未来
未来と書いて“未来”
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「本当に、あの時はごめんなさい──私が、道路に飛び出さなければ」
久々に恩人を見つけ、気分が高揚したのが悪かった。
その恩人を巻き込んで、セシリアという猫は異世界転生の権利を得た。
けれど、人間の異世界転生先は、もう、この世界にしかなかった……転生者を爆弾兵器として扱う、ひどい世界。
「あなたに会えるかどうかは五分五分だと言われた──同じ時代に、同じ艦に乗れなければ、恩を返す機会なんて巡ってこない……それでも」
ツェツィリーアは可能性に賭けた。
そして、彼女は大勝負に勝ったのだ。
「あなたに助けられたお礼を言いたくて言いたくて、しようがなかった……けれど、あなたは人間爆弾として、本当に酷い状況におかれて……」
そんな状態での恩返しが、今回の脱走劇だった。
拙劣な部分もあるにはあったが、ツェツィリーアに悔いはない。
「唯一の悔いは……あなたの命……」
人間爆弾たる魔導兵器の漆黒の髪は、命の残量をそのまま物語っている。
なんとか延命措置はないかと研究してみたが、軍務の間にツェツィリーアに出来たこと、理解できたことはすくなかった。
そのことを絶えず謝罪するツェツィリーアに対し、人間爆弾・AS-665は宣う。
「大丈夫」
隻腕の人間爆弾……少年は、左手を差し出した。
ツェリはそれをとって立ち上がる、痛みにしびれた大腿部を努めて無視して。
「これから恩を返してくれればいい……だから、大丈夫」
「うぐ、けど、私も君も、こんなにボロボロで」
「諦めるには、まだ早い」
主要五か国のうち、帝国に並ぶとも称される魔導の大家……ボーゲン森林国。エルフェたちの国。このまま大陸を西に進んでいけば、彼らの目的地には到達できる。かの国ならば、王国軍も帝国軍も手を出せない。
「俺は諦めないよ、ツェツィリーア」
強い瞳で言ってのけた。
AS-665はまるで自分の命に挑むように敢然と言い放つ。
「俺は片腕を失った。君は片足を負傷した。けれど、まだだ」
まだ諦めてよい状況ではない。ツェリに肩を貸して貸されて、AS-665は歩み始める。つられるようにセシリア……ツェツィーリアも一歩を前へ。
「俺はまだ、こんな異世界で死にたくない」
猫を助けようと飛び出したことで結ばれた、二人の縁。
片方は兵器として。
片方は人間として、
この世界に生を享けた──享けてしまった。
「君も、こんな異世界で死なないで。せっかく俺が助けた命を、勝手に諦めないで」
不遜な物言いにも聞こえるが、それが彼の本心だった。
このクソったれな異世界転生で、唯一といってよい最高の再会。
その後の彼と彼女の行方を知る者はいない。
結局、人間爆弾としての短すぎる生を終えるに至ったのか。
王国に囚われ、魔導兵器の秘密を暴露する実験台にされ死んだか。
亜人たちの間で、彼女の遺した薬品を頼りに永らえることができたか。
エルフェの保護を受け、魔導兵器としての生から解放されるにいたったのか。
いずれにせよ。
二人の戦いは終わることはない。
彼らは連れ立って連れ添って、異世界を渡り歩く。
< Fin >
この物語はここでおしまいです。
短い話ではありましたが、ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます!




