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PS72パルサー星系防衛軍  作者: 星野 光一
83/132

【83】セントエルモの火

[きぬかぜ]は火星から80万キロの地点の通常宇宙空間に戻った。


レーダーには多くの艦船が航行している軌跡が光っている。懐かしい画面だ。


宇宙軍の艦艇はもちろん、民間旅客船、貨物船、プライベート旅客船、虫か鳥の群れのように、レーダー画面内を忙しく飛び回っている。


この宙域は、こんなに混雑していて危なっかしかったか?

シモダ艦長は、ヒヤヒヤものだった。

早く火星に着きたい。そう願った。


「他の艦船に十分注意し、管制の指示に従うように」

シモダ艦長は、テレン航海長に命じた。


「こちら運輸局運航管理部火星管制センターだ。

駆逐艦[きぬかぜ]に告ぐ、速力10,000で方位027へ。

また、あの地点でのワープ・アウトは危険だ。

今回は大目に見るが、またやったら艦長停職だぞ」

管制センターは、厳しい。


「火星まで、距離50万。

方位027、速力10,000、はい、はい」

テレン航海長は、形式的に報告した。


「航海長、そんなに膨れるなって」

シモダ艦長は慰めた。


「だって、こっちは軍艦ですよ?

少しは道を開けろ!くらい言いたいですよ」

「そんな強権的なことを言ってたら、連邦議会で吊し上げにされて、あっという間に予算削減、軍備縮小だぞ」

艦長は、脅しをかけた。


「あー、やだやだ。少しは威張れるかと思って宇宙軍に入隊したのに、これなら民間旅客船の航海士の方が給料もいいし、やりがいもあると思いますよ」

航海長は、ボヤき続ける。


「まあ、まあ、その辺にしとけ。

俺たちには大事な任務がある。今回の事が終わったら、民間に行くでもなんでも、好きにすればいい」

シモダ艦長は、トドメを刺した。


「火星センター!こちら[きぬかぜ]!真っ直ぐでいいのか?!」

航海長は、矛先を変えた。


「ハンボ軍曹、司令部へハンガー到着後の段取りを着けておいてくれ」

艦長は、通信士官のハンボ軍曹へ命じた。


通信用に魚雷艇か潜宙艦を使う案は通るだろうか?

PS72まで通信網を延ばすのも時間が掛かるだろうし。


「火星センターより[きぬかぜ]、方位044で、速力30,000、そのまま40万キロ直進せよ」

「こちら[きぬかぜ]、りょーかい」

いつでも管制官と相性の悪い航海士はいるもんだ。

シモダ艦長は、そう思った。


「あ、[むつ]だ!」

テレン航海長が大声を出した。


戦艦[むつ]が左舷をすれ違って行く。

点検修理後の試験航行だろう。


「すげーなー」

シモダ艦長も、思わず漏らした。


[むつ]を旗艦とする第4機動艦隊は、近年になく激しい戦闘を経験してきた。


おとめ座スピカ星系での戦闘は、結果的に目標をロストしたが激しく交戦し、過去に行方不明となった艦艇が不明艦隊である証拠を回収することに成功した。


ここまでの戦果と成果を上げれば、ゆっくりお休みくださいと言いたくもなるものだ。


* * *


第1遊撃機動艦隊と[ジョージア]は、20番惑星の陰に隠れてパルサーからの電磁波を避けていた。


「この20番惑星が敵の本拠地という可能性は、どのくらいなんだ?」

俺は、サクラに聞いてみた。


「電磁場の痕跡や、電磁波を帯びた不明船の航跡、PS72と観測地点の距離から算出した電磁場変位率の合致。これらの理論上の証拠からPS72パルサー星系の可能性が高いと推測したわけですが、実査はこれからですので、やはり実証を得てからでないと、まだなんとも確信はむずかしいかと」

サクラは、説明した。


「やはり、自分の目で見てみないと、信じられないもんな」

俺は、半信半疑で言った。


「あれは、セントエルモの火か?」

ヒラセ副長が言った。


俺にも見えた。

セントエルモの火。


地球がまだ人類にとって住みやすく、もっと住める場所があると知らない頃、人類は大きな海を越えることができるような船を作った。

船は3本も4本も太い柱を立て、そこに布でできた帆を張り、風を受けて進み、新大陸や小さな島々をたくさん発見した。

しかし、その航海は海という大自然が相手で、隠れる場所のない大海原で嵐に遭遇すればいくら大きな船でも木の葉のように翻弄され、転覆し、沈没し、多くの犠牲者を出した。

その犠牲者の魂が、船を守るとも、船を恨むとも言われ、舳先やマストに青白い炎となって見えることがある。これがセントエルモの火の伝説である。


それが7200年代の今、宇宙という大海原で、イオンエンジンと核融合原子炉という科学の粋を結集した宇宙軍の艦艇の周りで見えるのである。


[もがみ]をはじめ、全ての艦の艦橋のアンテナ、マストなど、棒状の物の先端部に、俗に言う青白い『ひとだま』が光っていた。


それは神秘的で、とても美しかった。

この宇宙でも、数えきれない人たちが死んでいる。

その者たちの魂の輝きなのだろうか。


「サクラ、セントエルモの火だ。死者の魂が俺たちみたいに航海する者を守ってくれる」

俺はサクラの肩に手を置いて言った。


「あれは、電磁波によるプラズマ放電です」

サクラは、淡々と言った。

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