セシリア
ツェツィリーア=英語名でのセシリア
セシリア
◇
河川敷公園の土手に棄てられていた、一匹の子猫。
それが私だった。
私を棄てた人たちのことは、よく覚えていない。
無責任に「いいひとにひろわれてね」とだけ言って、去っていく姿を目に敷いたのが10日も前のこと。
おいておかれたエサ皿やミルクはとうに尽きた。
ガリガリに痩せていき、末はカラスの餌にでもなろうかという状態にあった。
あのまま放置しておけば、この世の幸福も何も知らずに終わるはずだった命を、救ってくれた少年がいた。
「赤ん坊用の猫缶とミルク、近くのコンビニにあってよかったよ」
おいしそうな臭いに、私は涙が出そうなほど大喜びだった。
「おいしい?」
そう問いかけkる彼に『すごくおいしいよ!』と答えられることが出来たら、どんなによかったことだろう。
翌日、彼は再びやってきて、わざわざ調べてきてくれた保護団体のもとに私を運び、里親募集にかけてくれた。
おかげで私は、素敵なおじいちゃんおばあちゃんの家の子になれた。
首輪には英語で「セシリア」と刻まれ、普段は「セシーちゃん」という名で呼ばれるようになった。
黄金のようなキジトラの毛並みを梳いてくれて、おいしいごはんとお水を用意してくれて、世界にはこんなにも優しい人たちがいることを知った。
おじいさんとおばあさんの家の子に慣れて、本当に幸せだった。
そこまではよかった。
セシリアは、ある日、おじいさんたちの家の周りをひとりで散歩していた時。
(あ、あのひとだ!)
忘れもしない、自分を保護してくれた高校生の少年が、疲れた顔でコンビニから出てきた。
彼に恩を返したい。
彼に御礼が言いたい。
彼に一目だけでも会いたい。
その一心で、私は…………とんでもない失敗をしでかした。
「ッ? ──おい…………危ないぞ!」
急に道路を渡ろうと駆け出した猫を見て、彼が血相を変えて飛び込んできた。
振り返ると、大型トラックのブレーキ音が、甲高く夕焼けの空に響く。
物語であれば、一人の犠牲者も出すことなく自体は落着したかもしれないが、私も、そして彼も、車に轢かれて命を落としてしまった。
次で完結




