我に返って家に戻ったときには子どもは救命のための緊急入院となっていて、そのまま家に帰ることはなかった。
家を飛び出した若かったユウコは、実家に送られてきた離婚届を送り返したきり婚家に関わることなく元夫に会うこともなかった。
教員免許を持っていたユウコは若いこを育てることを自分の指名と思い仕事に邁進するようになっていたところ、通いやすい私立高校での臨時採用の声がかかり、リョウと出会ったのは30歳の頃だった。
リョウが、ずっと妻のユウコに誠心誠意応援されていて今の自分があるということを天涯忘れることはない、とレイに言うと、
レイは、自分は二度と結婚するつもりはないしリョウとは最高のパートナーでいたいから妻のユウコさんも大切で良いに決まっている、と言う。
リョウは、自分の妻はユウコだけだと思っているので、
レイにもリョウにもそれぞれ高めたいキャリアがあり、愛し合う男女であっても夫婦というよりパートナーでいるということは理想的だと思う。
ユウコにはまだ生きていた頃の哀しい記憶があるのだろうか、もう子どもでない僕にしてあげられることがあるなら僕は何でもしてあげたい、
そうリョウが心で強く思っても、幽霊のユウコは今日も現れなかった。




