第18話
短いですが。
それから一ヶ月が経った。
結局、こちらを探っていた相手のことは、その尻尾すら掴むことができなかった。
それに関してはまあ、予想通りといえば予想通りだ。
そして、今日が運命の日である。
「リョウ、行きましょう!」
輝くような笑顔のフローラ様には申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。
俺が買って差し上げた髪飾りを付け、今日も楽しみに胸を踊らせているのだろう。
こんな無邪気に楽しそうにしている子を、賊の手に渡すわけにはいかない。
俺みたいな子を、生み出してはいけない。
「リョウ、無茶だけはするなよ」
「ライアンさん」
7歳にしても小さめな背の俺からすると見上げるような偉丈夫である我らが軍団長は、常にはしないほどの真剣な表情を見せていた。
「良いか、お前の仕事は俺が着くまで死なぬことだ。それまで、死なずにフローラ様を守れ」
「はい」
その真剣な表情に応えるように、頷く。
「……本当はお前のような子供に任せる仕事ではないのだがな」
「ですがこれ以上の策は立てられませんでしたし、この役割は私が一番適しています」
「分かっている。だから止めはしていないだろう」
首を振りながら溜息を吐いてそう言う。
「お前の初陣がこれになるとは思っていなかった」
「それは……まあ、私も思いませんでしたが」
誰がこんな状況を想定するというのか。
思わず苦笑した俺の頭に、ライアンさんがその大きな手を乗せる。
「お前が普通の子供でないのは、見ていれば分かる。だが、それでも……普通の子供のように、安全なところで成長してほしかったと思うよ」
そう言って、最後にグリグリと強く頭を撫でる。
「……痛いです」
「これぐらい我慢しろ。……生きて帰ってこい」
「……はい」
最後に背中を押されて、フローラ様の下へと向かう。
フローラ様とお話をされていたグライガン様がこちらを見た。
「リョウ君、頼んだぞ」
「は。必ずや」
フローラ様の前だから、お互いに最小限の言葉を交わす。
――そして。
フローラ様と共に、敵が待っているであろう屋敷の外へと足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
少年と少女の二人組が伯爵の屋敷から出て行くのを、一人の男が見ていた。
「――よし、護衛はいないな」
男の仕事は、少女を誘拐すること。
彼は腕の立つ傭兵であり、とある奴隷商人の専属護衛であった。
男は強かった。
元々才能があったし、努力も惜しまなかった。
その結果、彼は世界でもトップクラスの実力を身につけるに至った。
男は強欲だった。
金さえ積まれればどんな仕事でも受けた。
そもそも強くなるための努力を惜しまなかったのも、金をたくさん手に入れるためだ。
そして男は今の雇い主である奴隷商人と出会った。
その奴隷商人は非合法の奴隷を専門に扱う商人で、質の良い奴隷を用意することで幾つもの貴族から御用達として贔屓されていた。
その奴隷商人は、主に平民の富裕層から商品を仕入れていた。
そのための手駒として、そして自身の護衛として戦闘力の高い人間が必要だったのだ。
非合法の奴隷を扱うのは非常にリスクが高いが、その分リターンも非常に大きい。
そこで上手くやっていた奴隷商人はかなり儲けていたし、仕事に対する報酬を惜しむことはなかった。
男としても、金払いの良い相手ならば大満足である。
違法奴隷を扱うことに対して、特に忌避感などは持ち合わせていなかった。
男を雇った奴隷商人は、急速に商売を拡大させていった。
冒険者ランクに換算するとSSランクの強さを持つ男のお陰で、多少の無茶も出来るようになったからだ。
そして自信を持った奴隷商人は、とうとう違法奴隷商人にとって最も敬遠されるリースト伯爵領にまで手を出すようになった。
違法奴隷への取り締まりが厳しく、SSランク相当の強者アーノルド=ライアンを抱えるリースト伯爵領、特に領都リーシアは彼ら裏の者にとっては王都と並んで危険な場所だ。
いや、取引できる貴族がいない分、リースト伯爵領の方が危険かもしれない。
当然、奴隷商人も慎重に事を運ぶつもりだった。
だが、驚いたことにリーシアに着いて2日目に、なんとリースト伯爵令嬢が子供一人のみを供に街へ出てきたのだ。
1度目は様子見だった。
こちらの尾行に気付かれたことに男は驚いたものの、二重尾行をしてきた相手もそこまで強くはなかった。
伯爵軍の軍団長であるアーノルド=ライアンにさえ注意すれば、あとは一気に距離を詰めて子供を吹き飛ばせば簡単に攫うことが出来そうだった。
男からその報告を受けた雇い主は一度リースト伯爵領を離れ、最上級の商品として販売先を探し、一月ほどで再びリーシアへ舞い戻ってきた。
そして、決行の日。
前回見たときと同じようにたった二人で街へ出掛け、人気のない路地裏へと入った瞬間、男は動いた。
一気に距離を詰め、路地裏へと入り――。
「――ようこそ」
――そこには、伯爵令嬢の側にいた少年が剣を振りかぶって待ち構えていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
次は割と早めに投稿できると思います。




