【81】郵便配達指定日は、728年後
「司令、この情報、ご存知ですか?」
第9機動艦隊[いせ]のブリッジで、通信士官のハトロ少尉が、艦長のスカヤ少将に通信端末を見せて言った。
「なんだ?」
艦長は端末を手に持ってよく見てみた。
「不明艦隊や敵とおぼしき船は、電磁場の痕跡を残していて、これをトレースすることで追跡が可能なようです」
「なんだと?」
スカヤ少将は、すぐには信じられないようだった。
「現実に、今まさに戦艦[ジョージア]が単艦でその痕跡をトレースして航行しています。また、これまでの[ながら]や[あさひ]などの発見された過去に行方不明となった艦についても、この電磁場変位の説が当てはまるようです」
このように、ハトロ少尉は説明した。
「では、[やましろ]も……」
少将は、じっと少尉を見つめた。
「そうおっしゃると思って、もう調べました。
[やましろ]の航跡を電磁場計測したところ、はっきりと痕跡を残しています。これを追えば、[やましろ]を発見できます」
「そうか!よくやった。早速、行動開始だ」
スカヤ少将は決断した。
* * *
シュバーーーンッ!
シュバッ!シュバーーン!
シュィーーン!
シュバッ!シュバッ!シュババッ!
例によって、
トンネルから飛び出たクルマが急ブレーキで止まる。
そんな表現がいちばんピッタリな光景だ。
ミサイル巡洋艦[もがみ]を旗艦とする第1遊撃機動艦隊がワープ空間から通常宇宙空間へ戻ってきたのだった。
ここは、太陽系から728光年離れた、PS72パルサー星系、第20番惑星から32億キロ離れた地点である。
「司令より全艦へ達する。異常の有無を報告せよ」
俺は、全艦に通達した。
しかし、異常が出るのはこれからかもしれない。
前人未到の銀河系外であるし、強力な電波源であるパルサーの近くでもあり、これまでに無い環境であるからだ。
「サクラ、君自身に異常は無いか?」
「今のところ、自覚症状はありません」
「そうか。何か異常を感じたら、すぐに教えてくれ」
俺は、サクラを実験台にしようとしてるのか?
「しかし、ここでの問題点は、通信に時間がかかるという点ですね」
通信士官のタレク少尉が言った。
「そうか、まずいな。
火星本部までの通信に光速と同じ728年かかるのかー」
ヒラセ副長が言った。
「直近の異次元通信中継機まででも約220光年離れているからな」
これは、俺が暗算して言った。
銀河系内であれば、ワープ航路用に調査済みの異次元空間に通信用中継機があるからだが、PS72星系から一番近い中継機まで220光年離れているということだ。
「単独でワープ航行できる最小艦艇はなんだ?」
俺はみんなに尋ねた。
ワープは光よりはるかに速く目的地に到達できるので、光と同じ速度の電波通信より、ワープで情報を運んでしまった方が速い。
「脱出ポッドじゃ無理ですしね」
と、航海長。
「舟艇でもダメですね」
と、戦術長。
「戦闘機とかの艦載機では?」
戦術長はやった!とばかりに言ったが、
「とにかく、プラズマEMドライブエンジンが無いと」
と、機関長。
「あ、そうなのか」
副長が、がっかりした。
「今の第1遊撃機動艦隊でのワープ可能な最小単位は駆逐艦ですが、他の艦隊にある魚雷艇や潜宙艦ならできますよ」
サクラが提案した。
「じゃー、ワープ可能な小さな艦艇を他の艦隊から借り受けて、通信用に使うか」
俺は言った。
「それが一番、現実的ですね」
サクラが同意した。
「それとサクラ、HDでその通信部隊を編成してくれ」
「かしこまりました」
「じゃー、まずは駆逐艦でこの第1報を届けるか」
「わかりました。通信部隊を編成します」
サクラは、仕事にとりかかった。
一時間後、
「通信用HDを30体選抜し、用意しました」
サクラは、言った。
「ご苦労。では、[きぬかぜ]のシモダ艦長に、第1回目の駆逐艦による連絡についての計画を伝えてくれ」
「かしこまりました」
サクラは、答えた。
* * *
「方位000、距離5,000、重力の歪み地点です」
航海長HDが、戦艦[ジョージア]のケサン艦長に報告した。
「よし。そこからワープだ」
「ワープ、了解。」
艦長の命令に、HDが答えた。
「イオンエンジン出力100%」
「出力100%、アイ」
艦長が命令し、HDだけが復唱する。
こういう時は人間の士官に復唱してほしい。
ケサン艦長は、思った。
「距離、2,000です」
報告は、HDの方が正確だろうが。
「よし、エンジン切り替え準備」
「エンジン切り替え準備、アイ」
「距離1,000です」
「プラズマEMスタート、イオンエンジン、オフ!」
「プラズマスタート、イオンオフ、アイ」
[ジョージア]のエンジンノズルから眩い光が放出され、光跡を曳いて[ジョージア]は消えた。
約1分後、
[ジョージア]はPS72パルサー星系に現れた。
第20番惑星から約32億キロ離れた地点に。




