【64】[ながら] 臨検
その6977年に行方不明となった、重巡洋艦[ながら]が、目の前にあった。
太陽系と銀河系の縁との中間地点あたりで、駆逐艦[しらかぜ]を代理旗艦とする第1遊撃機動艦隊6艦のアンカーが打ち込まれ、まさに張り付け状態で神妙にしていた。
そして[ながら]には各艦からの警備班が乗り込み、臨検を実施しようとしていた。
「こちら[はまかぜ]、[しらかぜ]どうぞ」
第1艦隊のうち[はまかぜ]は、[ながら]を捕獲する直前に解放された[SRL5150便]の保護に別動していた。
「こちら[はまかぜ]、[5150便]の乗員乗客は、ダメだ」
「いったい、どうしたんだ?」
俺は、、アツシに聞いた。
「俺は、まだ高校生だぜ?ほんとは」
「だから、なんなんだよ?」
「死人を見たのは、初めてなんだよ」
アツシは、マジ嫌そうに言った。
「そうなのか」
「それも、普通じゃないからな!悪いけど、吐かせてもらったよ!」
俺にそう言われても。
「どうなってたんだ?」
「思い出しただけでも、吐きそうなんだよ」
「じゃ、ウメは見てないのか?」
俺は、アツシはムリだと思って聞いた。
「あ、そうか、ウメに説明してもらうわ」
アツシは、ウメと交代した。
「こんにちは司令、ウメです」
「ウメ、久しぶり」
「早速ですが、乗員乗客2,580名、全員死亡です」
「そうなのか。原因は?」
「トラクター・ビームが原因かと思われます」
「トラクター・ビーム?」
俺は、ウメに聞いた。
「高周波電磁波に長時間曝されたようです」
「電子レンジ状態だったのか」
「はい」
「そうか、ご苦労だった。
ついでですまないが、詳細を火星の作戦司令部へ送っておいてくれないか」
「了解しました」
* * *
「艦尾右舷減圧室ドア、手動開扉します」
「よし、開けろ」
[ながら]に乗り込んだ警備班からだった。
警備班は、ドア横のボックスを開け、中の手動レバーを上下させて、減圧室へのドアを少しずつ開けた。
シューッと中の空気が艦外へ吐き出された。
警備班がレバーを動かし、さらにドアを開ける。
減圧室のドアは外と中で、一方が閉まっていないともう一方は開かないしくみになっている。外から手動で開くということは、中の隔壁は閉まっているということだ。
ドアが開くと、警備班が20名ほど中に入った。あとの10名は、甲板で警備に着いた。
「くそ、面倒くせー」
中に入った警備班がボヤいた。
電力が落ちているらしく、外のドアを手動で閉めないと、中の隔壁が手動でも開かない。
「[あきかぜ]班、[きぬかぜ]班、艦首左舷より入りました」
「警備班リーダー了解。気を抜くな」
ネルテ警備班長が答えた。
「こちら臨検リーダー、入りました」
臨検リーダーは、サクラだ。
「[しらかぜ]了解。気を付けろよ」
「了解」
今、[ながら]には150名くらい乗り込んでいる。
艦内は電力が落ちて、真っ暗である。
全員、ヘルメットと武器に付けられた照明を頼りに捜索している。
「[あきかぜ]班、艦首部分を艦底から上がってくれ」
「了解」
「[しらかぜ]班は、艦橋及びCICへ」
「了解」
「[いそかぜ][つきかぜ]班は、機関室へ」
「了解」
「[さわかぜ][きぬかぜ]班は、艦尾及び武器庫へ」
「了解」
「各班の艦外警備担当も頼む」
「了解」
全て、サクラと警備班長が指示をした。
「全ての電力が落ちてます」
隊員がそれぞれ独り言のように報告する。
「甲板は異常なし」
「この先が機関室だ」「行ってみよう」
「そこを上がるとブリッジだ」「オッケー」
「兵器保管庫に、ミサイル、魚雷は無し」
やはり、ミサイルや魚雷は無かったのか。
「ミサイル発射管が改造されています」
なんだって?
「今の報告を詳細にせよ」
サクラが問い掛けた。
「ミサイル発射管が……、一体、どうなっているのか、とりあえず、これでは発射できません」
「ミサイルは装填されていないのか?」
サクラが聞いた。
「はい。装置が詰まっています」
「これは、もしかすると……」
別の隊員の声が入った。
「詳細を報告せよ」
サクラが報告を促した。
「トラクター・ビームの発射装置かもしれません」
隊員が言った。
「………なるほど………」
サクラの納得したような声が聞こえた。
「ブリッジ、クリア。誰もいません」
「CIC、クリア」
隊員の捜索が行き渡り、艦内の様子が分かってきた。
「機関室、クリア。誰もいません」
「艦長室、クリア」
「艦首、ミサイル発射室、クリア」
「警備班長ネルテより、サクラ副長へ」
「警備班長どうぞ」
「艦内ほぼ捜索しましたが、無人のようです」
「了解。ご苦労さまでした」
「副長より「しらかぜ」へ」
「[しらかぜ]艦長だ」
「司令、お聞きの通りです。第1次捜索終了します」
「よろしい。ご苦労だった」
俺は、臨検を終了した。




