【79】ぼんやり見えてきたパルサー
「司令より全艦へ達する。本艦隊はこれより方位275、122,000キロ先の重力の歪みから、ワープ航法で約248光年先のPS72パルサー星系へ向かう。
我々は今、銀河系の縁にいる。ここから先は未開の地である。全員、気を引き締め軍務に当たるように。以上」
俺は、[もがみ]のブリッジで、全艦に通達した。
今はこの窓の外に多くの星が見える。
多くの星の集まりの中にいるからだ。
銀河系の中心の方を見ると、さらに多くの星がひと筋の白い川のように見える。
天の川だ。
これが『天の川銀河』と呼ばれる由来だが、この光景はウチらの住むこの『天の川銀河』に限ったものではない。
他のどこの銀河系でも見られる光景だ。
「現在、方位275へ、速力50,000で航行中」
航海長のノラン中尉が報告。
「ベリーウェル」
俺も、たまにはカッコつけて返答する。
「司令、艦の電波望遠鏡でPS72星系の詳細が見えてきました」
サクラが報告する。
「サクラは、専任曹長というより科学士官だよね」
俺は言った。
「私も、その方がシックリきます」
サクラも、まんざらではなさそうだ。
なにせ科学的データの蓄積やそれへのアクセスは、サクラなしではスムーズにいかないだろう。
「PS72は、『マグネター』というカテゴリーに分類される、電波を規則的に射出するパルサーです」
サクラは、[もがみ]の艦橋にレーダーやアンテナなどと一緒に設置されている、小型高性能電波望遠鏡で捉えた画像を見せた。
「串だんごみたいだな」
黒灰色の球体の真ん中に、青白い串が1本突き刺さっている画像を見て、俺は思わず言ってしまった。
「その球体が中性子星の本体で、超高速で回転していて、ものすごい重力を持っています。もし、それよりも収縮してさらなる重力を持ったら、ブラックホールになったでしょう。恒星が一生を終えて超新星爆発を起こした後、中性子星になるかブラックホールになるか、その選択の過程は、非常に興味深いものがあります」
サクラは、興奮気味に説明する。
「へーーー」
俺は、それしか言えなかった。
「中性子星は、ブラックホールになれなかった天体で、非常に強力な重力で周りのガスやチリを巻き込んでいます。それが回転軸のように上下へジェットのように吹き出して、串だんごのように見えるのです」
「へぇーーーーー」
「パルサーには何種類かあって、PS72は電波を規則的に発する強力な電磁場を形成する『マグネター』タイプのパルサーです。まー、宇宙の発電機みたいなもんです」
「ほぉーーーーー」
「で、このPS72星系には27個の惑星があることが分かりました。またそれらの惑星にはそれぞれ衛星があり、その合計は500個以上になります。
そして、この星系での生命の可能性ですが、パルサーの電磁場の影響は生命にとって極めて脅威であるため、この電磁場の影響が少なく、かつ、水が液体でいられるハビタブルゾーン内に位置する惑星または衛星が候補となります。
それを考慮して計算した結果、最も有力なのが、第20番惑星とその衛星3個となります」
サクラの説明が終わった。
「PS72第20番惑星か」
俺は言った。
「はい。
ただし、この惑星に接近する場合は、必ずPS72を迂回する航路でなければなりません。
PS72に近付くと、艦は破壊されます。
また、PS72からの宇宙ジェットの放出方向も避けてください。これまでの宇宙での生命の絶滅は、遠方のパルサーの宇宙ジェットの影響である証拠が示されているくらいですから」
「この串だんごの串の先にある星の生き物は、全滅してしまうってことか?」
「そういうことです」
「その星で生きてたら、避けられないじゃないか」
俺は、大声で言った。
「それが物理の、宇宙の、法則です。
偶然でもなければ、たまたまでもない。
何らかの原因があって、その結果となるだけです」
「それじゃー、その生き物が可哀想じゃないか」
俺は、なんだか悲しくなってきた。
「生物は、宇宙のために存在していません。宇宙や物理の法則を満足させるのに、生命は特に必要ないのです」
「じゃー!サクラは、なんのためにいるんだ?!」
「私は、人間が自分たちのために必要な物として作られた物です」
俺は、俺は何のためにいるのか?サクラに聞こうと思ったが、やめた。
それは、自分で考えるべきだろう。
* * *
戦艦[ジョージア]はただただ静かに、電磁場ハイウェイをトレースして航行するだけだった。
艦長のケサン少将は、無重力用容器に注いだスコッチを片手に、いつも窓の外を眺め、たまにHD相手に昔の思い出を語ったりしていた。
「さて、目的地もハッキリしたことだ。
直近のジャンプ・アップ・ポイントを計算してくれ」
ケサン少将は近くにいたHDに指示した。
想い出に浸っていても仕方がない。
私の仕事は、戦うことだ。
ケサン少将は艦長室を出て、
ブリッジへ向かった。




