【74】第9機動艦隊[いせ] と 第6機動艦隊[ながと]
08:40
「サクラ、点呼完了してくれ」
「司令より全艦に達する。あと10分で点呼完了報告するように。なお、点呼時不在者は、所定の手続きをおこなうこと。以上」
サクラが全艦に通達した。
「よし、出航準備」
「出航準備、アイ!」
俺の命令に、ヒラセ副長が答える。
「出航準備!」
「出航準備!」
がぜん、ブリッジが賑やかになる。
「機関、エンジンアイドルスタート」
「エンジンアイドルスタート、アイ!」
ヒュー、ヒューーーン、キュィィーーーーーーーン!
エンジン音と振動が、ブリッジに伝わってくる。
08:50
「司令、点呼完了です」
「よろしい」
サクラの報告に、俺は答えた。
「各部署、報告!」
副長が言った。
「測距、準備完了」
「戦術、準備完了」
「機関、準備完了」
「司令、ブリッジ、準備完了です」
副長が報告した。
「よろしい。じゃ、行きますか」
09:00
「出航!」
俺は、命じた。
「出航!」
「出航!よーそろー」
「出航、アイ!」
「微速前進!」
ウィーウィーーーウィーーーーーウィーーーーーーン
「微速前進、エンジン出力20%」
体が艦長席に押される。
俺は、この出航の感覚が大好きだ。
* * *
「目標までの距離は?」
戦艦[いせ]のスカヤ艦長は、航海長に聞いた。
「750,000です」
「よし、レーダーレンジ、ミドルまで接近しよう」
艦長は、航海長に指示した。
「了解。500,000まで接近します」
「ミドルレンジになれば、数も分かるな?」
「はい。船の数が分かります」
「よし。戦術長、戦闘準備」
艦長は、戦術長に命じた。
「戦術準備、アイ。CIC入ります」
戦術長は、CICへ入った。
「司令より全艦へ、1列縦隊!」
「1列縦隊、アイ」
第9機動艦隊は、駆逐艦を先頭に、重巡、戦艦の順番で
中央に[いせ]を置く1列に並んだ。前方からのレーダーに写りにくくするためだ。
「目標、距離650,000」
「よろしい」
「こちらCIC、戦闘準備完了」
「よろしい」
第9機動艦隊は戦闘準備を整え、目標との距離を詰めていった。
「そうだ、航海長、このまま直進したとしたら、どこへ行くか計算してくれ」
「了解しました」
艦長は、不明艦隊の行先が気になった。
「距離500,000です。ミドルレンジへ切り替えます」
「よろしい」
「艦長、目標地点が分かりました」
「どこへ向かっているんだ?」
「このままですと、太陽系の天王星です」
「天王星?」
スカヤ艦長は、不思議に思った。
「船の数は?」
「戦艦クラス1隻です」
「また不明船1隻で、捕獲しに来たのか」
艦長は悩んだ。
しかし、まずは、相手の正体を確かめる事が第一義だ。
「か!艦長!大変です!ワイドレンジレーダーに感!」
ニトヤ測距長が大声で報告した。
「どうした?」
艦長は落ち着いている。
「距離950,000に艦隊がワープアウトしてきました」
測距長が報告する。
「なんだと?」
「方位016、不明艦隊の反対側450,000の位置です」
「今度は、一体なんなんだ?!」
艦長も不意の出来事で、少し驚いた。
「こちら第6機動艦隊[ながと]、第9機動艦隊[いせ]応答せよ」
「ああ?![ながと]だと?!」
「こちら[いせ]、[ながと]どうぞ」
通信担当士官が答えた。
「スカヤ艦長、お久しぶり、[ながと]艦長、ウスダ少将です。てんびん座方面を航行中、貴艦隊の応援要請を受信いたしましたので、要請にお応えするとともにスカヤ艦長のご尊顔を拝したく、参上つかまつりました」
「いやいや、ウスダ艦長、ご丁寧なご口上、誠に恐れ入ります。現在、本艦隊の前方500,000を航行中の不明船を追尾中であり、まずは正体を確かめんとしているところですので、ご協力をお願いいたします」
「[ながと]かしこまってございます」
[いせ]と[ながと]両艦のブリッジにいる士官たちは、何十世紀も昔のヤクザ映画の中にいるような錯覚に陥っていた。
ここにいる人たちは、着物姿で仁義を切るヤクザなど知る由も無いだろうが、バージョンの新しい人間のデータベースには入っているのかもしれない。
なにせ、2体のHDが腰を落として足を開き、右手を前に伸ばして「お控ぇーなすって」の格好をして語り合っているのが、それを物語っていた。
* * *
戦艦[ジョージア]は相変わらず静かに航行していた。
満天の星ぼしが、またたくことなく輝く暗黒の宇宙空間。
文字にすると、矛盾しているような印象を受ける。
そこに目に見えない一本の道が続いている。
[ジョージア]は、電磁波検知器でその見えない道をトレースして進んでいた。
「艦長、よろしいでしょうか?」
突然、航海長席のHDが話を始めた。
「どうした?」
「微妙に電磁波が変化しています」
HDが言った。
「もう少し詳しく」
「長い距離間で比較して分かったのですが、進むにつれて、わずかですが電磁波が強くなっています」




