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『異世界転生は終了しました』  作者: 秘灯麦夜
第二章 ── 脱走者
13/15

ツェツィーリア







 ●







「撃たれたのですか、大尉!?」


 いつだなどと思い出すまでもない。


「ごめん、なさい、ドジ、しちゃった」


 痛みはそこまででもなさそうに振舞ってみせるが、その出血量は誤魔化しきれない。

 傷口を確かめたAS-665の左眼は、彼女が大腿部の静脈を切ってしまったことを看取した。


「とにかく、止血を!」


 失血の程度によっては危険な状態におかれたツェツィーリア。

 だというのに、AS-665の身体は動いでくれない。


「くそ、動け! 動け、俺!」

「だ、大丈夫だよ──こんなの石とベルトで巻いておけば、ッ」

「そうですが、そのまま放置しては!」


 出血を抑えるべく左足を処置するのは正しいが、そのままにしておいてよい傷ではない。

 最悪、足を失いかねない。一刻も早く正規の医者に、人間の医者に診せる必要があるが、


「ここは敵地のど真ん中。そして、私たちは降伏するわけにはいかない」

「──ッ」


 こうなる前に降伏すべきだった。そうすれば、少なくとも彼女だけは五体満足でいられた可能性があったのに。


「あなたのせいじゃないわ。だから気にしないで」

「ツェリ、俺が街まで行って医者を──」

「人間爆弾のあなたに、この地域の亜人相手のお医者さんが探せたら、お願いしたいところね」


 そんな冗談を告げる間にも、黒い軍服が赤黒く染まり続ける。


「あなたの方こそ、そんなボロボロになっているのに。他人(ひと)のことばかり気にかけて」

「自分は魔導兵器です。隻腕になったところで、何の支障もない──けれど、あなたは違う!」


 AS-665は涙を溢し始めた。

 

「どうして! どうして自分なんかのために!?」


 再三にわたる質問に、ツェツィーリアはようやく応える気になったのか、左足の処置をすませると、ひとつ呼吸を整えた。


「あなたは何も変わってない。私が、初めて会った時からずっと」

「初めて会った時?」


 記憶を探るAS-665ではあったが、彼女との初対面(はつたいめん)は艦の着任式典であったはず。

 しかし、ツェリは首を横に振った。


「もっとずっと昔の話──あなたが、この異世界に転生する前のこと」


 覚ええるかなと問われても、咄嗟のことで何も言えない。


「異世界、転生、前──え、ツェリ、あなたは?」


 正確には、あなたもというべきところであった。

 ツェツィーリアは額を合わせて語りだす。




「あの時のご飯とミルク、とても美味しかった──」




 ごはんとミルク?




「里親さんのもとへ連れて行ってくれて、私は幸せだった」




 さとおや?




「まさか、君、は?」


 少年は涙をこぼし続けた。

 最後に、ツェツィリーアも大粒の涙を流しながら、告げる。










「あの日、車に轢かれそうになった私を救おうとしてくれて、本当にありがとう」











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