表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

他人を演じるだけでは自分の人生を生きることにはならないんだね

ヒロはスドウやマサシ、ケントともすぐに仲良くなるほど嫌みのない丁寧な会話ができる男の子で、

あっさり三ヶ所のリョウの家のことや仕事のためのアシスタントをしながら俳優修行をすることに決まった。


一人で自室にいたリョウはユウコが現れるのを待ちながら、いつものように妻のことを思い出していた。


ユウコの通夜の日、湯灌師に洗われている妻は思ったより痩せていたが白くて艶やかで美しかった。


通夜は2人だけにしてもらったので一晩中寝顔のようなユウコの冷たい手を握ろうと閉じた指を開けてみると、握られた指の中から薄くて小さい引き出しの鍵がこぼれ落ちた。


甘えてばかりで妻のことをあまり知らなかった自分に腹が立っていたリョウは、

ユウコが引き出しの中に遺したであろう遺書や日記を受け止めるための覚悟という心を整えていたのに、

引き出しの中はガン闘病のための薬しか入っていなかった。


あれこれ探しても、リョウへの遺書や日記は何一つ遺されていなかったのだが、ユウコはただひとつ、

赤いハイビスカスをリョウに、と言い残したそうだ。


ハイビスカスは日本ではブッソウゲ(仏桑花)という名前で親しまれ、ハワイの州花でもあり英語ではChina roseと名づけられている。


ハイビスカスは一日だけ咲いてその日のうちに枯れてしまう一日花で、日当たりのよい場所では次々とつぼみをつけて咲き続ける。


花言葉の「新しい恋」「常に新しい美」は、ハイビスカスが毎日新しい花を咲かせることに由来する。


リョウは火葬したあとのユウコの骨粉をプラチナの指輪に入れていつも身に付けている。


これまでは毎日ユウコが幽霊で現れてくれるので意識していなかったのだが、近ごろは数日置きにしかユウコが現れないのでついつい指輪に触れることが増えてきていた。


リョウは仮面を付けるように役になりきるのでメンタルケアが必要な役者だとユウコがスドウにいつも言っていたのを、リョウも何度か聞いて知っていた。


今は役になりきったあとに指輪に触れることで心をを切り替えてメンタルを守っている習慣も出来てきた。


他人を演じているとき以外が自分の人生なんだよ、と、いつもユウコは言っていた。


昔の自分も多分ハヤトも、若過ぎて未熟だっただけなんだとリョウは思えるようになっている。


せめて自分を慕ってそばにいる若いマサシ、ケント、ヒロは、自分の人生を確立して仕事としての冷めた見方を残しつつ役に入っていける人間に育てたい。


さっきからヒロを歓迎するというのとはまた違う騒がしい声がリビングからするので行ってみると、ケントが腫れた右の頬を押さえて黙って涙を流していた。


ちょうど学会でUCLAに来ていてビバリーヒルズのホテルに泊まっているヒロの歯科医のいとこを、スドウとヒロが車で迎えに行くことにしたという。


いくら役で医者を経験したとはいえ本当には何もしてやれないので、せめて冷やしてやろうとリョウが氷やドライアイスを準備して右頬に当ててやっても痛みはあまり変わらないようだ。


一時間ほどして、玄関がバタバタと騒がしくなり背の高いユウコみたいにキビキビと歩く女性が連れてこられた。


彼女は、ペリコのようですよ、と言って腫れた粘膜を少しだけ切って膿を出し消毒し、消炎剤と抗生剤を一週間分くれて氷やドライアイスは治癒を遅らせるので駄目だと注意し食べられるものを食べて抵抗力を落とさないで、と指示した。


彼女への御礼に、デリバリーで良ければここで夜景を見ながら夕食にラツゥールを一本どうですかと勧めると、

良いお酒が好きな彼女はイエス即答し、その迷い無さにリョウは久しぶりに素直に心から笑ってしまった。


ヒロからレイと呼ばれる彼女は、医学部受験生の時に国際線CAに合格してしまい7年乗務してから歯科医になって大学病院の口腔外科勤務3年目だという。


笑顔に媚びたところがなく身なりもスッキリとしているレイが居るリビングはいつもより華やかな空気になって、リョウの笑い声が何度も響くのをスドウは懐かしく感じていた。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ