【94】HDに支配された基地
[もがみ]は雲を突っ切った。パチパチと細かい破片がブリッジの窓や艦体に当たる音がする。
「艦艇格納ハンガーですね」
サクラが言った。
「ずいぶんたくさんあるな」
今度は副長が言った。
俺は、人間バージョン1.0なんとかだから、暗闇の中は全然見えない。
「モニター投影します」
サクラがブリッジの大型モニターに写してくれた。
全体に緑色っぽい赤外線映像だろう。
火星基地のような半球状のドームがたくさん並んでいる 。
整然と並んではいるのだが、割れた卵のようにドームが壊れているものも結構ある。
赤外線モニターなので熱のある部分は白っぽくなる。
壊れたドームはほとんどが白っぽくなっている。
破壊されたばかりでまだ熱を持っているということだ。
ドームの周辺や森や海岸線の砂浜にも、色々な物体が散乱している。
真っ白に写る破片のようなものは、高熱のエンジンだろうか。
見慣れた形の海兵隊の魚雷艇が森の中にあるのも見えた。
「あのドームが完全に壊れたハンガーの中がいいんじゃないか?」
俺は、[もがみ]を降ろせそうな所を指差した。
「いいですね。了解」
ノラン航海長が賛成した。
パシューーッ
パシューーーーッ!
パシュッ!
パシュッ!
「大丈夫か?」
副長が心配そうに言った。
「重力が大きいので、普通に着陸したら地上に激突してしまいます」
航海長が言った。
「高度10メートル」
パシュッ!
パシュッ!
「ギア・ダウン、ホルダー・ダウン」
艦底から、艦体を固定する装置が出された。
「高度2メートル」
パシュッ!
パシューーーーーーーーーーッ!
ゴゴンッ!
「着陸完了」
航海長はコールした。
「おぉ、ご苦労」
俺は、ノラン航海長を労った。
「しかし、酷い状況だ」
艦外の様子を映すモニターを見ながら、ヒラセ副長は言った。
あちこちに海兵隊員が倒れている。
「医療HDを出して、生死確認をした方が」
ノラン航海長が言った。
「しかし、あいつらが」
モニターに銃を持ったHDがたくさん歩き回っているのが映っているのを見てサバラ戦術長が言った。
「何故、この艦には撃ってこないんだ?」
航海長が言った。
「あんな小さな銃で、この艦を撃っても効果が無いことが分かっているんだろう」
戦術長が推測した。
「テストをしよう。HDはHDに反応するのか?HDを攻撃したら反撃してくるのか?」
「テストする価値はありますね」
「海兵隊を全滅させたんだ。人間を攻撃することは分かっているからな」
サクラは、気が進まないようだったが、仕方ない。
1体の探索用HDを、艦外に出した。
「銃を持たせたか?」
「はい」
モニターにウチのHDが映っている。
敵のHDは頭のてっぺんに円盤を乗せているのですぐに見分けがつく。
HDが敵の集団の方へ歩いて行く。
「会話は聞こえるのか?」
「はい。ですが、無音信号通信だと聞こえません」
通信担当のタレク少尉が言った。
「じゃー、HDが反乱計画を立てても、俺たちには分からないようにできるのか?」
俺は、少尉に小声で聞いた。
「はい。ナイショにされたら、分からないです」
「あいつら、ウチのHDには手出ししないな」
「そうですね。仲間だと思っているのかな?」
「でも、あいつらはウチのより古いよな?」
敵のHDは、だいぶ旧型だろう。
「サクラ、1体、犠牲にしてもいいか?」
俺は、サクラに聞いた。
「テストであれば、仕方がありません」
人間に奉仕するためのHDの運命か。
「少尉、敵の2、3体を撃て」
俺は、タレク少尉に命じた。
「え?」
「どう反応するかテストだ。仕方ない」
「分かりました」
少尉はコンソールのパッドに何か入力した。
バ!バ!バ!バシュッ!バシュッ!
モニターの中で、ウチのHDが、周りのHDに向けて乱射した。
4、5体のHDが倒れると、付近にいたHDがウチのHDに向けて銃を撃ち始めた。
パシュッ!パシュッ!パシュッパシュッ!
パパパパパシュッ!パパパシュッ!パシュッ!
腕が取れても、頭に穴が開いても、片足が吹っ飛んで倒れても、HDは銃撃をやめない。
1体のHDが少し大きめの銃で撃つと、ウチのHDの頭が粉々に吹き飛んだ。
そして、敵のHDは銃撃をやめた。
「まるで、処刑か虐殺だな」
タレク少尉がそう言ったが、サクラは黙っていた。
「こちらから攻撃しなければ、奴らは手を出して来ないということか?」
俺は、言った。
「いや、このテストを憶えていて、どう出るか分からないですよ?」
少尉が言った。
「ねえ、サクラさん、
どうにかコントロールできないんですか?」
少尉がサクラに聞いた。
「旧システムで制御されているようで、どういう行動をするか、予測できません」
サクラは答えた。
「同類だから、かばってるんじゃないのか?!」
少尉がそう言うと、サクラは黙って立ち上がり、ブリッジから出て行った。




