光の中は、眩しくて何も見えない。
もし心臓から血が流れたら、一体どんな感じなのだろうか。帰路の中ふと思い付いた考えを、未だ忘れられないでいる。もしその感触を感じられたのなら、今自分が感じているものだと思えてしまう。そんな痛みを感じ続けている。
他人からの目を気にしない様に生きてきて、どれくらい経っただろうか。いつからか自分を異物かの様に見る人間が現れた。自覚だとそんな変な目で見られる様な態度や行動を取った気はしていない。別に全ての人間から気に入られたいと考えた事が無いワケではないが、あまりそうとは考えていなかった。実際、友人はそれ程多くはないし、かといって多くの人から嫌われているワケでもない。まあ有り体に言えば普通だった。別に何の不思議もない、たった一言で済ませられる様な、普通の人。それが自分だった。
だけどそれが少し気に食わない瞬間があった。それがどんな時かはもう思い出せない。ただ、気に食わないという感情だけが芽生えたという事だけを覚えてる。だから、変わろうとしている。ガッチガチの真面目に、ヘラヘラと笑うおちゃらけに。そうやって、埋まる気はしないけど、続けてきた。だから別に今、昔の自分を見る様な目で見られた事に憤りを感じるのは、至極当然と言えそうで、言えなさそうで、そう思いたくて、思えない気がして。だから自分は、どこまで行っても、普通なのだろうか。
「やっぱあんな所で何かやらされるのって、気が乗らないよね」
そう言ったのは落水透という男子だった。自分よりも年下で、自分よりも何も考えてなさそうで、自分よりも世界に絶望した様な目をした男だった。無さそうで有りそうな欲を抱えた、いかにも思春期真っ只中と言える感情が見え隠れした、幼き瞳だった。
「そうね。芸をこれから仕込まれる動物も、こんな感情なのかしらね」
そう辛辣さと自虐すらも感じる言葉を吐いた少女、榎川綾という女子。歳は落水透よりも下で、だが彼とは学校こそ違うが同級生という立場で、そこが少し羨ましいとすら感じる立ち位置の、微妙にミステリアスな少女。本当に何とも言えない時間しか過ごしていないからこそ、何とも言えない人間としか感じられない。
「まあそう言いなさんな。全員通る道だ」
大人な言動をする大人、和泉。ここでは『残業』というあだ名を持つ彼は、そのスーツと同じ様な薄幸さと、不満しかたらさない様な人間としか思えて来ない。いわゆる苦労人のポジションにいる人間というイメージが強い。頼りがいは微妙にありそうと感じるからこそ、そんなポジションにいるのだろう。勿体なさそうで、妥当とすら感じる様な人間だ。
「そっすねぇ。人生、変な道ばかり通されますからねぇ」
そう答えた自分が、何の変哲もない普通の人間、石木田光。どう見ても、至極普通な人間としか感想が出て来ない。言動も行動も、どこも適当で、何の的も得てなくて、空っぽで、簡単にこぼれそうな人間。自虐ではなく、事実だからこそ、ドロドロとした感情が生まれてくる。
「まあこれから色々あるが、頑張ってくれよな」
「その色々を言ってくださいよ」
カラカラと笑う和泉、それがやっぱり気に食わなくて、やっぱり大人は嫌いだ。




