君に謝らなければならない…
ユウコより先に幽霊になっていたハヤトが近いうちに消えるかもしれないと思っていた矢先、
ユウコはハヤトから話しておきたいことがあると言われた。
ハヤトが言うには、
眠らないし食べないどこの時間でもない、考えるだけの時間の中の存在になってから知り合った、自分のファンだったという消えかかっていた女の子に教えてもらったのだが、
年に一度の満月の夜には大切な人間と話が出来るが、そうすると自分が消えてなくなる時が早くやってくるのと、傍にいたい人間の近くにいてもまるで気が付かれなくなる時間が増えてくるようだ、と。
すでに生きている人間ではないのでゴーストどおしは会話を楽しみながらお酒と美味しい料理、というわけにはいかないが、耳を使わなくても会話が出来ている。
また、
生きているときに知り合いでなければゴーストどおしの話しは出来ないが、たとえ生きているときに知らなかったとしてもゴーストの自分と生きている人間との波長が合う場合は夢でなく現れて話を聞かせたり耳元でささやいたり出来るという。
やがて消えるときにまだ人間に未練が残るとゴーストのまま消えなくなるが、その後は人間でなく物にだけ取り付くようになって、それまで自分のことが見えていた人間からは見えなくなってしまう、と。
ハヤトはユウコが知らない間に、自分の後追い自殺をした数十人の幽霊と関わってきていたようだ。
ハヤトはどのファンにも優しく丁寧でカッコいいゴーストだったのだ。
ユウコはかつて自分が産んだ一歳にならない子どもを探したが、7歳までの子どもは転生していてゴースト界にはいない。
ハヤトに教えられたことを知った上でいよいよリョウとの本当の別れが近づいていることを悟っているユウコは、少しもリョウの傍を離れず現世で彼が少しでも幸せに生きていられるように使える力を駆使して必然を創りながらも、
自分のことを忘れてくれるように誘導していかなければならないことを受け入れ始めていた。
ハヤトがどこにも居なくなってしまってから、
幽霊のままの自分がリョウを近くで見つめられる喜びもリョウを助けられるやりがいも、永遠に続くものではないことをユウコは理解しなければならなかった。
一方、2人だけで食事をしながら、
リョウはレイに、妻だったユウコの骨粉を大切に入れるために少し太くデザインし直したプラチナの結婚指輪をきちんと見せ、
レイはリョウに、東大卒の官僚候補者や大病院の経営者一族の御曹司医師とかつて結婚していたバツ2であること、そして今、渡米してUCLAの歯学チームに数年間派遣されるかもしれないということを詳しく話した。
歯科医のレイは3歳年上だったからだけでなく、いつも責任ある大人としての言動をする経済的にも自律した女性で、
華やか過ぎるリョウたちのような仕事にも特別感を抱いたり自分の夢を乗っけてくるような重たい女ではなさそうだと確信したリョウは、他人の前で久しぶりに心のガードが溶けているのを感じて酒がいつもより心地よくまわっている気がした。
酔っぱらってボサノバに合わせて踊っているレイのドレスの裾が揺れているのを見つめていたリョウは、思わず立ち上がってレイを抱きしめ2人は自然に求めあってベッドに行ったが、飲みすぎてそのまま抱き合いながらぐっすり眠った。
リョウとレイは、歯の矯正を担当するためにもアメリカと日本で可能な限りスケジュールを合わせて会うことにした。
リョウはユウコに謝りながらレイに惹かれていることを心で伝えたがユウコはもう見えなかった。
レイとリョウが京都の家で2人だけで過ごせるように日程を調整してくれたスドウは、リョウの欠けた大切な部分が戻ってきているのを感じていた。
レイも診療と学会論文補佐に忙しく京都には一泊しか出来なかったが、違う新幹線で先に着いているリョウからのメールに誘導されて簡単に竹藪の奥に佇む邸宅に着くことが出来た。
仕出しをとってお酒と料理を堪能した2人はただの大人の男と女になり、翌日最終の新幹線でレイが帰るまで何度も何度も愛し合った。
リョウは、しっかりと自分の手で触れ抱きしめられることの確かな喜びを思い出して涙が止まらなかった。
庭の桜の樹の上に腰かけていたユウコはリョウには見えず、辺り一面の美しい景観に溶け込むようだった。




