目が覚めるとそこは?1
あー、なんとか宣言どおり「二日後ぐらい」に上げる事が出来ました
ぱたぱたぱた。
なだらかな低山の上に立つ古城の離れの一角で、茶色の固まりが世話しなく動き回っていた。水が張った白い器と添えられた手ぬぐいを両手に持って、短い歩幅で一生懸命歩いているのは、まだ十歳にも満たない少女だった。
ぱたぱたぱた。
白い石畳を早足で通り抜け、離れのさらに端っこの方へ向かっている。
「………………………………」
つと、止まって、ゆっくりと外を見上げる。暖かな太陽が窓から通路を照らし、丁度良い風が流れている。少女は、外の中庭の芝生の上を思い出して、頬を緩める。
それからはっとしたように顔を引き締め、また早足で歩き出す。
途中、人とすれ違う。鎧を着た、大柄な男。
――兵隊さんだ。
少女は畏まって頭を下げた。手に持った器から水がこぼれそうになって慌てる。
「おお。お勤めご苦労様」
兵隊が微笑んで少女を褒める。
少女は恐縮したように、もう一度頭を下げる。
兵隊は、同情した声を出した。
「辛いだろうが頑張れよ」
「……………」
兵隊が歩いていくのを見てから、少女も歩き出す。
少女の目的地は、古城の中でも結構古い場所だ。
木製の立て付けの悪い扉の前に立つ。一旦器を置いて、もう一度扉の前に立って背伸びをする。扉のドアノブは魔物用なので少女には高すぎる。何とかドアを開け、力を込めてドアを押す。
ぎぎぎぎい、嫌な音と共にゆっくりと開く。
少女はドアの隙間からするっと中に入った。明るい日差しが一瞬、少女の目に刺さった。
きつく閉じた瞳をゆっくり開く。
部屋は小さな部屋だ。四角い嵌め込み式のドアとベッド。後は丸テーブルぐらいしかない質素な部屋。
ベッドでは、男が寝ていた。全身を包帯でぐるぐるに巻かれて、所々火傷の後が見える。
人間の男だ。
規則正しい寝息を立てていて、死にそうには見えない。あんなに酷い火傷だったのに。
医者は、人間にしては驚異的に丈夫だと驚いていた。
少女は手ぬぐいを良く絞ると男の頭の上に置いた。短い黒髪に水が伝う。頬の、一本の縦の古傷が目立った。
「………………………うーん」
「――――っ!」
男が身じろぎする。少女は慌ててテーブルの下に逃げた。
「…………ぐう」
「……………………………………………………………………………………」
ゆっくりと顔を出して、再び男を見下ろす。
閉じた瞼。
その目が突然ぱっちりと開いた。
「――――――ッッ!!?」
少女は声にならない悲鳴を上げた。
***
初めに、暖かな太陽に照らされた毛布の匂いがした。
人の気配を感じて、意識が覚醒する。
暖かな光が瞼を焼いて、フレデリックはたまらず目を開けた。
ぱっと視界が真っ白に染まる。何も見えなくなって慌てて何度も瞬きすると、ゆっくり見え始める。
世界が映し出される。
真っ白い天井がこちらを見下ろしていた。
上半身を起こすと、シーツが胸から落ちた。その下には包帯が巻かれていた。鈍い痛み。火傷の跡だった。
「誰かいる気がしたんだが……」
フレデリックは呟き、状況を確認する。テーブルとベッドしかない簡素な部屋。軍服は机の上に畳んで置いてあった。
上半身は裸。下半身は見覚えのない黒ズボンを履いていた。
「ん?」
下を見ると、桶がひっくり返って床が水浸しになっていた。そういえば、髪が湿っている気も……。近くに手ぬぐいが落ちている。
状況がよく理解出来なかったのでとりあえずそれは置いておく。
「俺は、あれから、どうなったんだっけ」
ぷっつりとその後の記憶が途切れている。
ベッドから降りると、なまった体が鈍く疼いた。何日寝ていたかは知らないが随分と長い間だったようだ。
どうも適当な治療を受けたらしかった。包帯の巻き方が素人のソレだし、医療魔法もほとんどかけられた形跡もない。だがまあ、自分でかければいい話だ。フレデリックは軍の後援支援部隊長で本来医療魔術の方が専門だ。動かしにくい包帯を剥ぎ取る。
とにかく、状況を把握したかった。腰元に手をやるが、それは空振った。ない。
フレデリックは愛用の剣、グラディウスを探すが、見つからない。どこにも置いていない。
戦場に置き忘れたか、それとも……。
思いの外、気持ちは動揺した。長年、多く戦場を共にしてきた武器だけあって、いざという時に無いのは辛い。しかし、焦ってはいけない。
自分に言い聞かせる。
「部下は死んだのに、自爆した俺は生き残るなんてな」
皮肉げに呟く。もちろん、生き残る為の策は出来うる限り取った。その結果といえばその通り。しかしやるせなさは残った。撤退した奴らはどうなったのかな。
「いや、今考える事じゃないか」
おそらく、ここはロディニア軍でない事は間違いなかった。あの状態から軍が兵隊を回収出来る余裕があるとは思えないし、自力で返るのも、多分無理だろう。
ならば、どこだ?
「……………………まさか」
嫌な想像がフレデリックの頭を過ぎった。そんなわけない。でもまさか。
気を張る。魔力を確認する。万全だ。肉体は、ほぼ万全。一応、医療魔術を後でかけるべきではあるが、戦場と比較すれば十分すぎる。特に拘束されてもいない。だが、大勢の魔物に囲まれたら、どうしようもない。グラディウスがないのは痛かった。
辺りの気を探る。
「…………」
そこで、ようやく気が付いた。ドアの向こうからこちらを覗いている二つの赤い相貌。フレデリックがそちらに視線を向けると、ばっちりと合ってしまった。
また分割しました。




