【60】第1遊撃機動艦隊 交戦
「イオニ君、ちょっと同席してくれ」
宇宙軍火星本部総司令部、総司令官のイアナ提督は、副司令官のイオニ中将を司令官室に呼び入れた。部屋には、防衛局、海兵局、情報局の各局司令官が先に座っていた。
「忙しい中だとは思うが、最近の異常事態について、我が軍とともに3局と協力し、解決策を見出だしたくご足労いただいた」
軍を中心として、関係各局と情報共有し、現在の状況を打開しようという提督の提案であった。
「私は、今回の出来事は全て関係性があるか無いかの部分が気になるのですが」
防衛局総司令官のウナレ提督が発言した。
「個別の事案から共通点を洗い出して、精査すべきと考えますが」
情報局参謀のサキラ少将が言った。
「不明艦隊だとか、我々を攻撃してくるものがあるなら、それは敵であろう。ならば即刻、敵の本拠地を叩けばよかろう!」
海兵局のエント将軍が怒鳴った。
各局の特徴がよく現れた会議だと、イオニ中将は思った。
「よく分からないのが、過去に行方不明になった艦艇が関わっているらしいというところなんですが」
防衛局だ。
「では、当局で過去に行方不明となった艦艇の詳細な情報をご提供いたしましょう」
こう言ったのは、もちろん情報局だ。
「では、過去に行方不明になった艦艇は、今までどこにいたんだ?!」
海兵局らしい言い分だ。
イオニ中将は、人類バージョン2.6.5である。
中耳の部分の器官が進化操作されていて、特定の電波を受信し、骨を極微振動させて音波を聞くことができる。
つまり、中将だけに通じる電波で、中将だけ情報を受け取ることができる。
今もイオニ中将はこれを利用して、耳に軽く手を当てて
何かを聞いているふりをして、部屋を出た。
同席していても意味の無い会議だと思ったからだ。
中将の進化した頭脳の記憶野には、行方不明になった艦艇の情報など、もうすでに蓄積されていた。
* * *
第1遊撃機動艦隊は、銀河系の縁へ向けて、トロッコ・フライを続けていた。
「司令、明日の1200時にミサイル巡洋艦[もがみ]が火星基地を発進するようです」
サクラが伝えてきた。
「こっちまで持って来てくれるのか?」
俺は、サクラに聞いた。
「そのようですね。いずれランデブー地点を連絡してくるでしょう」
「そうか。楽しみだな」
俺は、艦長席のディスプレイで、[もがみ]の映像を見てみた。デカい艦だ。
装備も充実していて、カッコいい。
諸元を見てみると、レーザー砲やミサイルなどの射程距離も伸びているようだ。
こいつの艦長になるのかー。
ピーーーッ
探知警報だ。
「減速!」
俺は、大声で言った。
「トロッコ・フライ、中止!、耐衝撃防御!」
ハロヤ航海長がコールし、緊急停止ボタンを押した。
各席のベルトが自動的に締まった。
と、ほぼ同時に体が前方に引っ張られるGが掛かった。
「機関よりブリッジ、素粒子放射、停止」
「ブリッジより機関へ、了解」
サクラが機関室とやりとりする。
艦の減速が続く。
「探知目標、方位009、上下プラス2、距離100,000、敵味方識別信号無し」
サクラが報告した。
「船か?」
俺は、聞いた。
「の、ようです」
「ナジラ戦術長、戦闘準備」
サクラの答えを聞いて、戦術長に命令した。
「現在、速力100,000、さらに減速中」
まだ体が前方に引っ張られる。
「サクラ、他の艦は?」
「全艦、減速中です」
さすが、俺の艦隊だ。
「現在、速力50,000、距離80,000、目標は2隻です」
「2隻?」
俺は、サクラに聞き返した。
「おそらく、不明船に牽引された[SRL5150便]かと」
サクラは、推測を述べた。
「目標の速力は?」
「速力、20,000です」
「よし、減速中止、このまま追跡」
「現在、速力40,000。速度維持、アイ」
俺の命令に、サクラが答えた。
「方位変わらず、距離50,000、
目標、トラクター・ビーム、解除しました」
「なに?!」
サクラの報告に、俺は、身を乗り出した。
「不明艦と思われる目標は、加速逃走態勢、
解放された目標は、惰性航行中」
「よし!本艦は、不明船を追跡!
[はまかぜ]に解放された船の保護を伝えよ」
「アイアイサー」
[しらかぜ]は加速を始めた。
「現在、速力60,000、前方に民間船」
旅客船が目視できた。
駆逐艦より少し大きい程度の船だ。
[しらかぜ]は、[SRL5150便]の数百メートル横を通り抜けて、逃走する不明船を追った。
「戦術長、目標がおかしな動きをしたら、撃て」
「アイアイサー」
ナジラ戦術長が答え、兵装のコントロールパネルを操作し始めた。
ブリッジの左側の窓を見ると、
[いそかぜ]と[あきかぜ]が並走して来ていた。
「目標!レーザー発射!」
「回避!」
艦が回避行動で揺れると同時に、[しらかぜ]と[いそかぜ]の間を敵のレーザー砲が撃ち抜けた。




