ツェツィーリア
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「撃たれたのですか、大尉!?」
いつだなどと思い出すまでもない。
「ごめん、なさい、ドジ、しちゃった」
痛みはそこまででもなさそうに振舞ってみせるが、その出血量は誤魔化しきれない。
傷口を確かめたAS-665の左眼は、彼女が大腿部の静脈を切ってしまったことを看取した。
「とにかく、止血を!」
失血の程度によっては危険な状態におかれたツェツィーリア。
だというのに、AS-665の身体は動いでくれない。
「くそ、動け! 動け、俺!」
「だ、大丈夫だよ──こんなの石とベルトで巻いておけば、ッ」
「そうですが、そのまま放置しては!」
出血を抑えるべく左足を処置するのは正しいが、そのままにしておいてよい傷ではない。
最悪、足を失いかねない。一刻も早く正規の医者に、人間の医者に診せる必要があるが、
「ここは敵地のど真ん中。そして、私たちは降伏するわけにはいかない」
「──ッ」
こうなる前に降伏すべきだった。そうすれば、少なくとも彼女だけは五体満足でいられた可能性があったのに。
「あなたのせいじゃないわ。だから気にしないで」
「ツェリ、俺が街まで行って医者を──」
「人間爆弾のあなたに、この地域の亜人相手のお医者さんが探せたら、お願いしたいところね」
そんな冗談を告げる間にも、黒い軍服が赤黒く染まり続ける。
「あなたの方こそ、そんなボロボロになっているのに。他人のことばかり気にかけて」
「自分は魔導兵器です。隻腕になったところで、何の支障もない──けれど、あなたは違う!」
AS-665は涙を溢し始めた。
「どうして! どうして自分なんかのために!?」
再三にわたる質問に、ツェツィーリアはようやく応える気になったのか、左足の処置をすませると、ひとつ呼吸を整えた。
「あなたは何も変わってない。私が、初めて会った時からずっと」
「初めて会った時?」
記憶を探るAS-665ではあったが、彼女との初対面は艦の着任式典であったはず。
しかし、ツェリは首を横に振った。
「もっとずっと昔の話──あなたが、この異世界に転生する前のこと」
覚ええるかなと問われても、咄嗟のことで何も言えない。
「異世界、転生、前──え、ツェリ、あなたは?」
正確には、あなたもというべきところであった。
ツェツィーリアは額を合わせて語りだす。
「あの時のご飯とミルク、とても美味しかった──」
ごはんとミルク?
「里親さんのもとへ連れて行ってくれて、私は幸せだった」
さとおや?
「まさか、君、は?」
少年は涙をこぼし続けた。
最後に、ツェツィリーアも大粒の涙を流しながら、告げる。
「あの日、車に轢かれそうになった私を救おうとしてくれて、本当にありがとう」




