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PS72パルサー星系防衛軍  作者: 星野 光一
63/132

【63】重巡 異次元空間迷走

「こちら[もがみ]、[しらかぜ]どうぞ」

ミサイル巡洋艦[もがみ]の艦長代理のヒラセ大尉が[しらかぜ]を呼び出した。


「こちら[しらかぜ]、[もがみ]どうぞ」

「本艦はこれより、火星ハンガーを出航し、貴艦方面に向かう。詳細は適宜報告するので、対応願う。以上」

「[しらかぜ]了解」


「ブリッジより機関へ、

イオンエンジン、アイドルスタート」

「機関、了解」

ヒラセ大尉は、[もがみ]を始動させた。


ウォーーーーーン

微かな音が響きはじめた。


ピューーー

ピピピ

プププーーー

ブリッジでも色々な音がコンソールから鳴りだした。


火星基地の大型艦艇用B-1ハンガーから空気が抜かれ減圧された。ハンガー内には[もがみ]のエンジン音が響いていたが、全く聞こえなくなった。と言うより、宇宙服を着用せずにそこにいることができないだけなのだが。


B-1ハンガーの巨大な半球状のドームが4分割開口し、宇宙空間が見え始めた。


「エンジン出力、30%」

「30%、アイ」

ブリッジ内に響く微かな音が少しずつ大きくなる。


「艦長代理、ハンガー全開しました」

「よろしい。アンカー解除」

ヒラセ艦長代理が命令する。


「アンカー解除、アイ」


グ、グ、グゥーーーーーーーン

艦をハンガー内に浮かせて固定していた、アンカー6本が巻き上げられていく。


「下方スラスター噴射、100メートル上昇」

パシュッ

パシューッ


艦の下部スラスターが微噴射され、[もがみ]はハンガーの上空100メートルで静止した。


「さて、お届けに参りますか」

[もがみ]はエンジンを噴射して、水平航行を始めた。


* * *


6977年の太陽系は、20世紀の東京のようなものだった。


当時の東京は、一般道や首都高速道路、新幹線や在来鉄道などが縦横無尽に張り巡らされ、すでに世界に冠たる成熟した都市になっていた。


しかし、経済の発展も都市の拡大も徐々に郊外へ膨張し、都心部の交通網の整備は、上か下へ拡大するしかなくなっていった。


つまり、道路や鉄道は、高架化されるか、地下化されるか、ということになる。


東京の地表と高架は、宇宙空間と同じで、可視化し地図として表すことができる。東京の地下は、全てを目で俯瞰することはできないが、地図上では理解できる。


そして、その隙間を埋めるように避けるように地下鉄を建設していけばよかった。宇宙ではこの地下にあたるのが異次元空間であり、その空間を利用するワープ航路が地下鉄にあたるわけだ。


しかし、見える地上と違って、見えない場所というのは、なかなか厄介なものだった。


最初の全体把握はもちろん、運用後の変化も細心の注意を払わなければならない。


異次元空間で事故が起きれば、通常空間に戻れなくなる可能性があるからだ。


ワープ航方は、かなり以前から実用化されていて、広大なスペースでは通常の範囲内での運用で問題無かったが、空間が過密になってくると事故の可能性が高まる。


ということで、そのへんの安全対策が軍に求められることとなり、航路調査艦隊という、戦闘を目的とするというよりも、安全維持管理的な艦隊の必要性が高まったのである。


この時も比較的短距離の30光年程度のワープ航路を調査するために、重巡洋艦[いしかり]を旗艦とした巡洋艦3艦、駆逐艦5艦編成の第355航路調査艦隊が、検測通りのジャンプ・アップ・ポイントへ飛び込んだ。


しかしこの頃、調査要請の増加に対し、艦隊の増強が遅れ、法律で定められた艦の定期検査などが、期日までに必ず実施しなければならないという原則から、現在遂行中の調査から帰還後でもよい、という運用上の緩和がなされた。


「各艦、異常はないか?」

「全艦、異常なし」

「まずは、Aポイントだな」

「はい、あと3分です」

艦長のスラン中佐と航海長のやりとりである。


「直衛駆逐艦[やまかぜ]より[いしかり]へ。本艦は通信アンテナに異常が発生した模様。このワープ終了後、艦隊離脱を要請する」

「こちら[いしかり]、[やまかぜ]了解した」


「間もなく、Aポイントです」

航海長が報告した。


「よろしい。ここで[やまかぜ]は離脱する」

スラン艦長は、全艦に通達した。


「残りの艦は、このままBポイントへ向かう」

[いしかり]と並走していた[やまかぜ]が、わずかに上方へ進路を変えると、そのまま姿を消した。


「こちら[いしかり]、[やまかぜ]は離脱したが、他に異常が発生した場合は、即時報告するように」


「[ながら]より[いしかり]へ、本艦、レーダー画面にわずかな不調を認める。この航行終了後、点検過程に移行することを要請する」


「[いしかり]了解。Bポイントを逃さないように」

「[ながら]了解」

[いしかり]と[ながら]は通信を切った。


「艦長、間もなくBポイントです」

「よし、ワープアウト!」

スラン艦長は命じた。


「[ながら]!、ワープアウトだ!」

「…………」

[いしかり]、[きたかみ]、直衛駆逐艦4艦が宇宙空間へ戻った時、重巡洋艦[ながら]だけは、戻らなかった。

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