目が覚めるとそこは?2
長いので分割しました。
「っ!」
咄嗟に身構える。しかし、襲ってくる様子は無い。ドアの向こうに居たのは、ただの子供だと分かると、フレデリックは安堵の溜息を付いて力を抜いた。
「大丈夫。何もしないから出てきてくれ」
「…………」
見た目、八、九歳ぐらいの少女だ。警戒したようにドアの向こうからこちらをじっと観察している。
「ここはどこだ。俺は何日ぐらい寝てたんだ?」
「…………………」
フレデリックはなるべく安心させるように言った。
一秒、二秒、三秒。ゆっくりと時間が流れて、少女は固まっている。怯えた視線でフレデリックを見ていた。
フレデリックは溜息を付いてゆっくりとドアに歩み寄って開く。随分と立て付けの悪いドアだった。
びくっ。少女が怯えた表情で見上げる。
茶色で長髪の背の小さなまだ子供。
だが。
そういえば、人間の瞳は赤くなんて無い。そして何より、獣の耳なんて、あるわけがない。
「え、きゃッ!?」
無意識に腕を伸ばして耳を掴む。この感触、間違いなく偽物や被り物なんかじゃない。
「この感触、本物!? お、お前―――、魔物か!?」
「い、いたい!」
「――――――」
予想していたとはいえ、フレデリックは一瞬、頭が真っ白になった。反射的に少女を部屋に引きずり込むと、うつ伏せに押し倒して頚動脈を押さえる。『獣化』する前なら、素手でもくびり殺せる。今、僅かに力を込めれば。
――――俺は何をやっている? こんな子供に。
――――だが魔物だ。殺さねばいずれ人を殺す。
――――オマエの家族は何に殺されたのか、忘れたわけじゃないだろうフレデリック?
「かはっ」
「――――!!」
少女が苦しげな息を吐いた時、フレデリックはどうしてか指の力を緩めていた。何かに怯えるように少女の上から離れ、壁に背をぶつけ、荒い息を吐く。背中の火傷が鋭い痛みを与えたが、逆に冷静な思考が戻った。
―――まだ、子供じゃないか。馬鹿か俺は。
「こほっ、こほっ、げほっ……」
「………すまない」
辛そうに喉を押さえる少女に屈んで手を伸ばす。
「―――っ」
「………大丈夫、動かないでくれ」
ゆっくりと囁き、魔力を高めるよう集中する。
「アスクレピオスの加護よ」
白い魔方陣が指から現れ、暖かな光を放つ。赤く少し腫れた少女の喉が、ゆっくりと元に戻っていく。
「あ………」
「………すまなかった」
フレデリックが頭を下げると、少女は困ったように身じろぎした。
「だ、だいじょぶ、です」
少女はそう恐縮した声で呟く。そういえば、少女と会話したのは、これが初めてだと気が付く。
「俺、フレデリック、っつうんだけど、君の名前、聞いてもいいか?」
「私、ニコ」
「………いい名前だな」
「あ、ありがと、ございます」
ニコが零れた水をタオルで拭き始めたのを見詰めているフレデリックの瞳は困惑に揺れていた。
「手伝うか?」
「だ、だいじょぶ、です」
怖がられている、それを感じて、フレデリックは無理には迫らなかった。フレデリック自身、魔物は怖い。例えそれが少女だったとしても。
「ん」
軍人としての感覚が人の気配を察知する。殺気を丸出しにしている何かの気配。フレデリックがドアから離れると同時、魔物の女が部屋に侵入してきた。
ジロリとフレデリックをねめつける。
「――――起きたようだな、人間」
次の瞬間、女は剣を抜くとフレデリックの首筋に押し当てた。
「動いたら殺す。ニコ報告ご苦労、下がっていい」
成る程、ニコちゃんが呼んだのかと納得している間にフレデリックは地面に叩きつけられる。先程のニコと同じ体勢。違うのは首筋に剣が突きつけられていること。
「ぐっ……」
「フン。動いていたら殺してやれたものをな」
本当に残念そうに呟く女。軍服を着ているので軍人だろうか。
「あ、あの………!」
「む、ニコ。………そうだったな。問題ない『殺しは』しないさ。さあ、退室しなさい」
「はい……」
「……魔王様も残酷なことをなさる」
ニコが部屋を出るのを見届けてから女はそう呟くと、フレデリックの上から退く。
「フン、脆弱な」
火傷の痛みと叩きつけられた痛みに動けないフレデリックを蹴り起こす。
「ぐう……!」
「悲鳴を上げないことを褒めてやろう、人間」
「………やっぱ魔物はこうでなくちゃな」
「何か言ったか人間」
「いいや」
腹を押さえて立ち上がる。痛みに耐える方法など軍隊で幾つも習った。
浅黒い肌をした女は、長身のフレデリックと同じぐらいの身長があった。そして獣人特有の赤い瞳。黒髪からは獣の耳。
そして射殺すような殺気を放っていた。
汚らわしいものを見る目つきで、謹厳に告げる。
「ついてこい。魔王様がお待ちだ」
まだまだ寒い季節です。風邪に気をつけましょう。




