【84】PS72星系との通信手段の確保について
「22番ハンガー、ドームオープン」
「22番、ドームオープン、アイ」
火星基地の広大な駐艦ヤード。
地上員の安全確認のためのやり取りがおこなわれ、22番ハンガーの半球状のドームが開き始めた。
宇宙服を着た地上作業員が業務の準備をしながら上を見上げると、徐々に開いていくドームから満天の星空が見え、その中央に1隻の駆逐艦が静止していた。
「[きぬかぜ]、これより22番ハンガーへ降下します」
航海長のテレン軍曹は、火星基地管制に連絡した。
「[きぬかぜ]が降下する。地上員は退避せよ」
地上作業員に通達され、艦の降下時の安全確保がなされる。
パシュッ
パシューッ
[きぬかぜ]の下部スラスターが微噴射され、
「アンカー、投錨!」
「投錨、アイ」
アンカーが下ろされ、地上に固定された。
そして地上からは6本の金属棒が伸び上がって、
棒が下から押し、アンカーで引っ張り、[きぬかぜ]はハンガー内に浮いた状態で固定された。
「22番ハンガー、ドーム閉鎖。地上員は待機せよ」
ハンガーのドームが閉まり始め、星空が見えなくなって完全に閉じると、ドーム内に呼吸ができる空気が満たされた。
「ハンガー入庫、完了です」
テレン航海長がシモダ艦長に報告した。
「ご苦労」
艦長は言った。
* * *
「司令、やはり第20番惑星には知的生命体による文明があると思われます」
[もがみ]のブリッジで、サクラが俺に言った。
「その根拠は?」
俺はサクラに聞いた。
「私たちがこの星系に到着した時、第20番惑星から32億キロ離れていました」
「そうだな」
俺は同意した。
「惑星から32億キロも離れていては、パルサーの陰と言っても、ほんの小さな範囲になってしまいます。そのため我が艦隊はその陰を維持しつつ、第20番惑星に接近中です」
「その通りだ」
「で、近付くにつれ、少しずつ、惑星の観測精度が上がってきたわけですが」
「うん」
勿体ぶった言い方が、サクラの癖だ。
「我々は陰にいるので、見えるのは惑星の夜側です」
「分かってるよ」
「で、そこに、光が見えます」
サクラが言った。
俺は、腕を組んで考えた。
「火山活動かもしれない」
俺は、ちょっと反論してみた。
「可視光線の波長が、噴火口の光よりかなり短く、かつ広い範囲の波長で出ています」
「人工的な光ということか」
やはり、サクラには対抗できないのか。
「なおかつ、大雑把に言えば、光は電磁波の中で見える部分ですが、惑星からはそれよりも広い範囲の電磁波が出ています」
「と、言うことは?」
「色々な電波が、人工的に使用されているということです」
「よし、分かった」
俺は、素直に敗北を認めた。
「で、電波源は、20番惑星だけか?」
「さすが司令!いい質問です」
サクラ、ひっぱたくぞ?
「第19番惑星の第3衛星が、利用されていると思います。この衛星は潮汐効果で常に19番惑星の陰にあります。パルサーに曝されることがありません」
「そっちの方が、本拠地じゃないのか?
俺だったら、そっちの方が使いやすいぞ?」
俺は、思ったことを言った。
「司令、私は、あなたの部下であることを、誇りに思います」
サクラが、俺をじっと見て言った。
* * *
「第1遊撃機動艦隊[きぬかぜ]艦長、シモダ大尉、入ります」
「入れ」
シモダ艦長は、火星基地の一室で、宇宙軍総司令官のイアナ提督と太陽系総司令官のエスナ中将に面会した。
それと、そうそう、シモダ艦長付きのHDはサクラたちと情報共有し、『モモ』という呼び名となった。
そして、モモもシモダ艦長と共に司令官たちと会った。
「敵の本拠地を発見したのか?」
イアナ提督の第一声だ。
「いえ?まだ確定したわけでは……」
シモダ艦長は、口ごもった。
「しかし、それなりの根拠はあるのだろう?」
エスナ中将も、提督の援軍だ。
「今後、調査を進めるにあたって、司令部のご指示を仰ぎに参りました」
艦長は、ハッキリ宣言した。
「で、どうして欲しいと?」
提督は言った。
「PS72星系は、銀河系ネットワークの外、220光年に位置しております。まずはそことの通信手段の確保が最優先事項かと考えます」
艦長は進言した。
「よし、工務部に、異次元中継ネットワークの敷設を指示しよう」
中将が決断した。
「ありがとうございます。
しかしながら、その敷設工務には時間を要しますので、まずはワープ航法可能な小型艦艇による直接往来による連絡が最速かと考えます」
艦長は本題に入った。
「いちいち船が行ったり来たりするのか?」
中将がバカにしたような言い方をした。
「はい。異次元中継ネットワークができるまで、HDを乗せた艦艇をワープ往来させるのが、最適です」
艦長は、言い切った。
「分かった。関係各所と協議しよう」
提督は一旦、会議を終わらせた。
艦長がうまく説明したので、モモの出番は無かった。




