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20/20

君はいつまでも妻でいいんだ

人が死ぬということは予測なしに突然フッと消えていなくなり、そのまま2度と会えなくなることだ。


時間は決して止まったり戻ったりしないのでドラマや映画の中でだけそんなことも叶えられるのだけれど、

人はまれに身体が無くなっても思念エネルギーが霊と呼ばれるような外観を残し続けることもあるのだと、ユウコを見るようになってわかったリョウは、

人の心を震わせるような感動や生きる歓びを非日常で感じてもらえるような仕事をする俳優になりたかったが、何かが虚しく、わからなくなってきていた。


人は誰もが産まれてきて、育つ国の決めた教育を受けて、親が使う言語を使い、何十年かの間、食べて飲んで働いて納税して遊んで、喜怒哀楽を繰り返して老いて、そして必ず、死んでしまう。


俳優から感じた感動など、日々の暮らしに戻って3日もたてば忘れられてしまう瞬時のものかもしれない。


リョウが自分は何のためにこれからの数十年を生きていけばいいのかもうわからない…と思っていると、

ふと傍にユウコが現れた気がして、すぐ耳元にユウコのささやく声が聴こえてきた。


ユウコは、リョウに知って欲しいことがあると言って話し始めた。


リョウはすでに多くの人を感動させてきている俳優であること、どんな仕事にも完璧など無くトラブルがあってもそれで良いということ、リョウも大人になったので後進を育てて欲しいということ、人を育てることからリョウ自身が得る歓びを味わってみて欲しいということ、そして恋人が出来たなら自分のことは忘れてその人を信じて愛し合って欲しい、などと。


ユウコの声は懐かしく優しく、リョウに京都嵯峨の邸宅の月夜を思い出させ、リョウの心を温かく包んでくれた。


ユウコの言葉で自分の脳が安堵して身体が深く癒されるこの感じは、肉体を使ってレイと愛し合うのと同じ感覚だな、とリョウは思った。


ユウコは別れを決めてくれればいま消える、と言ったが、どこまでもいられるだけ自分の傍にいろ、と、リョウは迷うことなく強く念じて引き留めたのに、いつの間にかユウコは見えなくなっていた。


仕事のスケジュールが落ち着いて、レイがリョウの歯の裏側に小さいワイヤーを張り付けてくれて、歯列矯正が始まった。


リョウはブロードウェイの契約のための健康管理とボイストレーニングをしながら出来る仕事をスドウに選んでもらい、

家ではマサシ、ケント、ヒロがときおりリョウに演技を見てもらったり心理描写についての見えかたのアドバイスを受けたりして小さい役のオーディションにパスすることも出るなど、忙しくて賑やかで楽しげな日々を送っていた。


レイは結局今年のUCLA派遣メンバーから漏れ、病院の外来勤務のまま、そこそこ気楽に過ごすことになった。


休みの日はほとんどリョウの家に泊まっているレイは、ひと部屋を自分の荷物だらけにしているが、リョウは喜んでレイが使う家具を買い足している。


ある夜リョウの夢に現れて、消えないからヨロシクね、と言って笑ったユウコは、そろそろリョウより年下になっていた。


レイと2人きりの時はユウコは現れなかったが、本当にレイはリョウを愛しているのでユウコを大切に想っているリョウが好きなのだと言うばかりで、

たまにユウコがここに居るよ、とリョウが言ってもそれを別に気にもしていなかった。


リョウは、

ひとまずこの連中と一緒に生きているのが楽しいってことを認めるよ、妻なんだからユウコはね、いつでも出てきていいんだよ、

と、階段の上に腰かけて笑ってリョウを見ているユウコに向かって言った。


ハヤトが消えてしまって一人になったユウコには、リョウの家だけが自分の居場所になっていた。

























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