【88】[ドク・ワン] パルサー星系に到着
「大体、どの方向へ行ったんだ?」
戦艦[いせ]の艦長、スカヤ少将はレーダー担当士官に聞いた。
「この電磁場の航跡は、アルデバランの方角です」
士官は答えた。
「[やましろ]は、アルデバランへ逃げたのか?!」
スカヤ艦長は、捕まえたとばかりに叫んだ。
「いえ、おおよその方向ですので」
「まあ、いい、絶対に見逃すな!」
スカヤ艦長は、[ながと]たちの仇を討つためなら、宇宙の果てでも地獄の果てでも追い続ける覚悟なのだろう。
「司令、航行記録を見ると、戦艦[ジョージア]が通った記録が残っています」
データ担当のHDが報告した。
「[ジョージア]が?たしか、第38連合艦隊だったな?」
艦長は思い出していた。
「はい。第38連合艦隊の旗艦ですが、記録によると航行したのは単艦です」
「ここを単艦航行したのか。何故だ?」
スカヤ艦長は考えた。
「[ジョージア]は、第5防衛隊を捜索していたのではなかったのか?」
「[ルイテン]を旗艦とする第5防衛隊は、くじら座ミラ星系の戦闘で、過去に行方不明となった戦艦[あさひ]に牽引されて行ったことになっています。[ジョージア]は、その[あさひ]の電磁場変位の痕跡を追って行ったことになっています」
HDが説明した。
「[ジョージア]は、まだ追っているのか?」
「いえ、ワープで飛びました」
「よく分からんな」
スカヤ艦長は言った。
「[ジョージア]は、[あさひ]に捕らわれた第5防衛隊に追い着き、臨検を実施しましたが成果が無く、[あさひ]も第5防衛隊も放棄しました。が、航跡はその先へまだ繋がっていたので追跡を続行しましたが、計算の結果、銀河系外が起点ということが判明し、そこへワープしました」
HDが説明した。
「銀河系外へ行ったというのか?」
「航行記録や通信記録からは、そう推測されます」
「司令部は把握しているのか?」
「恐らくは」
「我々も行くべきか?」
艦長はHDに尋ねた。
「申し訳ありません。私には判断できません」
「そうだよな。よし、この件をまとめて、司令部へ連絡してくれ」
「了解しました」
* * *
「方位019、距離715,200、重力の歪み地点」
[ドク・ワン]のパイロットHDが、船長に報告した。
「よろしい」
「静かに飛ばしてくれよ?船長さん」
操縦室の入口で、今回の先遣海兵隊長のマドル少佐が言った。
「私の操船なら、グラスのシャンパンもこぼれることはない」
「なら、いいが、海兵隊の船を壊されたら困る」
そう言って、少佐は出て行った。
「大尉、装備に異常は無いか?」
少佐は格納庫に降りると、整備担当のラグロ大尉に言った。
「バッチリですよ、少佐」
「武装の予備も全部積んであるか?」
「これだけあれば、衛星の1つくらい吹っ飛ばせますよ」
「そうか、よし。
もうじきワープするぞ。しっかり固定しておけ」
「アイアイサー」
大尉は、再び作業を始めた。
* * *
舟艇は[もがみ]の艦底の発着口から入り、減圧エリアでエンジンを停止した。酸素が注入され、気圧が安定すると、格納エリアへの隔壁が上がり、舟艇ごと格納庫へスライド移動した。
「降りていいかな?」
俺は、サクラに聞いた。
「あの隔壁が下りるまでお待ちください」
「あ、すいません」
隔壁が下がり、黄色い回転警告灯が消えた。
「どうぞ、お降りください」
サクラが言った。
小さな船で宇宙を飛ぶのも、楽しいもんだ。
「司令、お帰りになったばかりのところ申し訳ありませんが、至急ブリッジへお越しください」
ヒラセ副長のお呼びだ。
「あ、司令、お帰りなさい。[きぬかぜ]が帰って来ました」
俺とサクラがブリッジへ戻ると、副長が報告した。
「お!帰って来たか。[きぬかぜ]だけか?」
「ドック船が、後から来るそうです」
副長がシモダ艦長からの報告を伝えた。
「それと、お伝え忘れてましたが、[さわかぜ]も間もなくこちらへ到着します」
副長、忘れるなよ。
「お、[さわかぜ]もか。無事だったか」
「これで、全艦集合ですね」
サクラが言った。
「司令、[ドク・ワン]の到着です。ワープアウト地点は、3時の方向4億キロです。新しい重力の歪み地点ができたようです」
レーダー担当士官のナラル中尉が言った。
「近くなって良かったじゃないか」
俺は、言ってやった。
「[きぬかぜ]は?」
「[きぬかぜ]も同じ地点でワープアウトしました」
中尉は答えた。
同じ地点でよかった。
「ポイントは、不安定なんだろうか?」
俺は、サクラに聞いた。
「重力と電磁波が複雑な所ですからね、何とも言えませんね」
サクラは答えた。
「何か法則のようなものを見つけないと、扱いにくくていかんな」
俺は、暗黙のうちに、その法則を見つけろ、と言っていた。
「[ドク・ワン]、方位153、距離3億9,880万キロ、速力10,000で接近中」




