【75】新たな不明船の目的は?
「エンジン出力80%、速力30,000」
俺は、航海長のノラン中尉の報告を受けた。
[もがみ]ではブリッジの部署長の刷新がおこなわれたので、名前と階級を覚えるのが一苦労だ。
しかもみんな、人間でありながら、俺とは違う。
バージョンアップした未来人なのだ。
まあ、そういうことができてしまう未来なんだから、仕方ない。
現実として俺がその時まで生きていることはない。
俺は、虫歯になったら歯医者で治すが、俺の未来の子孫は虫歯にならない。
腕の骨を折ったら半年くらい石膏で固められてしまうが、未来の子孫の骨は3日でくっつくだろう。
あ、そう言えば、
「副長、君たちもバージョンアップするんだろ?」
「はい」
ヒラセ副長は答えた。
「その、スキルアップモニターで?」
「この腕のモニターはあまり意味はありません」
「と言うと?」
「情報は全て見えるからです」
「見える?」
「目の中に、必要な情報が写しだされます」
副長は説明した。
「じゃぁ、目の中でパソコンみたいに色々見えるのか」
「そうです。このへんにスキルレベルメーターがあります。そしてこのへんに、身体機能の状態が表示されています。どこかから着信があると、ここらに相手の顔が写ります」
副長は空中の一部を自分の視界として切り取って、色々な表示が出る場所を手で示した。
「痛い目に会うと、ヒットポイントが減るのかい?」
俺は、ふざけて聞いてみた。
「もちろんですよ。HPが0になったら生命機能が停止します。それを防ぐために、常時メーターが見えているのです」
えーー!!マジなのか!
「ヒットポイントを回復させるのはどうするの?」
やっぱり、宿屋に泊まるのか?
「食事をしたり、睡眠をとったり、または治療とか」
あーーー。なるほど。
まー、だいたい、思った通りだ。
「死んだら、教会で生き返るとか………」
俺は、思いきって聞いた。
「そんなのはありえないでしょー」
副長は笑って言った。
「ちゃんと、医療機関で生き返ります」
俺は、開いた目も口も、閉じられなかった。
「現在、方位000、速力100,000」
ノラン航海長が報告した。
「航海長、君の今のヒットポイントは?」
俺は、ノラン中尉に聞いた。
「司令、それは憲法で保障された個人情報です」
「あ、そうなのか」
「人の状態は、究極の個人情報です。それが分かってしまうと、どの程度で相手が死ぬか分かってしまいます」
うわっ、そう言われれば、そうだ。
「さて司令、トロッコで行きますか!」
副長が言った。
「あ、あ、そ、そーするか」
俺は、少し未来を理解して、慌ててしまった。
「航海長、機関長、トロッコ・フライ、準備」
副長が命じた。
「トロッコ・フライ、準備、アイ」
* * *
「現在速力50,000、目標まで450,000です」
戦艦[いせ]の状態だ。
「相手は1隻だな?」
「はい」
レーダー担当士官は答えた。
「目標の速力は?」
「30,000です」
「追い付くなー」
「はい」
「艦影をデータベースと照合せよ」
スカヤ艦長は、CICの戦術長に伝えた。
「CICより艦長へ。目標は、6978年に行方不明となった、戦艦[やましろ]です」
「分かったー」
スカヤ艦長は、答えた。
たしか、こいつもワープアウトの時に行方不明になった艦だ。この共通した事故原因が究明できれば、今後の事故防止に繋がるはずだ。
「目標まで、300,000。[ながと]まで550,000です」
「分かったー」
* * *
「航海長、電磁場変位を追いながら出せる最大速力を算出せよ」
[ジョージア]のケサン艦長は、航海長のHDに命じた。
「レーダーのミドルレンジ内なら探知できますので、最大500,000は出せます」
「よし、では航海長、500,000だ」
「速力500,000、アイ」
ドァーーーーーン!
[ジョージア]はエンジン出力を上げ、急加速を開始した。
「現在、速力350,000」
艦長の体が、椅子に押し付けられる。
「航海長、障害物には注意せよ」
「アイアイサー」
航海長HDは答える。
ドォーーーーー!
加速は続く。
「現在、速力400,000」
「測距長、電磁場はトレースしてるか?」
「はい。大丈夫です」
艦長の問いに、レーダー担当HDが答えた。
「よろしい」
「現在、速力450,000」
「機関、正常」
アルデバランまでもうすぐな気がする。
「速力500,000。加速中止」
ドォーーーッ……………シュィーーン、シュン、シュン
エンジン音が急激に小さくなる。
振動も収まり、
体が急に楽になった。
「航海長、アルデバランは近付いたか?」
「はい。気のせい程度ですが」
「お前は、冗談の言えるHDなんだな」
艦長は、寂しくない気がした。
「しかし艦長、電磁場ハイウェイが、少し直線ではなくなっています」
「どういうことだ?」
ケサン艦長には、すぐには分からなかった




