第15話
明けましておめでとうございます。
大変遅くなりました。
申し訳ありません。
今回はフローラ視点です。
◆ ◇ ◆
わたくしはフローラ=リースト。
アリスト王国にて国王陛下より伯爵位を賜ったリースト家の長女です。
今日は、初めてお忍びで街へ行く日です。
とても楽しみで、行くのは昼食を頂いてからなのに朝から落ち着きませんでした。
午前中の礼儀作法の授業では、教師のダーラ夫人に何回も注意を受けてしまったほどです。
そのせいで、今日は終わった後のご褒美のお菓子はありませんでした。
残念です……。
街へは、今まで護衛を連れてしか行ったことがありませんでした。
わたくしはずっと護衛無しで街を歩いてみたかったのですが、それが危険だということはわたくしにも分かります。
だから、仕方がないと我慢していたのですが……リョウがお父様からお許しを頂いてきてくれたのです。
リョウは不思議な人です。
一週間くらい前に、とつぜんお父様に兵士として雇われた、わたくしと同い年の男の子。
リョウとは訓練が終わった夕食前に、わたくしの部屋に来てお話をします。
そこでいろんなことをお話しするのですが、リョウはとっても物知りなのです。
わたくしの知らない物語や、平民なのに敬語の使い方を知っていたりします。
それに、リョウは何だか子供っぽくないのです。
いつも冷静だし、話し方も大人みたいです。
何というか、ふとした時に見せる表情がお父様に似ている気がします。
一体、どこでどんな人に育てられたのでしょうか。
とっても不思議です。
でも前に一回聞いてみたときは、困った顔をして教えてくれませんでした。
いつか教えてくれたら良いな、と思います。
今日のお出掛けは、そのリョウと一緒です。
わたくしの準備が終わったことは伝えたので、そろそろ来ると思うのですが……。
今日の服装は、街へ行っても目立たないように普段よりも質素なものを選んでいます。
町娘の格好をしても分かってしまうから、せめて大商人の娘ぐらいに誤魔化せるようなものを選んだそうです。
わたくしはよく分からないのですが、平民と貴族では日常的な動きから明らかに違うのだとか。
楽しみです。
――コンコン。
「フローラ様、リョウです。お迎えに参りました」
「入ってください」
「失礼します」
わたくしの声を確認してから扉を開け、丁寧に一礼して入ってきました。
何でかわかりませんが、その顔がいつもよりすっきりしているように見えます。
「なんだかいつもより顔色が良い気がしますけれど、何かありましたか?」
「ああ、今日のために昨日の夜はいつもより早く寝たんですよ」
おかげで気分爽快です、と笑うリョウ。
リョウもわたくしと同じように普段よりも質素な装いでしたが、不思議とそれが馴染んで見えます。
あのような格好をしているところを見たことは無かったのですが……。
「リョウ、その服はよく着ているのですか?」
不思議に思ってそう聞くと、リョウはきょとんとした表情で首を傾げました。
「何故ですか?」
「なぜだか、とても着慣れている感じがしたのです」
疑問の理由を説明すると、リョウは苦笑します。
「私は気にしませんが、他の方にそういうことを言うときは気をつけてください。『あなたにはその質素な服がお似合いだ』と取られる恐れがありますから」
「あ……いや、決してそういう訳では――」
「分かってますよ。ですが、フローラ様の伝えたい意味と実際に相手に伝わる意味が必ずしも同じになるとは限りません。覚えておいてくださいね」
「はい……」
すこし気落ちしているわたくしの耳に。
「着慣れている……まあ、すこし前までは似たような服を着ていたからな……」
何かが聞こえて顔を見ると、リョウはどこか遠くを懐かしむように虚空を見つめていました。
言葉は聞き取れませんでしたが、その寂しげな表情がとても印象的でした。
◆ ◇ ◆
――ゴーン。
13時を知らせる鐘の音が、リーシアに響き渡ります。
そしてわたくしにとっては、それと同時にお出掛けの始まりを知らせる鐘です。
「それでは、行きましょうか」
「はい!」
リョウの後に続いて、屋敷の裏口からそっと外へ出ます。
裏口は主に使用人が使う出入り口なので、ここを通るのも多分初めてです。
「リョウ、最初はどこへ行くのですか?」
「まずは大通りに行ってみるつもりです。大通りに行ったことはありますか?」
「ありますけど……あそこは何もありませんよ?」
前に一度馬車で通ったことがありますが、その時は道には何もなくて、住民たちが道端で平伏しているだけでした。
それを伝えると、リョウはなぜか苦笑い。
「大通りに何も無かったのは、その日の為に片付けたからですよ。そうでなければ馬車は通れませんからね」
「あ……」
なるほど、それで何も無かったのですか。
リーシアでも一番の大通りに何も無くて不思議だったのですが、わたくしの勘違いだったようですね。
リョウに付いて少し歩くと、大通りに出ました。
「わぁ……すごい人ですね!」
「そうですね。でも、この時間帯はいつもこんなものですよ」
まるで街の人皆がここに集まっているんじゃないかというほどの人混み。
これだけの人の中に入るのは初めての経験で、少し竦んでしまいます。
「さあ、行きましょうか」
「……はい」
◆ ◇ ◆
街の中は、わたくしの知らないものがたくさんありました。
その度にリョウに聞くのですが、丁寧に教えてくれました。
売られている食べ物も普段出されるものとは見た目が全然違うので、同じものでもそうだと分からないこともありました。
「リョウ、あれは何ですか?」
「あれは串焼きと言って、お肉を串で刺して焼いたものです。外でも食べられるように工夫しているんですよ。……せっかくだから食べてみますか?」
「お願いします!」
「かしこまりました」
お肉というと、大きく切られてステーキとして食べるか小さめに切ってシチューなどに入っているかのどちらかで、串に刺してあるお肉など初めて食べます。
「店主、串焼きを一本くれ」
「はいよ」
リョウは左の懐から出した白い財布の中から硬貨を何枚か取り出してお店の人に渡し、代わりに串焼きを受け取りました。
「ありがとうございました〜」
お店の人の元気な声に見送られながら、わたくし達はその場を離れました。
向かったのは、近くにある広場です。
そこには長椅子がいくつかあり、座って休むことができるようになっていました。
そのうちの一つに腰を下ろします。
「リョウ、串焼きをくださいませ」
「どうぞ。串は先が尖っているのでお気をつけください」
「分かりましたわ」
取り敢えず、はむっと一口食べてみます。
「……おいしいです。あったかい……」
「屋敷での食事は出来たてを食べることはまず無いですからね。ちょっと味付けが雑だったり品質が普段のものより低くても、出来たてはそれを覆すくらいおいしいでしょう?」
「はいっ!」
最後の方は少し食べづらくて、苦労しながら串焼きを食べていると、突然隣から魔力の動きを感じました。
そちらの方を見ると、リョウは懐に手を入れて目を閉じていました。
おそらく、魔石を握っているのでしょう。
リョウは一つの魔術を使う時に出すことができる魔力の量――たしか発現量と言った気がします――が持っている魔力量に比べてとても少ないので、事前に魔石に魔力を貯めているのだと聞きました。
普通に魔術を使うのに比べるととても効率が悪いそうなのですが、こうしないと下級魔術しか使えないから背に腹は代えられない、と言っていました。
わたくしにはよく分かりませんけれど、背中とお腹が交換出来ないのは当たり前だと思うのです。
「リョウ、魔術を使いましたか?」
「……え?あぁ、はい。驚かせましたか、すいません。先に声を掛ければ良かったですね」
「どうしたんですか?」
「いや、気のせいだったみたいです」
一体何だったのでしょうか?
不思議ですが、教えてくれそうにないので諦めて串焼きを食べることに専念します。
武術の鍛錬をしていないわたくしは、遠くから向けられる視線に気付くことはありませんでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
前話の投稿から、およそ一ヶ月空いてしまいました。
申し訳ありません。
次はほぼ出来ているので、今日中にもう一話投稿します。
諸事情により3月まではあまり時間が取れないと思うので、その次はいつになるか不明です。
気長にお待ちいただけたら幸いです。




