【59】20世紀の遺産とともに
「司令、間もなく、小惑星帯を離脱します」
サクラが報告した。
「よろしい」
俺は、答えた。みんな無事かな?
「サクラ、他の艦の状況は?」
「特段の報告はありません」
俺の問いにサクラは、無事だと言う意味で答えた。
「司令、トロッコでいきましょう」
サクラが提案した。
「目標物が探知できるか?」
「いずれにせよレーダー探索しながらですので」
「なるほど。じゃ、半速でどうかな?」
「いいですね。賛成です」
俺の提案に、サクラが賛成した。
「じゃ、全艦に連絡してくれ」
俺は、サクラに全艦通達を頼んだ。
「航海長、トロッコ・フライ準備」
「トロッコ準備、アイ」
ハロヤ航海長が色々と操作を始めた。
「ブリッジより機関へ、原子炉出力50%」
「機関、原子炉出力50%、了解」
[しらかぜ]の機関室では、イオンエンジンとともに
核融合原子炉の出力がアップされた。
ウィーー
わずかな音と微かな振動が、ブリッジに伝わる。
「機関よりブリッジ、原子炉、現在、50%オン」
「ブリッジより機関へ、原子炉出力100%へ」
「原子炉出力100%へ、アイアイサー」
「司令、現在速力100,000、原子炉出力70%」
「よろしい。他の艦は大丈夫か?」
俺は、サクラに問い返した。
「各艦、順調に追随しています」
「よろしい。出力75%で、トロッコ半速スタート」
「よーそろー」
サクラが答えた。
* * *
「こちら[ジョージア]、現在単艦航行中。くじら座ミラ星系、惑星ミラ・アルファから、電磁場異常軌跡を探知追跡中。現在の推測として、おうし座アルデバラン方向へ進行中」
くじら座ミラ星系で交戦痕跡を残したまま行方不明となった、旗艦を[ルイテン]とする第5防衛隊が、電磁場の変位軌跡を引きながら移動して行っている確信を持った[ジョージア]艦長のケサン少将は、電磁場軌跡の延長線上におうし座のアルデバランがあることに気が付いた。
アルデバランは地球から65光年ほどの位置にある、橙色巨星である。内部の水素による核融合反応が終わりに近付き、赤色巨星になりつつある途上の恒星だ。現在は半径だけで比較して、太陽の44倍の大きさに膨張している。
1972年にアメリカ航空宇宙局NASAによって、木星探査機[パイオニア10号]が打ち上げられ、翌1973年に木星に最接近し探査をおこない、2000年代始めに運用を終了して、通信も途絶えた。そして、その時の計算では、[パイオニア10号]はそのまま20万年かけてアルデバランへ到達するだろうとされた。
この[パイオニア10号]には、探査機や、太陽系での地球の位置や、人間の男女の絵などが刻まれた金属板が搭載され、地球外生命に遭遇、回収され、人類の存在を知ってもらうことを期待された探査機である。
[パイオニア10号]は、運用終了後も宇宙空間を飛び続けているはずなので、この7258年においても、木星とアルデバランを結んだ線上のどこかにいるはずだ。
そんな遺跡のような探査機が飛んでいるなどとは露知らず、戦艦[ジョージア]も電磁場の変位というレールに乗って、アルデバランに向かって航行していた。
* * *
「そこでだ大尉、こんな状況で、どのように処理していけばよいものか」
戦艦[カリフォルニア]の艦長室で、艦長のカジン少将と回収調査官のタトル大尉が協議を続けていた。
「救難救助隊は、どうしているのですか?」
大尉は聞いた。
「それがだ、1,000名の隊員が意気盛んに出動したものの、現場の凄惨さに耐えられず、現在待機中だ。
無理も無い、20,000人分のバラバラ死体が、文字通り血の海に浮いているらしい」
「それは酷いですね」
「しかも、その光景に耐えられず、ヘルメット内で嘔吐してしまった隊員174名が窒息死してしまった」
「酷い…………」
少将の説明に、大尉は絶句した。
「ばかデカい船3隻分の残骸と、20,000人分の死体と、どうやって回収するか……」
「かなり、困難ですね……」
大尉は難しい課題に取り組まなければならなかった。
「まずは、救助隊の増員計画と、隊員の生活圏の確保が必須かと」
大尉は提案した。
「増員要請については、すでに現地大隊長からも出されているが、私からも要請しよう」
少将は、1件目については方向性を示した。
「隊員の生活についてですが、スペース・ギャラクシー・エアに協力要請し、大型旅客船を提供してもらってホテル代わりに利用するのが適当かと」
「なるほど、ビッグ・ベアなら隊員の増員がおこなわれても快適な生活が可能かもしれんな」
「隊員には通常の生活とともに、余暇や娯楽、医療やメンタル・ケアが必要になる可能性も考慮すべきかと考えます」
「よし、大筋は分かった。口頭では要請を進めておくので、正式な計画書と要請書の作成を頼む」
少将と大尉は、計画の詳細な詰めに入った。




